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コストコの快進撃は続く

25年くらい前のことである。わたしは経営コンサルタントとしてある流通業のお客さんに経営支援をしていた。場所は幕張メッセといって千葉県の中でも副都心といわれるほど多くの企業が集まっている。海浜幕張駅の周りには流通で目立つところが多い。今ではイオンモールが大きくどっしりと構えている。その傍らにはあのコストコホールセールジャパンがある。

コストコは駅から離れている。駅に近いところでショッピングをする習慣を持った日本人が買いに来るのだろうか。しかもクルマで乗りつけてまとめ買いをする。アメリカならまだしもここは日本だ。そこがコストコの特徴である。さらに年会費4千円を徴収する。メンバーでないと店内で買い物はできない。はたしてうまくいくか。そんなことを描いて観察していた。

エコノミスト誌にコストコの成功物語が記事として載っていた。なぜコストコはそこまで支持を受けているのかという記事である。

要旨


ホットドックは創業以来1ドル50セント。日本円で180円を維持している。しかもソーダ類が飲み放題とある。ホットドックにはケチャップ、マスタード、そして玉ねぎを刻んだものを自由にとっていい。これだけの大判振る舞いはないだろう。幕張のフードコートは平日でもお客さんが並んでいる。まさにコストコ族といっていいだろう。

記者は企業戦略を簡潔にまとめた。コストコの戦略はとてもシンプルなもの。手ごろな値段で高品質な商品を売ることで顧客をとりこにするというものだ。そのあとに支持されている理由を3つあげている。年会費をとってマージンを抑える。選ばれた商品のみを販売し在庫コストを減らす。社員の離職を抑える工夫。どういうことだろうか。

まずは年会費の徴収とマージン。コストコでの平均マージン(単品当たりの儲け)は12%にとどまる。競合のウォルマートでは24%の利ザヤをとる。1000円の品物を購入した場合はコストコでのもうけは120円くらいにしかならない。この低価格を補てんするのが年会費だ。会員は4800円の年会費を払う。会員数は世界で1億2千9百万人。とてつもない数だ。会費だけで計$4.6billionに達する。日本円にすると約7兆円になる。相当なものだ。

この囲い込み作戦は功を奏し更新率は90%にのぼる。ほとんどのひとが会員のままでいてコストコ以外のところでショッピングをしない。

次にコストコの商品戦略がある。取り扱い商品は少なく3千8百程度しかない。競合のサムズ・クラブは7千、ウォールマートになると12万品目にのぼる。商品管理がたいへんだ。アメリカの場合は小売店舗の在庫はすべて小売り側の在庫になる。メーカー在庫ではないのだ。

売れる商品だけを置くためにスペースあたりの在庫回転率がよい。資金繰りが楽になる。リフトで運んだりするのにも最小限ですむ。売れない在庫を店内に置かない。さまざまなコストをかぶらなくてすむ。それだけ遊ばしているのが多いと流通コストがかさむ。

コストコではほとんどの従業員がやめない。業界平均離職率が60%あるにもかかわらずコストコでは8%しかやめない。また3分の1の社員は10年以上という期間働いている。

理由は給与が業界平均よりも高く福利厚生も充実している点がある。またマネージャーを他からひっぱってくることはせず社内昇進という方針を貫いている。これはアメリカではめずらしい。このような方針はあのスターバックスくらいしか思い当たらない。

わたしの住む千葉県東葛地区の付近にもコストコはいくつかある。近いところでは埼玉県新三郷にあるコストコだ。ここは全国でもっとも混雑する店舗として知られている。平日でも午後4時過ぎにならないと空いてこない。また午後6時になると混雑してくるという。

理由は4時まで家族連れで小さい子をコストコで遊ばせるという。4時になれば家に帰るためそういった子供連れの客が減る。するとにぎわうフードコートにもすきまができる。

どうやらコストコの快進撃は続きそうだ。少なくとも千葉県東葛地区に住むわたしにとってはビール、コーヒー、そしてパスタソースを買うためにはなくてはならない店舗になっている。

英紙エコノミストの文章構造


ここで英紙エコノミストを読むうえでおそらく役に立つであろう事柄についてまとめておこう。前からメモ書きにして自分の机にはおいていたものだ。ときどき参考にしながら要旨を書いていた。どのような記事もある一定の文章構造を持っている。コストコの記事を参考にしてみよう。

まず文章の導入部にある事柄からはじまる。その事柄が記事の最後に結びとして登場する。つまり最初に書いてあったことに話題がもどる。これを円環構造という。コストコの記事ではホットドックが1ドル50セントという値段のことである。これまで40年間据え置きだった。今後も据え置くだろうという見立てである。その理由が書かれてある。

新聞記事であるが故にある事件が発生する。事件というのはいつ、だれが、なにをということとして書かれている。それがストーリーのきっかけであり登場人物が動き始める起点になる。小説であれば物語に命を吹き込むともいわれる。ここでは2月6日に財務担当役員が退任を発表したことが書かれている。さてそれがどんな意味を持つのか。

歴史的な記述を用いる。物語にある程度の信ぴょう性を持たせるために歴史的背景や歴史的事実を続ける。これはなるべく読者に偏見や思い込みを持たせない工夫である。多くの記事が長期的な時間軸で書かれている。コストコでは40年にわたる変化や成長を前提とする。

そしてこの導入部が終わると次に本題にはいる。本題というのはタイトルに対する記者の主張を書くところだ。ストーリーでいえば物語が複雑化するところだ。コストコはシンプルな経営方針できたということ。そこから3つの具体的なやり方がとられてきた。これが支持をされている理由であること。

よくいわれる視点ともいえる。絵画でいえば遠近法のようなものか。必ず3つあげる。ストーリー内で賛否を書く。しかしこの記事は違う。タイトルは理由を書くことであるため賛否にはならない。支持された理由のみ記述している。年会費制と低価格。厳選された品ぞろえと在庫管理。そして従業員の高待遇と離職率の低さである。

そうやって本論を書いた後に気になる結論をのべる。これからどうなるのだろうといったことを書く。役員が外から来ることがなく長期の在任のため安定経営を続ける。それにより結論としてホットドックの値段はこれから何年も1ドル50セントのままだろう。このように結ぶ。

ときどき英語の勉強にと英紙エコノミストを手にとるひとがいる。そして討論会に参加をしてくる。わたしは都内で13年に渡り参加してきた。しかしこの雑誌は英語の上達のためにはほとんど役に立たない。それはすでに英語がかなりできないと記事の内容を理解できないためだ。90%くらいの単語や語彙がわからないと読解ができない。またそれだけでなく本をたくさん読まなければ理解できない。

ただ文章構造を理解して読むとストーリーの筋書きだけは読み取れる。それでも不十分だ。肝心なのは記事を読んで論点を複数出すこと。なにが争点になっているのか。なににケリをつけないといけないのか。そこから論点整理をしながら論点をさらに磨くこと。これが記事の内容をものにするための骨の折れる作業であり討論会に参加する目的である。そこでは議論に強くなること。自分の主張がないと記事を読んでも意味がない。

参考にわたしがつくった論点を出してみます。原文が英語なので翻訳していません。例えばこんな感じになります。

To answer the questions, you might want to use five forces model of Michael Porter.

1: What are the pros and cons of membership model? More memberships means more bargaining power of buyers. Costco can buy the bulk of products from manufactures. Fees create brand loyalty. Does it really work that way?

2: Buying from few suppliers gives Costco more bargaining power. Costco can enhance product quality at the outlet. What are the benefits and costs of limited selection of product lineup?

3: Costco has own-brand products, Kirkland. What is the advantage and disadvantage of having private brand at the store?

4: Turnover is low at 8%. The company prefers to promote leaders from within. Most executives remain seated for more than 20 years. What is the advantage and disadvantage of such corporate policy? Can they compete with Amazon?

5: If the idea is simple, how come anybody does the same thing?

実際のところ都内で読書会をはじめた五常アンドカンパニーの慎泰俊氏は数年前に15年読んでいると言っていた。しかも彼のプレゼンは記事の文章構造にまで似ているところがわかったのである。もともとプレゼンのうまい彼にあって加えて15年以上の読書期間。多忙を極めながら皇居を走る時にイヤホンで音声で聞きながら文章を自分のものにしている。こういった経験を持たないと自分のものにはできない。

読む上では文章構造を意識する。同時に1週間に10記事くらいを読む。一日2つであるから無理ではなかろう。読む工夫として多読、精読、速読、乱読を試す。ここまでが読む上で達成すべきことであろう。スピードに配慮して読む。そして10年という歳月をかけて読む習慣を身に着けたならばそれで読書会には出なくていいだろう。

ある程度読書会に出たならば自分で記事を読んで他のことを身に着けることもできる。日本語でいいので他の読書会にいく。そこで論点を提示する。また読むことや議論するだけではなく、書く練習をする。この書くことは読むことの10倍くらいのエネルギーを消費する。だれもやりたがることではない。しかしこの楽しみや効用ははかりしれない。

文章を書くと決めたならば記事に似た文章を書いてみる。それらをひとつひとつ書き終えた後のなにかしらの達成感はよい。書く人にしかわからないものである。思考の醸成というか、しっかりと身につくものである。