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是正なき男女間格差への覚悟

入学式、入社式が無事に終わり、新入生、新入社員の人たちはワクワクするする反面、これから何が起きるのだろう。そんな状態で過ごしていることでしょう。いまから40年以上前、わたしの女房は、新入社員として虎ノ門にある日立系の商社に入社しました。

女房が振り返ると会社説明会の後、人事からこういった話を聞いたそうです。「女性は、3年以内に男性社員と結婚してください。そのために採用しました」。いま、このようなことを女性社員に話したら大きな問題になることは間違いありません。というのは、男女雇用機会均等が保証されており、性別の差がなく採用、教育、報酬、昇進がされなければなりません。

さて、あれから40年。2022年において日本における男女間格差はどのようになっているでしょうか。このチャートはOECDが発表をした統計をThe Economistが掲載したものです。掲載日は、2022年3月7日です。

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出所 The Economist's glass-ceiling index

日本は、29カ国中28位です。かなりの男女間格差がある。そして2016年から5年順位を上げていない。この2016年というのはスチュワードシップ・コードが制定された年です。制定されたにもかかわらず、なにも改善されていない。おそらく企業努力をしていない。しても結果がともなわない。

儒教の影響を受けた日本社会では、男女間格差があることは否定できません。またアジアの国は企業文化からいって格差がありがちなことは認めざるをえないでしょう。宗教的、文化的に理解のある欧米の数値が高くランキング上位は欧州です。

そう比較したとしても日本の数値はあまりにもよろしくないでしょう。女性の管理職、マネージャーの割合は上場企業で15%。役員になると11%であり、10人中1人しか女性がいません。

この文章では、この背景にあるのは何か。そしてこの状態を放っておくと東京にある民間企業に何が起こりうるのかについて書きます。背景としては、議論の出発点のまちがい。女性への差別の存在を男性が認めていない。そして業績に関連付けてしまうあやまちがあります。

まず、男女間格差をなくそう。ジェンダーギャップをなくしていこう。そういったテーマを前面に出して開催されるオンラインイベントがあります。そこでは、男女の差に焦点が移ってしまい、結果として格差があることがけしからん、そのような流れで進んでしまうことがあります。これは、議論の出発点がおかしい。

というのは、議論の出発点は、男女間の格差といった結果ではなく、男女に機会の平等を与えなければいけない。そこが出発点にならないと変な議論になります。機会の平等が原則であり、それが行われていないのではないか。そこからスタートすること。差別をなくして、格差をなくす。こういった論法になるはずです。スタートに気をつける。

次に機会の平等をベースにして、差別をなくすということを語るべきでしょう。そこでは、同じような職責で同じような仕事をし、実績を上げている女性に対して差別をしてはいけない。給与も職責も正当に評価すべきとなるはずです。ここで注意しなければいけないのは、ややもすると女性であることから出発してしまい、それが理由として、女性だから給与、職責をあげよう、といった動きを認めるのかという議論が出てしまう。

あくまで、差別をなくすこと。平等であるべし、といっているのであって、片方の性別を上げよう、そういうプロモーションをしているわけではない。実力に見合った報酬、責任を平等に与えなさいというメッセージでありましょう。そこを多くの人が誤解しているのではないか。特に男性社員の中でこのような誤解をしており、なにかしら感情的に受け付けない、認めたくないといった心理が働く。

それにより差別があからさまに存在しているのにもかかわらず、そこに対して不平等の是正を行わないという態度を示しがちになる。そして実力のある女性が社内で活躍しそうになると厳めしい顔つきになり、協力をしないといったことをしはじめる。女性が一本立ちしようとするとはしごをはずしてしまう。感心しない事態になります。

感心しません。救い出してくれる男性上司はいない。助けてくれる組織もない。つまり、組織の中で女性が成功することが危険な前例になりかねない。実力のある女性を応援したとしても男性の給料がよくなるわけもない。

そうなると集団の中で協調的にならざるをえない。話をあわせるだけのオペレーションをするようになる。楽だからです。いまは、変化の中でイノベーションをおこしていなかいといけない。そうしないと収益はあがらない。業績も落ちていく。

背景の最後として業績への関連性です。機会平等であれば業績が上向くのか。業績とは、売上からコストを引いた経常利益のことを指します。男女が平等に働くことで業績アップにつながるのかという議論が起こる。どうでしょう。男女間格差のないところと業績との関連性はどこまで実証されているでしょうか。それを実証してどうなるのでしょう。

これもおかしな議論。機会を平等に与えて仕事をさせなさいといっているのであって、結果が業績アップだから、差別は致し方ないというような論法に陥る。そうなると差別は致し方ない、存在する、お金儲けが第一だからいまのままでよしという邪を認めてしまう。

では、このまま放っておくと東京の民間企業になにが起こりうるかです。2点ありましょう。

ひとつは、人材が入社してこなくなる。特にZ世代(10~25歳)くらいは、社会課題がディフォルトで頭の中に埋め込まれており、だれでもSDGsについては知っています。そこで男女間格差はなくそうということは知っています。それに反することをしているのでは、あるいは、是正していないのでは、入社する魅力がないでしょう。入社したとしても辞めていきます。

ふたつめは、ビジネス上の取引に支障が出てくる。特に欧米の会社と取引するときに取引をさせてくれない。あるいは取引を打ち切られるというケースが増えてくるでしょう。アップル社は、アジアの国に対して工場の労働環境の悪い会社に対して取引をしないという声明を出しています。iPhoneの部品は90%以上が日本製。そのことを考えてもインパクトは大きい。

そうしていくと優秀な女性で大学、大学院を卒業をしたひとは、是正に前向きに取り組んでいる組織で働くようになる。前向きというのは、人材と資金を投入しているところ。資産運用会社、大学、そして財団といったところです。

運用会社あれば、BlackRockやテキサス州のTeacher Retirement System。大学であれば、医学で有名なUniversity of San Francisco。財団であれば、Pritzker Traubert Foundation。これらが例としてあげられています。そして共通していえるのは、約束事に関しきちんと情報開示をしています。隠しません。

いまの新入社員は、人事からどんな説明を受けるんでしょう。女性社員に向かって3年以内に男性社員と結婚してくださいなどといわれていないように。そうであったら、いますぐにでも履歴書を準備しなければいけない。それどころかそれはすぐにでも友達や知人に通知したほうがよい。

そんなことがありませんように。