目で見て口で言へ(演劇篇)5本目「四兄弟」6本目「背に描いたシアワセ」7本目「恋の手本〜曾根崎心中〜(令和版)」

シアター風姿花伝でパラドックス定数四兄弟」を見てきました。去年「DRUNK」でご一緒した井内さんご出演。

抽象的なようで、観劇後は結構ハナシの内容を正確に伝えようとしていると思えるチラシ。

暗い。寒い。腹が減った。

このままでは死ぬ。必ず死ぬ。
生きる為にはどうすればいい。

金も力も何もない。
俺たちにあるのは、
血肉を分けた兄弟だけだ。
よく考えろ。
俺たちは本気で、
そう思っていたのか?
(チラシより)

暴虐な父親に抑圧されている四人の兄弟が、父親殺しを決行する(が、そのシーンは描かれない)ところから始まる壮大で深遠な寓話劇。小さな村を率いる長男が敵対する何者かに狙撃され、引き継いだ次男は力と恐怖で支配して村を町に、そして国に大きくするが、隣国に攻め込まれる。力を否定して、エンターテインメントで隣国と交流しようとする三男ーーそれぞれうまく行かないなかで、四男はーー

冒頭から受けた印象はドロドロの家族物なのかな、と思ったら寓話でした。おそらくは現在進行形で世界を不穏な状況に陥らせているあの強国の思想(およびそれを全身で担って体現した人物)を四人の兄弟に擬しているのかな、と思いました(気づいたのは次男が失脚したあたり)。兄弟には名前がない(愛称すら口にしない)し、村や町、国という言葉は出てきますが、出てくるのは兄弟だけで、銃器や赤い本、鞄などの持ち道具はブツがあるけれど、あとはーーこれを全編兄弟の会話だけで展開して行くお芝居でした。寓話劇だけれど説教くさいわけでもなく、何というか人間(とその考え)というものの不思議さに思いを馳せた私であります。

座・高円寺で開催された「視点SHARE‘S」というオムニバス?公演のうち、やみ・あがりシアター劇団肋骨蜜柑同好会の回を見てきました。やみ・あがりシアター「背に描いたシアワセ」は、以前APOCシアターでやったお芝居の再演、劇団肋骨蜜柑同好会「恋の手本〜曾根崎心中〜(令和版)」もやはり再演でした。

背に描いたシアワセ」は初演を見ていて、でもすっかり忘れていて、冒頭の数分でそれを思い出しました。あのときはきのこ牛乳さんでご一緒した蓮尾くんが出ていたのもあって行ったのでした(この劇団のことはその時点で知っていて、面白いなあ、と感心していました)。よくある嫁姑のいざこざかと思いきや、小さな違和感がやがてある瞬間に反転する世界が、いっそ爽快だったことを覚えています。今回の再演では、舞台中央の方形のアクティングスペースがダイニングで、玄関を四方に自由自在に変えていたところが特に面白いなあと思ったことです。

続いて肋骨蜜柑同好会「恋の手本~曾根崎心中~(令和版)」は、恋愛系WS?のような場で三組の男女によって(物語をなぞるように)語られる「曾根崎心中」。彼らによって交互に(競い合うように)語られる「曾根崎心中」は原文そのままなので、すっとなんのストレスもなく意味が入ってくるわけではありませんが、補助的に介入してくる人物(大枠の物語ではそのWSのスタッフ)も交えて動きながらのアクトであるので何となくシーンの流れは理解できるように思います。このスタッフを演じた室田さんと小島さんのコンビ、実は肋骨作品では一等賞に好きな「犬(もしくは)神」の警官コンビでありまして、個人的にはこの二人の絡みを再び見ることが出来たことがすでに嬉しかったのでした。

肋骨作品の作演出だけではなく、必ず出演もするフジタさんの登場シーンの素晴らしさ(かつ、今回、当初予定されていた完全新作公演を中止しての再演だったこと)も含め、らしさ全開の舞台であったと思います。

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