アプリの使いすぎを制御するアプリ
2007年にシリコンバレーで画期的なスピーチがあった。アップル社の故スティーブ・ジョブズがステージに上がって行ったスピーチである。発表会場は満員であって誰もがジョブズは何をしゃべるのか。かたずをのんでスピーチを待っていた。ジョブズが行ったのはこういうものだった。
新商品を発表します。これまでの電話、メール、そしてウェブブラウジングをひとつにしたものでアイ・フォーンといいます。
あれから20年近くが経過した。アプリストアに登録されるアプリは増え続けた。ある調査によるとその数は1日で千を超えるという。ただ人目を惹きダウンロードされるものはとても少ない。誰もが使うスーパーアプリといういわれるものは存在しない。
あるおしゃべり会でこんな話があがった。PIE(パイ)という会社が注目を集めている。ここはアプリ開発をしていて、スマホの使いすぎを制御するアプリを提供するという。これをウォールストリートジャーナルがとりあげていた。
集めた資金はこれまでに$10m(1,000万ドル、28億円、対ドル為替レート140円で換算)に達したという。
出題したのは若い男性だった。このおしゃべり会に集まってきたのは7人。男性は出題者を含めて5名。女性は2名だった。まず出題をしたひとから問いかけがあった。
問いかけ
アプリを使いすぎることを制御するアプリなんです。これって理にかなっていますか。これが問いかけだった。とく考えられたトピックである。
わたしはだまって聞いていた。賛否両論でいろいろな意見が出た。わたしの意見では賛成で、このアプリは理にかなっているという方に票を投じた。若い人たちがアプリの罠にはまっている。毎日、気が散ってしまい集中できなくなっている。
会社名
まずこの会社はPIE(パイ)という名前で事業を展開している。ここから連想されることはふたつある。ひとつはパイというのはアップルパイを思い出す。とてもおいしいものである。しかし食べすぎはよくない。食べ過ぎればいずれ甘いものが身体をむしばむようになる。やがては糖尿病になってしまうだろう。アメリカ人は糖尿病が多い。それで命を落とす。
もうひとつはパイというのは3.14・・・というのを連想させる。この数は限りなく、小数点以下延々に続く。つまりいつまで経ってもきりがないことを示唆している。どれだけ時間をかけても、もとめどもなく数字は続く。
これらのことからきりがないこと。そういうものに歯止めをかけようではないかという思いが込めらえているのだろう。開発したアプリはそう声明を出しているのはないか。スマホ上のアプリはよくない。
投資額
次に28億円ものお金を投資しようというひとが集まってきた。これはスマホ中毒にかかっているひとを救済しようという意図がある。ひとが痛い目に合わないように。そう投資しているとしか考えられない。アプリの弊害をこれ以上広がらせてはならない。そういった願いがあるのだろう。この会社と類似のアプリの提供先は資金を増やしていくことだろう。
そう考えていたところである女性が会話にはいってきた。関西方面に住む女性であった。このように聞こえた。ある小学生はゲームアプリから逃れることができなくなってしまった。ゲームに溺れ、毎日6時間以上プレイをしている。
これを聞いたとき、おそらくこの小学生はいずれゲーム廃人になる。そういう予感がした。ゲーム廃人になると社会復帰することはとても難しい。やがて引きこもりになってしまう。それを親が助けることができなくなっているのが世の中の動きだ。
ある統計によると引きこもりの数は日本人の1%近くになるという。特に九州の福岡に多い。しかもコロナ過4年で家から外に出なかったためにさらに引きこもる傾向が強まったという。
本能
最後に引きこもりでなくても今の若い人たちは孤独感に襲われているという。そこから逃避するためにスマホ上に場を移していく。facebook、YouTube、TikTok、インスタグラムといった人気のソーシャルメディアを閲覧して時間を無駄にしてしまう。
人にはもともと楽をしたいという本能が備わっている。ソーシャルなものをソーシャルと思い込みつい見てしまう。そこが付け目である。やがて仕事や勉強に集中ができなくなる。運動にすら支障が出る。料理も作れなくなる。こういった生きていく上での活動ができなくなるのだ。
さらにアプリを長く見すぎれば楽しいこと、気分がよくなること、そしてちゃらけたことばかりで日々を過ごす。それにより失われた生産的な時間というのは計り知れない。一度時間を失うと二度と戻ってこない。
例えば仕事中にそういったソーシャルメディアを見てしまう。すると集中した状態に戻るには10~18分かかるという統計がある。またメールでさえ、作業中に見てしまえば26分ほど失うという。すぐには元にはもどれない。
こういったオフィスや家庭での孤独感を癒したい。しかしアプリに逃れるのはよくない。なぜかというとソーシャル・メディアはソーシャルではない。しかも長く見れば見るほどより孤独感が増していく。より不幸になっていくというのが識者の指摘である。
解決法
では一般の人はどうしたらいいか。このアプリが出てきた背景をじっくりと観察した方がいいだろう。社会の問題であるから解決方法としてはこういうものだろう。
ひとつは思い切ってソーシャルメディアのアカウントをすべて削除してしまうことだ。facebookとインスタグラムのアカウントは必要ないので削除しよう。削除したくなければログインしないことだ。あるいはログアウトしたままでもよい。
TikTokやYouTubeはアカウントなしでも閲覧できる。特に小学生や10代の学生はこれらソーシャル・メディアに頼る必要は全くない。
ニュースを毎日、見る必要もないだろう。週末にまとめて1時間くらい見ればいい。ニュースというのは事件や事故のことばかりを扱っている。そんなものを見続けて不快になっていても無駄なエネルギーを使うだけだ。不快になったり怒ったりする。しかし何も変わらない。認知コストは大きい。
次にスマホですらいらない。もし持っているとすれば家に置いて出かけてもよい。ほんとうに学校に持っていく必要があるのか。会社で必携なのか。パソコンがあるではないか。
ひとがスマホから必要な情報というのは二つだけである。ひとつは天気情報であり、もうひとつは交通情報である。それすら常に気にしている必要はない。何故かというと友達に聞けばいいからだ。
学校に行って友達に聞いてみよう。自分で調べる必要はない。聞けばいいのだ。1日1回だけでいい。ねえ、天気は悪くなるかな。悪くなったら傘を使うだけである。ちょっと電車は予定通り動いているのかな。動いていない時のための代わりの手段を使う。バスか自転車だろう。それだけである。簡単なことである。そのためにスマホを常に携帯している必要はない。
では孤独感から逃れるにはどうしたらいいか。まずアプリから離れること。アプリなどはいらないので削除してもよい。削除をすれことでアプリを使いすぎることを制御するアプリをダウンロードする必要はなくなる。
まず2週間そういう状態をみて振り返る。何か変わっただろうか。何も変わっていないはずだ。もう1週間続けて様子を見る。3週間経った。今度も何も変わっていないはずだろう。1か月離れることができればそのアプリがなくても生活はできることがわかる。いらないのだ。
もっといいのは人と何かをいっしょにすることだろう。何かしらの連帯感のようなもの感じること。競争を激しくしたり勝った負けたの競技をする必要はない。逆効果だ。そこで目立って飛びぬけることもない。ごく普通のことをあまり知らない人と一緒にするだけでいい。そういうものが世間にはある。
例えばランニングシューズを買って、ランニングクラブにはいることだ。それでも毎週開催されている練習会に行く必要はない。月1でもよい。例えば千葉県柏市にウィング・アスリートクラブというのがある。ここはランナーになるひとたちが結構まじめに練習をするところだ。
最初は見学でもいいし、一番下のランクのランナーと並走してもいいだろう。そういったランニングクラブで無理なく、楽しく過ごしてもいいだろう。地道に続けるだけで良い。マラソン大会に出ることすらしなくてよい。
あるいは料理教室にいくことだ。なにか簡単な料理をいっしょにつくる。材料をそろえて料理する。都内のABCクッキングスクールでもいいだろう。男性でもよい。若いきれいな女性に混ざって料理をつくればいい。洒落たエプロンをして作ればいいのである。そのエプロンはフランフランで買えばいいではないか。2千円くらいで花柄エプロンが売られている。
ABCでなくても京葉ガスが主催する料理教室でもいいだろう。1回3千円程度である。このように孤独感から離れるにはスマホは必要ない。必要なのは運動と食事であろう。
スティーブ・ジョブズも20年でここまでは想像していなかったのかもしれない。あのジョブズはiPadを発表したときに記者の質問にこう答えたという。
ジョブズさん、このiPadは画期的ですね。お子さんたちもさぞ喜んでいることでしょう。さっそく使ってもらってはいかがですか。こう質問をした記者に対してジョブズは答えたという。自分の子供達には使ってほしくはないんだ。そのため使用を(意図的に)制限している。
今後アップルはパイという会社の制御アプリをディフォルトでiOSに搭載すべきだ。カルフォルニア州で立法化してもいいだろう。