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MBAは国内でとる

要約

MBA、Master of Business Administration(経営学修士)のことを聞いたことはあるでしょう。経営学はビジネスを体系的に学ぶ学問。修士は4年生の学部卒を条件にさらに専門性の高い資格。その取得のために経営大学院、つまり、ビジネススクールで2年間過ごす。2年後は、実務にもどってビジネスで成功することを期待される。成功とは、職位と年収のアップのことです。

これはアメリカ人がアメリカのビジネススクールにいって達成するキャリアパスを描いたもの。日本人にはあてはまりません。そんなこともあり、ここ最近は海外MBA、特にアメリカに行かなくなっている。過去15年で毎年60人程度です。私費の方が社費より多く、社費は30人に満たない。わたしが私費でアメリカにいった30年前は1、000人くらいはいました。

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出典 アクシウム、NewsPick

このシリーズでは、経済学部に所属する学生とそこを卒業をして2~3年くらいまでの社会人を対象にします。18~24歳くらいまでの方です。その中で海外MBA、特にアメリカのMBAを検討している人に向けて6回に渡って書きます。

MBAホルダーになると心理的アドバンテージになります。これは事実です。自信がつきます。しかし、ビジネスで必ずしも成功するわけではありません。ビジネスというのはいうまでもなくお金儲けであり業績アップにどれだけ貢献できるかです。悪いことをしてはいけませんがそれが必要条件です。

結論としては、海外MBA、特にアメリカのMBAにはいかない方がよいです。とるのであれば、国内でとった方がよいです。この1回目では、これから書くことの要点を3つ述べて、2回目以降でそれぞれ詳しく書きます。

要点は3つです。経済面での妥当性、在学中と卒業後の充実度、組織内コミュニケーションの特徴です。どれもどちらかというと逆風が吹いています。

経済面では、投資対効果が低い。2年間、毎日5万円の投資です。やってもやらなくても1日5万円が消える。2年間で730日(365x2)、毎日5万円を教育に投資します。それを回収するのは、卒業後にかなり金銭面で成功しないといけません。その可能性はかなり低くなってきました。

在学中にすることは、学びとネットワーキングです。学ぶことにはハードスキルとソフトスキルがあります。コロナ過でもあり、ネットワーキングをする機会がかなり制限をされていて、卒業後に長く付き合いできる友達をつくることが難しい。特にアメリカのように多様な人種がいるところは同じ場所にいて長い対話が必要です。

卒業後はだれでも役員になれるわけではありません。身体を壊すような激務が多くそのようなことは長くは続けられません。したがって成功するキャリアパスが描きにくい。

組織内のコミュニケーションでは、日本の企業内では日本語を使います。英語ではありません。英語を使う機会は必ずあるわけでもなく、せっかく、異文化コミュニケーションができるようになっても社内で評価されません。

渡米してもビジネススクールに日本人はほとんどいません。それどころか少数派です。社内でも少数派です。在米でも帰国してもわざわざ少数派になるのはいかがなものか。アメリカではディベートが前提で会議をします。しかし、日本では会議で議論はしません。

全6回でこのようなことを書いて、最後にMBAをとるのなら、国内でとることをお勧めします。グロービスか一橋大学ICSがお勧めです。

では、次回は経済面を詳しく書きます。

投資対効果

経済面では投資対効果が低いことがあげられます。2年間、毎日5万円の投資です。やってもやらなくても5万円が消える。2年間で730日(365x2)、毎日5万円を教育に投資します。それを回収するのは、卒業後にかなり金銭面で成功しないといけません。その可能性はかなり低くなってきました。

第1回目でこのように書きました。この回ではこのように書いた根拠を述べてみます。

まず、計算式は、3,600÷720=5です。単位は万円。720は、2年間の日数で1年間360日とします。欧州の銀行では365は用いません。そうすると3,600をこの数字(360x2=720)で割ると5という数字が出てきます。

3,600というのは、2,000+1,600=3,600からです。2,000万円というのはビジネススクールで卒業するまでの費用です。いわゆる学費で、その中には授業料、宿泊費、食費、教材費が含まれます。1,600万円というのは、800×2=1,600です。この800というのは1年間の年収です。会社がひとりに負担している金額です。

もし、ビジネススクールにいかなかったとしたら、800万円の報酬が日本国内で得られる。2年であれば1,600万円です。私費でビジネススクールにいけばこれを放棄することになります。

日本で得られる報酬には、通常、会社が年金を半分負担しています。健康保険もそうです。また、退職金の積み立てもあります。会社は、机を用意し、パソコンを支給します。交通費を支給し、光熱費を負担します。文房具ですら用意されています。すでにできあがっている環境・設備を2年間放棄してしまうことになるのです。

これ以外に、ひょっとしたら受験のために予備校にいくのかもしれません。また、2年間在学中にどこかに旅行するかもしれません。そうなったらこの毎日5万円にプラスがかかってくるでしょう。これらすべての合計が埋没します。いわゆる埋没費用です。

日本国内の学士卒でも教育費は決して安いわけではありません。あるフィナンシャル・プラナーによるとオール私立で22歳学部卒ですと2,200万円かかるといいます。これは、20年、2歳から22歳まで月9万円の負担です。これに2,000万円の費用を追加です。

大学院卒となると4,400万円、22年間の教育費という計算になります。これをひと月あたりに計算しなおすと4,400÷(22×12)=16万7千円です。大学院卒の30歳くらいで、ひと月約17万円を教育費だけに費やしたことなります。これはちょっと高くないでしょうか。これには2年間働いてもらえる給与等は除外しています。

それでしたら、オール公立で20年、毎月3万。全国に86あるといわれる国立大学の学位をとる。それですと学士ですが、それでも十分ビジネスで活躍できるのではないでしょうか。国立の授業料は毎年54万円です。

それでも投資だからかなり教育に費やすという方もいるでしょう。しかしながら、アメリカ人で28歳くらいのビジネススクール卒がもらえるような年収を手にすることができるでしょうか。トップスクール20くらいですと年収は、1、400万円 ($127,000、¥/$=110 )です。それにサインボーナスと業績ボーナスを合わせると2,000~2,200万円くらいになるそうです。

日本の企業でこれほどの年収を28~30歳に支払うでしょうか。今年4月、元農水省の統計局出身の人から聞いた話です。この方はあだち区民大学塾の講師で日米経済について講演をした方です。この人によると日本の所得上位は、就業人口の7%で、その額は1、330万円とのことです。厳密には、6.7%、1,333万円という提示でした。

これに対して、アメリカの所得上位5%の平均は、45.1万ドル、1ドル100円として、4,510万円です。スタンフォード大学を卒業して、10年仕事をして38歳になると4,000万(1ドル=100円、2013年)が平均年収だそうです。

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出典 TED, "The way we think the charity is dead wrong", Dan Pallotta, 4m22sec

日本企業がこれほどの年収を日本人に用意するとはとても考えられない。それほど高い年収を払う会社が東京にいくつもあるはずがない。たとえ200万アップの1,000万になったとしても、2,000万の投資を回収するには10年かかります。30~40歳までの10年間、ずっと教育費の支払いをする。

年収が400万円アップすれば5年で回収ですが、そんなに上がるでしょうか。日本の労働生産性は、過去50年間、G7でずっと最下位です。今後も改善するとは期待できない。期待できないのにMBAをとってきてどうなるというんでしょう。しかも過去50年、MBAは結構帰国して東京の労働市場にいたのではないでしょうか。それでこの生産性です。

給料が上がったとしても今後、税金は上がります。教育費の支払いは税引き後の可処分所得(手取り)からの出費になります。4月時点でコロナ対策で80兆円もの国債発行をしました。1兆円借金するごとに国民ひとりあたり7千円の負担増になります。ですのでコロナでひとり56万円は拠出が決定している。これから増税で国民が負担します。

増税するとしたら消費税(付加価値税)を15%にするかもしれません。そうでなければ、所得税を8%から10%に上げる。コロナ前ですら国民ひとりあたりの債務は1千万円です。アメリカは740万円。

このような状況下でアメリカMBA受験をする人がいます。それで合格者が出ていることがちょっと不思議です。一体、どういう人がいくんでしょう。妥当な投資でしょうか。

わたしが家族を連れてアメリカのビジネススクールにいったのは、30年前です。外資系でずっと働くことを前提にいったものです。それでも授業料は年60万円。1年間の学費で最低限必要だったのは300万円でした。2年で600万円。それに何回か旅行をした程度です。

これが経済面です。アメリカMBA留学が投資対効果があるのか疑問です。

学びとネットワーキング

ビジネススクール在学中に習得するのは仕事に役に立つスキルです。スキルにはハードスキルとソフトスキルがあります。ハードスキルは知識であり、その中には会計・財務、マーケティング、オペレーション(サプライチェーン)、IT、経済、統計、組織行動といったものです。

ソフトスキルは、プレゼンテーション、リーダーシップ、組織内コミュニケーションといった人との関わりを学ぶものです。ファシリテーションという会議の司会進行をするようなことも含まれます。

問題解決をするプロジェクトをとりいれることもあります。

四半期制であれば、各期に4科目。2年で24科目。必須と選択あり。週2回の授業。授業1科目90分間、各回宿題が出て、50~100ページは読みます。マーケティング、組織行動は読む量が多く、150ページに及ぶこともあります。遊んでいる暇はありません。授業を受けて、グループワークをして、家か図書館で勉強して、寝るだけです。

いうまでもなく、これらは厳しい競争を勝ち抜くためにつくられています。会社では業績をアップさせるためのものであり、ヒューマニティ(人間性)を習得する科目はありません。経営を科学的に学びます。実証科学として学びます。

唯一、リーダーシップの中にオーセンティック(嘘をいわない)といったことを取り入れるようになりました。うそを言わないことがリーダーシップとして肝要です。日本人にはやや違和感が残るかもしれません。一方、多くの日本企業は決断を先延ばしにして、物事をあいまいにする。都合の悪いことを隠します。

ハードスキルの中にある科目は、すべてアメリカ人向けに英語で書かれた教科書やケース(事例)を使います。アメリカでビジネスをすることを前提に学びます。詳しくは書店にある解説本に譲ります。ただ、解説本では伝わることはなく、実際に現地で授業を受けて身体に染み込ませないとわかりません。

染み込んで身体で覚えると別人になります。まさに変身(Transformation)です。根本は変わらないかもしれませんが、ビジネスに対して真摯になります。常に貸借対照表、損益計算書、キャッシュフローを片隅におきながら、取り組むようになります。つまり人間計算機のようになるのです。これが日本には合わない気がしています。

日本に合わないというのは、ここではその理由をひとつ書いておきます。科目はまんべんなく学ぶように見えます。実際はファイナンスに偏っています。つまり、アメリカ人はビジネススクールでファイナンスを勉強したい。

このファイナンスですが、日本人であれば金融機関で仕事をしながら、著名な本を読みながらできるでしょう。たとえば、企業価値評価という本はいかがでしょうか。日本で仕事しながら、本で学べるのであれば、わざわざアメリカで学ぶこともないでしょう。

アメリカ人にとってファイナンスは、ビジネススクールでしか学べない。しかもアメリカで教えるファイナンスが最も進んでおり、そして、最も恐ろしい科目です。30年前にDr. David Heraldの授業を受けていました。彼は人的資源管理を教えていました。この先生にあることでわからないことがあり、わたしはクラスが終わった後にほかの学生と残っていました。質問をしたかったのです。

彼は、教壇から降りてきてウォールストリートのことを話し始めました。アメリカで行われるM&Aの狙いをしゃべるのです。その時の光景はいまでも覚えています。彼の説を聞いたとき、そうなのかというくらいでした。その後に起こったことと、ほかの人の言うことやデータを検証しています。アメリカでお金持ちが多いのはM&Aのためです。

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彼がいったことがほんとうであれば、とんでもないことです。そうであれば投資銀行を辞めてよかった、と。あの数分だけでもビジネススクールにきてよかった。あそこまでM&Aはえぐいのかという印象を持ちました。

そしていまでもどこかファイナンスをずっとやっている人を信用しないのはここにあります。アメリカでM&Aをやりつづけていれば、冷酷な計算機人間になりえます。そしてやられた人を最も非人間的にする。特にメーカーで働く堅実なひとのやる気を失わせる。

よく戦略だの、会社の存在意義(パーパス)だのをテーマに話をする人がいます。それは最で悪いことではありません。しかしながら、M&A、特に一部のM&Aがあるかぎりそんなものはどこかに吹き飛びます。

ここでの問いは、M&Aの仕事をしている人に「財務分析でどこの数字を見ているの」と問えばいいでしょう。これはたとえは悪いですが、結婚相手に「わたしの親の財産の中でどこをみているの」という問いに近いものです。その答えによっては相当な覚悟を要するかもしれません。

経営コンサルティングはまだよいかもしれません。ファイナンスは、最も人気があり、最も批判が及ぶところです。だだし、ビジネススクールにおいてなくてはならない科目です。他の大学院では科目として存在しない。

これらは、現地であの場にいたために身体にしみ込んで覚えているものです。

ソフトスキルは、授業の外でクラスメートとのグループワークで磨きます。4人くらいでチームをつくり課題を掘り下げます。解決策の提案をクラス内でプレゼンテーションします。プレゼンテーションの資料はそれほど精密なものでなくてもよい。しかしながら、インパクトのある発表を求められます。

アメリカのビジネスで活躍するには、かなり高度なソフトスキルが必要です。そのスキル獲得のためにビジネススクールに行きます。価値が人にあるのとは違い、アメリカ人はお金のことを明確にプレゼンテーションで述べます。

アメリカでは、企業内でそのようなスキルを習得できないのかという問いがあるでしょう。アメリカの会社には、社内研修というのがありません。すでに経験があること、あるいはかなり高いポテンシャルがあって仕事ができることを前提に雇用します。

研修のために社内教材を用意し、費用を計上してもそれをバネに転職をされたら会社としては損をします。一方、日本の会社には人事主導の社内研修があります。それをミドル(中間管理職)がサポートします。

アメリカには中間管理職などはなく、年収アップのために転職は日常茶飯事です。いつ上司や同僚がいなくなるかはわかりません。ですので常にいい環境で、かつ、いい年収で仕事をしないと取り返しがつきません。それにアメリカではいつでもどのような理由でも社員をクビにすることができます。明日からこなくていいといわれれば、明日から失業です。

研修はない、上司・同僚がいついなくなるかわからない、いつクビになるかもわからない。そんな状況だったらどうしますか。少しでも高い年収のところで働くでしょう。そしてそのような環境からはできるだけ早く抜き出たい。厳しいビジネスの世界でボロボロになるまで働くのはちょっとスマートでない。

これがアメリカ人のキャリアアップです。そのようなマインドセット(心構え)を支援するのが、アメリカのビジネススクールです。失敗は許されるはずもなく、負けることはできない。成功しか眼中にない。まして学費は、2,000万円かかる。それを自分で用意します。アメリカ人は血眼になってやります。

ネットワーキングは、もちろんグループワークの中でも育まれます。週末のイベントや野外でのアウティング、キャンパス内での様々なネットワーキングの機会があります。

その機会があっても積極的に自分をさらけだしていかないと相手にしてもらえません。かなりズケズケとした態度で相手の懐にはいって、時にはガチンコ勝負もありです。その方がかえって好まれます。違うという前提でおつきあいするのですから。

そんなこともあって2年間、同じ場所にいて念入りに長い時間をかけないとアメリカ人とは友達になれない。すぐ声をかけてくれますし、とてもフレンドリーですが表面的です。友達として深いおつきあいをするには継続的なアピールが必要です。

次回は卒業後のことについて書きます。

帰国してからの現実

卒業後は、日本に帰国して働きます。働くところは、日本企業か外資系企業です。外資系企業では、主に投資銀行か経営コンサルティングでしょう。ところが投資銀行は2008年のリーマン・ショックで壊滅的な打撃を受けました。一方で経営コンサルティングは、今でも成長しています。

ただ、外資系企業のコンサルティング会社で働くのは少数派でしょう。激務が多く、ほとんどの人は日系の事業会社で働きます。ところがアメリカのMBAをとって日本国内の事業会社で働く場合に3つの大きなリバースカルチャーショックがあります。もう一度日本文化に慣れなおすこと。その過程で管理職の雑務、能力の低下懸念、議論しない会議に悩むようになります。

まず、管理職です。日本の場合アメリカと違って昇進スピードが遅い。30代でもプロジェクトマネジャーをいくもこなすような仕事が回ってきません。ほとんどがミドル・マネージャーとして中間管理職で部下を持ちます。その監督責任には承認するだけの雑務が発生します。これだけでもかなりの時間を浪費します。時間が途切れる。業績にほとんど関係のない、無駄な仕事をばかりやっていてもしょうがない。

そして最近は管理職での雑務が多いためか、だれも役員になりたがらないといいます。何年かして、せっかくチャンスがまわってきても役員職を断る。

組織文化の違いが際立ちます。コミュニケーションにおいて日本人は英語でなく日本語で仕事する。それは当然です。ですので英語を使えてもバリュー(付加価値)にならない。それどころか仕事をする時間がかえって増えるということがあります。

日本企業はソフトスキル、つまり、英語を使った異文化間コミュニケーションを評価しない。年収や職位で差をつけない。そのため、あれだけビジネススクールでアメリカ人や留学生とやってきても得しません。英語を勉強してこない人は平気でわかりませんとし、平然としている。それで評価が下がる訳でもない。

英語でプレゼンテーションができても社内で評価されない。現状分析→解決策といったビジネススクールでさんざんやってきたことが社内では論じられない。社外へのプレゼンテーション役くらいは演じれる。ファシリテーションができても評価は同じ。ソフトスキルが高く評価されません。

そして会議では賛否を議論することがありません。この賛否を議論しないのが問題です。思考力を低下させます。アメリカは議論(ディベート)です。ところが日本企業内は議論をしない。感情で入っていき感覚で決める。感情が支配する。論理では究明しない。決めた根拠があいまいで、わけわからずなんとなく日々が過ぎていく。

アメリカでは実証です。仮説を立てて実証していく。そこで起こる対立はいたしかたない。どっちをとるかまで掘り下げていく。日本はいつまでも前置きを続ける。会議の冒頭では、熱のこもった無駄話が長々と展開される。ですので問題意識が低くてもやり過ごせる。

そうなるとやってもやらなくても同じ。働かないおじさんが大量に発生する。これが一因で50年に渡って労働生産性がG7で最も低いと考えても不思議ではないでしょう。この中にアメリカのMBAホルダーがはいってしまう。恐ろしほど退屈であり、耐えられない時間の浪費になります。

例えば、オンラインのイベントでなにもしゃべらないで時間だけ過ごして退出するひとがいます。あれはタダ乗りでアメリカでは認められません。特にビジネススクールではありえない。しゃべらなかったらなにも貢献していないと名指しで責任追及されます。そんなことがオーケーとなってしまう。マインドセット(心構え)が低く問題意識がない。

ある商事会社の品川オフィス26Fに勤務していたころ、グループリーダーは、日本経済新聞も読まず。日中はあごに手をあて、肘をついて、動画サイトをずっとみているだけだった。そんなことが平然と行われていて、フロアにいる他の20人以上の職員がだれも問題視しない。それどころかその部署が30の事業投資先をかかえた新規事業部門というからさらに変だった。

そのあとに勤務した豊洲にあるIT企業では、会議で資料を棒読みするような始末で、恐ろしく退屈な時間を過ごした。毎日、日曜日だというようなことを平然とオフィスで交わす社員もいた。そんな程度です。

アメリカのMBAホルダーが日本企業にもどって中間管理職になってもメリットがありません。その中で同じような仕事を延々と続けたらソフトスキルは陳腐化します。プレゼンテーションは、あのアメリカの教室でやったときような緊張感でやるものです。ファシリテーションは、問題提起を時間内に達成する。もともと問題意識の低いひとたちが多い組織ではそうやって活躍する場が少ない。

30代はプロジェクトをつぎからつぎへとこなす。33歳で日本コカ・コーラにもどってきたときの配属は情報システム部でした。その部署ではほとんど問題提起をするような人はおらず。ひたすらオペレーションでした。会議では発言しない。それで2年後、外部のコンサルティング会社がはいって、あわてて変わりました。時遅しです。

2年前のCEOランキングです。アメリカの企業ではMBA取得者が多いです。そしてファイナンスをやっていなければ社長にはなれない。明確です。ところが日本人でランキングに載っている社長は100人中7人。MBAホルダーは1人だけ。日本文化にあわない。日本ではMBA卒でなくても社長になれる。無理してアメリカに行かなくてもいいでしょう。

2年間せっかくあれだけやっても日本にもどったらほとんど使わないのです。それどころか陳腐化のスピードが速くレベルを維持するだけでも大変です。給与の差がないし役員になっている人は極めてわずか。わざわざアメリカにいく必要はないのではないでしょうか。

ここまでと中国

ここまでを振り返ってみましょう。この15年ほど海外に経営学修士(MBA)をとりにいく数が減ってきた。毎年60人程度で推移。30年前に人気のあった留学に行かなくなった理由には何があるのだろうか。

3つの理由があるのではないか。一つめは、経済面であり投資対効果が低いこと。2,000万円の学費と2年間の給与を放棄するのはリスクが高すぎる。22歳時点の学部卒だけでも770~2,200万円の教育費を国内でかけている。帰国しても年収アップが期待できない。

二つめは、アメリカのMBAは、アメリカ人がアメリカでビジネスをすることを前提につくられている。そこで磨くスキルはふたつ。ハードスキルとソフトスキル。ハードスキルは、知識であって、日本で仕事をしながら本を読みながらでも獲得できる。ソフトスキルは、ビジネスをする上での人との関わり。アメリカで磨いても日本国内でそれほど評価されない。年収と職位に差が出ない。

三つめは、帰国後再度日本の企業文化に慣れなおししなければならない。ミドル(中間管理職)は雑用が多い。せっかく身に着けた能力は低下する。社内会議では議論(ディベート)はしない。

こういった理由で海外、特にアメリカにはいかなくなったのではないか。大学生の皆さんにとっては実務経験を伴わないこともあり、まだ釈然としないかもしれません。

もうひとつ理由を付け加えてみましょう。この20年でアメリカより中国の存在感が増してきたことがあげられます。貿易相手国としての中国は、アメリカより存在感は大きくなってきた。輸出入の量(Volume)と金額(Value)において統計上それを示している。20年前は貿易相手国はアメリカ(青)だった。ところが2020年にはほとんどの国が中国(赤)と取引している。

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となれば、ビジネスの相手に中国をはずすということにはならないでしょう。単純化した問いをするならば、大学生はこれからどっちを向いてビジネスをするのか。アメリカなのか、中国なのか。自分なりの答えをもっていた方がいいでしょう。これからの仕事の量と数において当然差が出てきます。

これでアメリカにまでいってMBAをとらないほうがいいという理由は少しは理解いただけたであろう。ただしMBAをとらない方がいいということにはならない。むしろとっておいた方がよい。形式教育をとおして経営学を理解し、ビジネスに必要なスキルを身につけておいた方がいいのは変わらない。とすれば日本国内でよいではないか。

国内ならどこで受けたらいいか。麹町にあるグロービスか九段下の一橋大学ICSでしょう。その理由を最終回で述べてこのシリーズを締めくくることにします。

結論

経営学修士(MBA)をとる、とらないという議論はあります。とったことのあるわたしにとっては、答えは明らかです。とるです。とったメリットととらないデメリットを考えればメリットの方が大きかった。デメリットというのはあまりなかった。しかし、それは30年前のことです。しかもとったところがアメリカであった。

とる、とらないの議論でいえば、いまでもとっておいた方がいいでしょう。ところがどこでとるかということになれば、アメリカにいかなくてもよい。それは日本国内、特に東京にそれなりにいいビジネススクールがあるからです。しかも、仕事をやめなくてよい。在籍するにしても空白になることは少ない。しかも、日本の企業文化に慣れなおす必要もない。

推薦するところが2つあります。ひとつは、九段下になる一橋大学ICSです。ここは、2000年に開校。当時ハーバード大学経営大学院の竹内弘高教授が設立したビジネススクールです。日本語でなく英語で授業を受けることができます。

開校エピソードとしては、竹内教授が直接語っていたことです。それは、文部科学省の役人からかなり反対をされたそうです。国立大学としてビジネススクールを設立すること。学校運営のために税収を使う。ビジネスというお金儲けのためのなぜ国立大学がつくらなければいけないのか。国内なのに英語で授業をする必要があるのか。学校法に沿っているか。そういったところでしょう。

教授によると文部科学省から相当叩かれたとおっしゃてました。しかしながら当時かなりがんばって開校させたと聞いています。わたしは、ビジネス教育は英語でやった方がいいというのには賛成します。英語でないとディベートにならない。日本語では議論に切れ味が出ない。そしてビジネスの意思決定には論理性と科学的な裏付けのある説得力が必要です。

もうひとつは、麹町にあるグロービスです。ここは、ハーバード大学でMBAを取得した堀義人氏が帰国後に開校しました。はじめは、マーケティングからはじめて科目を拡大していき、今日では、教育、出版、ベンチャーキャピタルと事業を増やしています。茨城県のバスケットボールチームも所有しています。

希望をすれば、日本語でなく英語の授業も受けることができるようです。できれば英語の方がよい。日本語では時間がかかりすぎて効率的でない。

この2校に共通していることは、設立者がアメリカの大学院を卒業されていること。そして教員に海外で学んできたひとたちが多いことです。ですので英語で授業が受けれるのはもちろんのこと、ビジネスを多角的にとらえるところが得意です。厳しい授業であることでも知られています。

厳しい授業の方がいいでしょう。宿題もたくさん出て、日ごろから問題意識の高い人たちが集まってくる。そんなところです。アメリカのビジネススクールではないものの、東京にあることが利点です。

経営学修士(MBA)は、大学のうちからとるつもりで準備しておいたほうがいいでしょう。アメリカのビジネススクールにいくのではなく、東京にあるビジネススクールに通ったほうがよい。

なお、これは大変残念なことですが、MBAをとって何かワクワクするようなことをしようと考えるかもしれません。しかしながら、日本企業の中ではそのような機会に恵まれるのはごくまれです。中間管理職になってもそれほどいいことはありません。ですのでたとえグロービスやICSでMBAをとったとしても現実的に仕事をする必要はあります。

起業をして成功するひとも極めてまれにいます。ただ、そのような人はやったひとのごくわずか。成功確率は1%に過ぎません。100人いて1人くらいの確率ですからほとんどのひとが成功しません。ですので起業をするというような無謀なことはやめて大企業に就職する。在籍しながら日本でMBAをとる。その後は無難に過ごすことです。それも悪くはないのです。

MBAをとったとしても男女平等格差は世界149か国中121位。格差はなくならないでしょう。ダボス会議のレポートでは、是正に135年かかるといわれています。そんなに長くだれも待てません。上場企業は、これからも取り組むことなく、社外取締役も機能しない。現実的な企業勤務を念頭にMBAをとりましょう。