スープにハエが入っていたら

大学講師として神奈川県の小さな私立大学に通勤していた。そこで国際経営を担当。担当したといっても指導教官であった学部長が仕切ってくれた。わたしはじっくり授業の様子を観察できた。しばらくすると学部長が友人をゲスト講師として呼んだ。一コマ授業をしてくれた。

その方は商社勤務でよくアジアに行っている人だった。その話が結構印象に残った。これから海外、特にアジアにいく大学生に向けて英語だけでなくどれだけマインドセット(心構え)を変えた方がいいか。

あるオンラインイベントでゲスト講師が話をしてくれたテーマをそのまま出してみた。5人のグループができてそれぞれの感想を話してもらった。というようりは当事者としてどうするかという質問をしてみた。この話の内容はこうだ。

学生時代に英語をしっかり勉強してある日、英語をしゃべることになにも苦労しなくなった。そしてお金もいくばくかある。結構お金持ちになった。そしてある時アジアの新興国でイタリアンレストランを経営することになった。レストランのオーナーである。海外でもレストランは順調に業績を上げて成功した。

ある日、お客の中でなにかしら騒いでいる客がいた。よく見ると怒っているようだった。オーナーにむけてなんとかせいというようなことを騒いでいるかに見えた。近寄ってみるとこんなスープがテーブルに置いてあった。

ハエのストックフォト, Getty Image

あなたはレストランのオーナーとしてその客に向けてどうするか。状況はお判りいただけただろうか。

参加者の中にいた人はこういった。ハエのはいっていない新しいスープを代わりに出す。お金はもらわなくていい。さらに謝罪するというのである。この回答はさきにあげた私立大学の学生の中にも多く聞かれた。というよりそれ以外の回答はなかった。さてこれで状況は解決に向かうだろうか。

別の参加者はいった。もし監視カメラがあるのならそのカメラにどう映っているか見る。もしハエが乗っている原因が店側にあるのであれば謝罪をするというのである。カメラでは証拠をとることはできる。ただどうやってハエがスープの中にはいったかはわからないこともあろう。それでも店側に落ち度があれば謝罪する。代わりのスープを出してお代はいただかないという。これが解決策につながるだろうか。

参加者の中にアジア系の人がいた。その人の回答はこうであった。ひょっとしたら客が意図的にスープの上にハエを置いたのかもしれない。そこをまず問いただす。そしてそれを白状したのならば・・・。もし白状しなかったのであればさらに問い詰めるというのである。あくまでも店側に責任があるという前提ではない。日本人の中で海外に行く人にこういった状況の変化を理解できるだろうか。

ゲスト講師の回答はこうであった。まずオーナーとしてすべきことはなにか。状況を理解する。客は文句をいっているのか。それともレストランを攻撃しているのか。店が攻撃されている可能性があるということだ。そのためハエに向かって手を出してひょいとつかむ。ハエをゆっくり自分の口に持っていき客の前で食べる。それが解決策というのである。なぜだろう。

講師の説明はこうだ。まずハエがいたという証拠を隠す。証拠がなくなれば客も攻撃をすることができない。オーナーのおなかにはいってしまったのだ。とがめられたとしても証拠がない。証拠を隠すことがまずその場で優位に立つ方法だというのである。

次にハエを食べるということはハエを食べても支障がない。その客に向かって見せつけることにもなる。別に昆虫であろうが食べれるではないか。なにも嫌がるものでもないだろう。そうして客の反応を見る。そこで客がクレームを取りさげた場合は次の効果がある。

代わりのスープを出さなくてよい。そしてお代を払うことはなくても二度と店に来て攻撃をしてこないであろう。それで店を守れる。さてあなたならどうするだろう。アジアの新興国でレストランを経営するにはこれだけの覚悟がいる。これはほんとうの話である。

わたしはこの話を神奈川県で聞いた。しばらく自分の担当する国際経営の授業で使ってみた。小さな私立大学で千葉市にあるところ。まったく同じことを出題した。するとアジアから来た学生の何人かは食べる。そうすることによって店を守れる。そういうのであった。

中にはスープにハエでなくコインをいれてクレームを出すという手口もあるようだ。これは直接アジア系の学生から聞いた。コインがはいっているところを見せつけてオーナーにどうクレームを出すのか。それはよくわからない。スープでいろいろ悪さをして店を攻撃することがあるという。

アジアの新興国でレストランを経営する。そこにはいろいろな罠がありそうだ。ただこの話の要点としては客が文句をいっているのか。それとも攻撃しているのか。それが日本人にはよくわからないというところであろう。