見出し画像

儲けは得るも、悪事の責任追わず

最初にコーポレートガバナンス(企業統治)のことを聞いたのは今から約20年前のことだった。正確には18年前。そのころとある総合商社の社内で働き、そこが30社近い事業を統括していた。それらの事業は、社内で事業が考え出されて、それぞれ独立した会社法人として機能していた。それらを事業投資先として管理する仕事だった。

それがどういうことなのかよくわからなかった。わからないまでも当時、会社内でささやかれていたのは、ときに会社は暴走をする、それが不祥事になるまえに食い止めなければならない。そんなことだった。それでも合点がいかず、モヤモヤしていたところ、上司がいった。

ここの仕事は、性悪説に基づいてしなさい。これはそこでの基本姿勢をよく説明している。至極、理解できるものだった。オリンパスの飛ばし事件、カネボウ化粧品の粉飾決算、それらに続く、おびただしい数の不祥事が発覚していた。そのような事件は後を絶たない。

昨年は、東芝の不正会計事件があった。

民間企業というのは、収益性(利益を得る能力)を伸ばすところであり、それによって得たものを社会に還元するところではない。つまり、経済的行為により公的不利益が生じても説明責任はない。頭を下げれば法律で罰せられないということだった。つまり社会的機能は不完全として理解した。

今日の朝、Harvard Business School Club of Japan、ハーバード・ビジネス・スクールのオンラインイベントを視聴した。登壇者の話はとてもよくわかる内容のもので、かつ、博士の研究はこれまでの企業活動、および、これからの企業活動を知るうえで示唆に富むものだった。

わたしは、Dr. Geoffery Jonesに感服した。博士の発表をまとめてみよう。流れは、倫理的な法人の特徴、リーダーの価値観、価値観継承の難しさ、是正の取り組み例、そして博士の結論、そして質疑だった。

博士は、歴代の人物を上げた後、倫理的な法人の特徴を述べた。すべての業界にあてはまるものでなく、ある業界にのみにあてはまるものであり、それを選択するということ。わたしの理解では、利益追求に陥りやすい金融やITでないことだった。また、ステークホルダーに対してトップが謙虚にしていること。そして組織を取り巻くコミュニティに対して責任も持つということだった。

その組織を率いるリーダーに備わる要件は、価値観として、徳(Virtue)と崇高な精神性(Spirituality)があるということ。これらは、宗教や哲学と誤解されるかもしれないが、決してそうではなく、現代の組織にもあてはまるという説明だった。

ところがこれらの価値観をトップが継承するのはとても難しい。特に1980年代、バブル経済とその崩壊から一変してしまった、と。

悪事を働く民間企業に対していくつかの是正策があるとの提示があった。最近では、ESG投資がある。ESGというのは、E(Environment 環境)S(Society 社会)G(Governance統治)の基準を満たしている会社に対して積極的に投資をする取り組み。

B Corporation というカテゴリーに属する会社を認定する制度もある。ただ、日本には7社しか該当しない。そしてStewardship(スチュワードシップ)という規定もある。ただし、(わたしの理解では)これは規定であり、法的拘束力はない。つまり、企業は、法的責任を負わない、よほどの事件でないかぎり弁護士が責任追及をできない。

ということは、(わたしの理解では)たとえ公的に被害を及ぼしても、トップは頭を下げれば、法的に裁かれることはない。

博士の結論としては、マインドセット(心構え)、それが醸成され、維持できていないかぎり、企業統治は難しい。(わたしの理解では)不祥事は今後も続くであろう。

また、営利組織として世の中によいビジネスをし、同時に利潤(経済的価値)を生み出すことは困難である、と。長期的視野に立ち、創造と変革(イノベーション)を前提として、責任(社会的還元)を果たすこと。以上が発表の内容をまとめたものである。この後、質疑の時間になり、パネリストがいくつか質問をしていた。

わたしは、博士のことが好きになった。というのは、この方は、ほんとうのことをいっている。結論に対して、わたしなりの反応を書いてみよう。

心構えとしては、持つことができてもそれを表現し、誤解されないようにするには、とても難しい時代になった。それは、やはり企業が利潤追求を第一としてもよいということ。そしてその結果として公的害が発生しても法的に裁かれない、犯罪になりにくいということであろう。

長期的視野に立つことはできる。ところが現在、人気のある仕事というのは、金融とITといった短期間で莫大な経済的価値を上げる、大儲けできるものが多い。金融では、M&A、ITでは、シリコンバレーのGAFAといったプラットフォーム型ビジネスは、短期的思考に傾いている。

創造と変革には、苦痛が伴う。というのは、イノベーションというのは、現状を破壊しながら行うものであり、狂気であるか、不正直でなければできない。そのため、犯罪行為のようなものも多い。それを一般企業で行うのはリスクが伴う。

そして悪事に対しての説明責任に対しては、見当たらない。相変わらず、企業は悪事を隠す。見つかれば、「あやまっておけば、いいだろう」くらいにしか考えていないだろう。

性悪説というのは悲しい。ただ、現状において企業が不完全な組織として存在し、それが社会的責任を果たさなくてもよいとなれば、利潤追求に走るであろう。

営利組織は、利益は得る。そして悪事を働き、結果として事件・事故を起こしても裁かれず、責任追及はされないであろう。最初に聞いてから20年がたった。

何かでいい方向に向かうようであったら、それはとても嬉しいことだ。

なお、430人のイベント登録者、視聴者には、わからないように個人的な質問を2つ送信しておいた。ひとつめは、みずほ銀行。二つ目は、HBSについてである。

Professor Jones, thank you for the presentation. The succession at the top may not be working properly at Mizuho in Tokyo. Mizuho runs ATMs throughout Japan. Their ATMs came to halt nine times last year. The general public were fuming to hold CEO responsible for it. Recently, CEO resigned. During the turmoil, they executed a lay-off of 60% of engineers. They are currently under the tight control by MoF. Isn't it the profit they are looking for? What is going on with corporate governance at Mizuho? Do you think they are disclosing enough information to prevent this from happening again?

Professor Jones, what are professors teaching at HBS? What do MBA students learn at Harvard? Isn' it profit-seeking? I know it is not as simple as it is like you explained in the presentation.