ものぐさ太郎読書日記〜7月篇

「アラビアン・ナイト1」(東洋文庫)

世の中には読まれざる名作(大作)というのがあると思うんですが、ワタクシの理解ではそのなかの一作「アラビアン・ナイト」に挑戦することにしました。いくつかバージョンがありまして、東洋文庫のカルカッタ第二版にしました。枠物語という「物語の中で登場人物が語る物語」が次から次へと出てきてまるでお話のマトリョーシカみたいに大きなボリュームを占める構成がとても面白いです。あと、元々の設定としての「若い女性を妻にして殺す」王様の抜き難い女性憎悪のエピソードがかなりエグいですね(しかも兄弟揃ってそんな目に遭う)。この巻では第一夜〜第十九夜まで。

「本陣殺人事件/蝶々殺人事件」(出版芸術社)

横溝正史の推理小説はよく映画化されているせいもあってなんだか読んだ気になっているんですが、実はあまり読んでいないじゃないかということに思い当たり(今更)、自選集を選びました。「本陣殺人事件」の密室トリック、実際にちゃんとできるかを実験しているYouTubeの動画があって驚きました。愛されてますねー。殺人の動機については「んん?」と思わないでもありませんが、時代を考えるとーーいや、やはりないですかねえ。作者が生み出したもうひとりの探偵「由利麟太郎」シリーズ「蝶々殺人事件」がほぼ「本陣殺人事件」と同時期に連載されていた、というのはとても面白いですね。

「謎のアジア納豆」(新潮社)

高野秀行さんといえば、名前の音がワタクシと同じだしワタクシと同郷で大好きな作家船戸与一さんが所属していた早稲田大学探検部出身だし、で以前から気になっていた方です。そういえば「クレイジー・ジャーニー」にも時々出演されてますね。稲藁で包むことによって納豆菌(ナットウキナーゼ?)の働きで香ばしい匂いと糸を引く納豆。

日本は「納豆後進国」だった!?/誰もが「日本独自の伝統食品」と信じて疑わない納豆。だが、アジア大陸には日本人以上に納豆を食べている民族がいくつも存在した。/日本の納豆とアジアの納豆は同じなのか、違うのか?/起源はどこなのか?/そもそも納豆とは一体何なのか?/納豆の謎にとりつかれたノンフィクション作家は、ミャンマーやネパールの山中をさまよい、研究所で菌の勉強にはげみ、中国に納豆の源流を求め、日本では東北から九州を駆けめぐる。/縦横無尽な取材と試食の先に見えてきた、納豆の驚くべき<素顔>とは?/日本人の常識を打ち砕く、壮大すぎる「納豆をめぐる冒険」!

特にミャンマー(ビルマ)での納豆探索行が、現在も続く軍事政権の状況を思うとなんともいえない気分になりますなあ。「幸福の国」ブータンの実像もなかなかに気になるところ(それについては参考文献も読むことにしました)。しかし、手前味噌ならぬ「手前納豆」は、世界共通なのなー。我が家の納豆が一番うまい!著者の納豆をめぐる旅は次作でアフリカ大陸に渡るようなので、非常に楽しみ。

「破獄」(新潮文庫)

ドラマ化もされた、吉村昭の長編小説。

昭和11年青森刑務所脱獄。昭和17年秋田刑務所脱獄。昭和19年網走刑務所脱獄。諸岩22年札幌刑務所脱獄。犯罪史上未曾有の四度の脱獄を実行した無期刑囚佐久間清太郎。その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰まる闘いを描破した力編。読売文学賞受賞作。

戦前から戦後に渡る刑務所をメインにした行刑史でもあります。戦時中の特警隊制度というのは初めて知りました。豆殻で豆を煮るというやつですかね(違う?)。それが戦後もしばらくの間続いていた、というのがなあ、まあなんといいますか、戦後の混乱とひと口にいっていいのやら。札幌から府中に移送されるあたりからスピード上げて一気に読み切りました。最後の数行のために取材を追加した(文庫本?のために)という作家の執念。

「そらみみ植物園」(東京書籍)

プラントハンターで花と植木の卸問屋「花宇」代表の著者(結構前に「情熱大陸」に出たらしい)による世にも珍しい植物たちの図鑑(兼エッセイ)。といっても、植物は写真ではなくイラストで紹介されているし、紹介文もなかなか捻った構成になっています。(たとえばカンボジアの浮き稲の冒頭はポルポトの司令文書の日本語訳で始まっています)。一時期話題になったケセランパサランなどの項目も。この本には第二弾「はつみみ植物園」もあるので、読まないといけませぬ。

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