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赤道を横切る:第11章 シャム海

10月13日、航海中、午前11時10分仏印南端オビ島灯台を距離18カイリ半に航進、シャム海【現在のタイランド湾】に向け転針西北に進む。この日スコール来襲、北西の軟風、小波、気温81度。終日書見。夜、班長会議。磐谷【バンコク】上陸に際し服装の注意ならびに陸上宿泊の件につき協議す。

10月14日、航海中、午前11時5分バイ島灯台前を距離5カイリに通過、バンコク河口に向け転針。スコールあり、北北東和風、白波立つ、気温82度。終日書見、無事。

10月15日、午前2時15分バンコク河口。水先所到着、水先人乗船、吃水整調の上4時5分、バンコクに向い、5時バンコク沙洲上通過。その頃船長は船橋で頑張っていたであろうが一行はいずれも就寝中。5時45分ガラガラ投錨の声に目覚めて、ハヤ着港かと起き出してみると、それはバクナン検疫所前、メナム河【メナーム川】右岸であった。6時5分移民官、検疫官並びに税関吏が乗り込む。左岸には寺院らしい尖塔が物珍しく、まず象の国シャムにたどり着いたような気持ちとなる。それより遡江26カイリ、一行は朝食もそこそこで両岸の景色に見入る。河岸にある浮家は水上生活者らしく点々として散在している。ニッパ葺【にっぱぶき:ニッパ椰子の葉でふいた屋根のこと】の代わりに亜鉛板を用いたのは、何となく震災後のバラックを思わせ、周囲の様子に不似合いで折角の異国情緒を破壊する。

鳳山丸はサイゴンを出航後、南シナ海を南下し、シャム【現在のタイ】に向かう。写真は、現在のメナーム川の様子だが、水上交通が活発で、沿岸には仏教寺院の尖塔が見られる。三巻俊夫ら一行は異国情緒をかきたてられたに違いない。

本書は著作権フリーだが、複写転載される場合には、ご一報いただければ幸いです。今となっては「不適当」とされる表現も出てくるが、時代考証のため原著の表現を尊重していることをご理解いただきたい。


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