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40歳は変わった人をやめる時

おおよそ40年前に生まれて初めてアントレ(実業家)と会った。アントレというのは、どこかで話には聞いていたものの、会った時の印象というのは強烈。そのためいまでもどこかでわたしを突き動かしている。それがわたしにとっても会社というもののイメージになった。

会った時間はとても短い。ほんの数分程度。あのナゴヤキャッスルホテルの一室でアメリカ留学の奨学金をいただくために授与式にいった。その式には、40名くらいきており、わたしもそのひとり。ひとりひとり、名前が呼ばれて前に出ていった。出ていくとそこに偉大な人がいた。

ソニーの元会長、盛田昭夫氏だった。二つのことを覚えている。

ひとつめは、盛田さんからの言葉。「おめでとう。アメリカで思う存分、チャレンジしてください。わたしはそうしてきた。ソニーはだれもやらないことをやってきた。これからもそうしたいと思っている。」

ここが忘れられない刻印となった。会社というところはチャレンジをするところなんだ、と。そしてもうひとつ。

言葉ではなく、盛田さんが差し出してくれた右手だった。わたしは、その手を見て恐る恐るひょろっと力のない右手を出した。出した先にあるのは盛田さんの手。わたしの右手を包み込んだ。大きくてやわらかい手だった。あの瞬間、エネルギーが猛チャージしたことを覚えている。

あれ以来、人がやりそうもないことをしてもいいではないか。変わっていてもいいではないか。後悔をしないようにしよう。これらがどこかにあった。ただ、もうそろそろ幕引きをしてもいいではないか。これからの世代の人が間違ったことをしないためにも何かを書いておこう。そう考えてこの文章を書きます。

どういうことかというとアントレというのは、どこか変わった人であり、変わっているのは40歳くらいまでにしたほうがいい。そういう内容。その理由は、まず変わっているというのはだれかにいわれないと気づかない。それに自分ではおかしいと思っていないことが多い。おかしいことを気づいた時には時遅しということがある。

アントレというのは変わっている。変わっているものの、変わっていないようにいわれることがある。イノベーションを起こす人。スタートアップをする人。起業家。発明家。世の中をいい方向にもっていこうとする人。どれも形容詞としては間違ってはいません。

ところが結構、高学歴の人が自分はイノベーションを起こす人と錯覚しているケースがある。この頭のいい人の中で自分が変わっていると思っていない人が結構います。これがやっかいなときがある。

だれでも変わっている部分はあるのですが、それをいわれるまでわからない。そして高学歴であるが故になかなか気づかない。40歳を過ぎてスタートアップをしようというのはかなり変わっています。成功率1%以下といわれるスタートアップをするはずはない。

では、どうして気づかないのでしょう。

まず、だれかに何度もいわれないと気づかない。あなたは変わっている。そのように複数の人にいわれたのであれば、ちょっと自分のことを疑わなければいけない。人がいってくれるのであればいいのですが、いってくれないことが多い。

大体、他人は変わっているということを面と向かっていわないものです。でも変わっているんです。そこがまず出発点です。自分は変と気づくこと。

その気づくことはなかなかたいへんなのです。どうしてかというと高学歴でそれなりの有名企業でやっているものですから、自分は成功しており、まともであると思い込んでいる可能性がある。

そういう状況の中でイノベーションを起こそうとすると、世間が間違っている、世間がおかしいと意識している可能性がある。ところが世間一般からすれば、間違っているのはあなたのほうであって、どう考えてもあなたの方がおかしい。こうなる。おかしいのは世間ではなくあなたの方です。

そうなると時遅しという可能性が出てきます。時遅しで取り返しがつかない。破産してしまう。だれも頼れる人がいなくなってしまう。そして健康状態もよくない。そうなると状況を打破することがかなり難しい。どうでしょう。チャレンジしたい方は40歳くらいまでならできるでしょう。ただ、40歳を過ぎてからチャレンジというのはやめた方がよい。無謀です。

お金のことを気にせずに、ひとりでいつまでもやりたいことをやるという覚悟があるのなら別です。ただ、この東京でそれをやるというのはほとんどの人が失敗するでしょう。40歳を過ぎてからはスタートアップなどはしないほうがよい。ろくなことにはならず。変わった人を辞める時ではないでしょうか。

私自身の経験からすると外資系飲料メーカーに勤務していたときは30代でした。そこで新製品の試作やマーケティングに携わったことがあります。簡単ではなくとても苦労した。さらに40代では商社で新規事業のサポートなどに関わった。それが簡単ではないのです。

チェックリストです。
・人から変わっているといわれていますか。
・世間が狂っていると思っていませんか。
・あなたは40歳以上ですか。

これすべてに、はい、の場合は、あなたは変わっている。ひょっとしたら非常に変わっている。ごくわずかの確率ですが、狂っているかもしれない。

40歳は、変わっているのをやめる時です。