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経営コンサルタントという厳しい選択

20年前に都内でこれは天職だと思える仕事にありつくことができた。それは経営コンサルティングの仕事であってなにより年収がいい、顧客に対面をしてスリリングな局面に対峙できる、そして複雑なビジネスの問題に対して解決策を提供できるということだった。これはビジネスクールの2年間疑似体験をするものと似通っており興奮に包まれたことを覚えている。

しかし喜びもつかの間この経営コンサルティングというのがとてもつらい仕事であるということがわかるのに時間はかからなかった。顧客の要求は高かった。時間あたりの課金に合わせてアウトプットを提供しなければならない。苦しみにあえぐような時間に終われ次第にそれが恐怖と化していった。私は燃え尽き症候群になった。なにより期待値以上のものを出さなければならないというのはコンサルティング業界では変わっていない。

先月の8日、英紙エコノミストで興味深い記事が掲載された。経営コンサルティングは価値があるのかという話題だった。そのきっかけは二人の著者が本を出版したことにある。タイトルは「When McKinsey Comes to Town」という。

顧客からの厳しい視線をあびながらもコンサルティング業界は好業績だそうだ。マッキンゼー、BCG、ベイン3社でドルベースで10年間で3.5兆円になった。この数字はコンサルタント合計7万人においてひとりあたり40万ドル(6千万円、ドル円150円)となる。するとコンサルタントは売り上げの3分の1を人件費としてもらうことから平均年収は2千万円となる。この数字はだれにとっても魅力的だろう。

このコンサルティング・ブームの背景はなにか。エコノミストによれば外部の客観的な意見と希少な知識から生み出される解決策だという。
確かに有能なコンサルタントはすぐれた解決策を提供する。しかし同時に激しい業界であるがために批判も並ではない。それは業界に特有のものがあるからに他ならない。まず時間当たりの課金というのがある。顧客側では時間あたりで働いている人たちは少ない。しかしコンサルタントは時間当たりの単価を課金する。それが理解されないことが多い。

次にコンサルタントが提供するものがアドバイスだけだという現実がある。美しいパワーポイントに描かれたチャートを何枚見てもなにも儲けにはつながらない。コンサルタントの間では仮説にもとづくデータ分析の結果というのはすぐれものであればうならせるものが存在することはある。しかしなにもそれだけでは利益を生まないのだ。顧客側では給料も上がらない。

そして3つめはコンサルタントのいうとおりにやったとしてもビジネスの環境変化が著しく不確実性が高いということがある。クラウドや気候変動、そしてサプライチェーンといった取り組みをしたところで利益増になるわけではない。そうするとこの不確実性の高さからコンサルティングという仕事の信憑性に疑義が発生するのはやむを得ない。

さて20年の時を経てコンサルティング業界そのものに変化はあったか。おそらくないであろう。顧客の要求は相変わらず高く仕事の疲弊から免れることはない。ただそれでも東京でコンサルティングになりたい人は多い。聞くところによれば新卒採用で年収1500万円だという。これくらいもらえるのであれば悪くはない。ただ忘れてはならないのは顧客は紙の上での解決策を提示しただけでは満足しないということだ。提示したことをコンサルタントにやってほしいという要求に代わってきている。

この文章の原文は英語で書きました