政府債務は金利を上げる妨げにならないのか? AIの意見

「財政が悪化するので金利を上げられない」には根拠がありません

日本政府はなぜ円安を放置しているように見えるのか?

これを見て、ぼくはこんな謬説(間違った説)を唱える曲学阿世の徒がいることに絶望し、嘆息して天を仰いだ。こんなものを「完璧な解説」とか言っているやつまでいた。世も末だ…。

なぜかって? その前に、ちょっと前に出たこんな記事を覚えているだろうか。

読んでいなかったらいま読んでほしい。最初の記事を読んでぼくのような反応をしなかった人は、こちらの記事を読んだら、こんな謬説を唱える曲学阿世の徒がいることに絶望し、嘆息して天を仰ぐはずだ。というのは、最初の記事とこの記事では、完全に相矛盾する主張がなされているからだ。

金利が上がると,政府はより高い金利コストを払わないといけなくなる.債務が GDP の 130% を超えてるとき,これは財政上の大きな負担だ.もしもこの金利コストを払うために日本が増税できなかったら,利払いを続けるためにさらに借り入れなくてはいけなくなる――もしそうなったら,事態はとても急速にすごく悪化しかねない.

ノア・スミス「日本は通貨危機におちいってるの?」(2024年4月29日)

国の債務が大きすぎるから日銀が利上げを恐れているという政治状況に,いま日本は置かれているのかもしれない.これは,「財政の支配」と呼ばれる状況だ.というのも,財政に関して考慮すべきあれこれの事情が,金融政策に関する中央銀行の考えを支配しているからだ.

ノア・スミス「日本は通貨危機におちいってるの?」(2024年4月29日)

これに対して、最初の記事の主張はこうだ。

長らく財務省は政府債務のGDP比を気にかけてきました。この指標は日本国債の格付けを下げる論拠となっており、国際金融規制を通じて欧米諸国が日本の金融機関の資金力を抑えるツールになっています。しかし日本政府がこの指標を問題にするのであれば、重要なのは政府債務の実質金利であって名目金利ではありません。現在の3%弱のインフレ率を考慮すると、金利、財政収支、成長率がゼロであれば政府債務GDP比は毎年3%弱減っていく状況であり、むしろ以前より減りやすい状況です。したがって「財政が悪化するので金利を上げられない」には根拠がありません。

日本政府はなぜ円安を放置しているように見えるのか?

何ということだ。これが本当なら、ノア・スミスの野郎、「金利が上がると,政府はより高い金利コストを払わないといけなくなる」とか、「財政の支配」とか、わけわからないことを言いやがって、それこそ曲学阿世の徒じゃないか…。

さて、どちらが正しいのか。ここで、人間としての尊厳を捨てて、AI(ChatGPT-4o)様にお伺いを立ててみよう。

結論として、意見2の方がより現実的なリスクを強調しており、現在の日本の財政状況を考えると、理にかなっていると言えます。名目金利の上昇が直接的に財政負担を増加させるリスクは無視できず、特に高い政府債務を抱える状況では、このリスクは非常に重要です。

https://chat.openai.com/share/fe3ff559-c3a6-488a-ba39-d6c6a5f5b112

意見2はノア・スミス。思い通りだ。だが、AIの答えは順番に左右されることがあるので、順番を逆にしてみよう。

現時点では意見2の方が理があると言えます。インフレ率が高い場合、実質金利が低下し、債務負担が実質的に軽減されるからです。ただし、これはインフレ率が一定であるという前提に依存しており、将来的なインフレの変動リスクは無視できません。

https://chat.openai.com/share/f6407c44-5717-4c8b-8106-8783e1201d0a

今回の意見2はWilly OES。本当に意見を変えやがった!!(順番を逆にしてもノア・スミスのほうが正しいと言うことを期待してたのに…)*1

しょうがないので主張を後退させる。本来なら、「ほら、AIもノア・スミスが正しいと言ってる」と言いたかったところだが、「ほら、AIもノア・スミスの意見が正しいと言うこともある」にしておく。少なくとも、明らかに間違っていると言えるようなものじゃない。

さて、二つの記事を読んで、次のような意見があると思う。*2

  • Willy OESの意見が正しい! 日本は利上げ*3できる! 利上げできないとか言ってるノア・スミスはバカ!

  • ノア・スミスの意見が正しい! 日本は利上げできない! 利上げできるとか言ってるWilly OESはバカ!

  • 難しくて自分にはよくわからないなぁ…。

これらの意見は、(1番目はぼくの意見とは違うが)どれも問題ない。最悪なのは、次のようなものだ。

昨日までは「国債費がデカすぎて上げたら破綻するだろ」と言って金利上げ派にマウント取ってたけど、今日からは国債費ガーと言ってるやつを徹底的にバカにしていくことにする

https://b.hatena.ne.jp/entry/4753508830928610368/comment/GomariN

これは影響されやすい自分を皮肉ったユーモアかもしれないが、問題は無意識にこういう行動を取っているような人間だ。ノア・スミスの記事を読んで日本は利上げできないと言い、Willy OESの記事を読んで日本は利上げできると言うような人間。それじゃ、後から聞いたほうを正しいと思うAIと同じじゃないか。それなら、「自分にはよくわからない」と言うほうがはるかに誠実な態度だ。

それにしても、AIの「後から聞いたほうが正しいと思うバイアス」がここまで強いとは思わなかった。当面の間、二つの意見のうちどちらが正しいのかを尋ねるのには使えなさそうだ。

これまでの感触では、AIは基本的な知識を解説させるのに使うのがよい。以下は「日本の財政について、できるだけ客観的に、潜在的な問題点等を含め、基本的な知識を解説してください。」というプロンプトで聞いた答えだ。

日本の財政についての基本的な解説は、国の債務と財政赤字の状況から始めることができます。

国の債務
日本の国の債務は世界で最も高い水準の一つです。2023年の時点で、国の債務は国内総生産(GDP)の約250%以上に達しています。この高い債務水準は、長年にわたる財政赤字、低成長、低インフレ率などにより増加し続けています。高齢化が進む社会においては、今後も社会保障費の増加が予想されるため、債務削減は一層困難になる可能性があります。

財政赤字
日本政府は、1990年代初頭から連続して財政赤字を記録しています。経済の刺激と防衛のための公共事業支出増加、また高齢化に伴う社会保障費の増加が主な原因です。COVID-19パンデミックに伴う経済対策も、近年の赤字を拡大させました。

潜在的な問題点
持続不可能な債務水準:現在の債務水準は、将来的に金利が上昇した場合、支払い負担が増大するリスクを抱えています。
税収の問題:日本の税収はGDP比で比較的低い水準にあり、さらなる歳入の確保が必要とされています。消費税の増税などが行われていますが、経済への影響も考慮する必要があります。
人口減少と社会保障費の増大:人口が減少している中で、高齢者の割合は増加しています。これにより、年金や医療などの社会保障費が増加し、財政に大きな圧力をかけています。
改善策
日本政府は、債務を管理し財政健全化を図るためにいくつかの策を講じています。これには、消費税率の引き上げ、公共事業の見直し、社会保障制度の改革などが含まれます。また、経済成長を促進し税収を増やすための政策も重要です。

日本の財政状況は多くの課題を抱えていますが、これらの問題を解決するための政策や改革が進められています。今後の政策の効果や国際経済の動向、国内の政治状況などが、これらの課題にどう影響するかが注目されています。

https://chatgpt.com/share/23983907-59a6-4ba2-a076-fed67844df97

この内容に納得できない人はAIに反論してみるのもいいと思う。「内国債なのにリスクがあるとかお前は何もわかってない!」とか。AIは影響されやすいので、お望みの答えを返してくれるかもしれない。

*1 AIは一般的に英語で回答させたほうが精度が高い。英語で回答させるのもやってみたが、結果は同じだった。
*2 単純化するために、「どちらも一定の理がある」という穏当な意見は省いている。
*3 ここでの「利上げ」とは、通貨防衛に意味のある程度の利上げとする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?