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さしのべる神とアダムの指の間は無窮の悲しみ今し触るがに

ローマに着いて、まず向かったのはバチカン宮殿にあるシスティーナ礼拝堂。お目当ては、ミケランジェロが天井に描がいた「天地創造」だ。その中でも白眉と言えるのが『アダムの創造』だろう。

神が自分の姿に似せて土から作ったアダムに、生命を吹き込もうとしている瞬間を描いていると言われる。

僕は、天井を見上げながら、その指と指の間から目をそらすことができなかった。ミケランジェロによって創り出された1センチばかりの距離こそ、すべてを語っているのではないだろうか。

神に似せて作られたが、永遠に神になることも、神を理解することもできない人間。本当に神はアダムに手を差し伸べようとしているのだろうか。実は、神の指先はアダムから離れ、永遠に触れることはないのではないだろうか。人間存在の悲しみこそ、ミケランジェロが描こうとした本質ではなかったか。

1986年 ローマ

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