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メディアがセレブを利用して非現実的なイメージをつくりあげる

1987年大阪から東京に異動した。異動先は千代田区霞が関で霞が関ビルがあった。このビルは新橋駅の出口から見える高層ビルとして東京で働く象徴のようなところだった。わたしが勤務した会社はそのとなりにある新霞が関ビルの19階だった。そこに外資系の証券会社が入っていた。外資系であって周りは外国籍の社員ばかり。数年後にはアメリカにある大学院への留学を考えていた。そこで上司にどうしたらいいかを相談した。

上司はこういった。英紙エコノミストを読みなさい。聞いたこともない雑誌だった。ぱらぱらとページをめくってみた。わかる文章がほとんどなかった。そのため2週間くらいで読むのをやめてしまった。

ところがあれから30年くらいしてある人から都内でエコノミストを読む会というのがある。行ってみるといい。信じられなかった。あんなに難しい雑誌を読む人たちが都内にいるのだろうか。週刊雑誌でニュースにしては難しすぎるのではないか。学術論文でもないし一般向けの解説本でもない。はたして読む人がいるんだろうか。あの読書会に参加して13年が経過した。

今週号の英紙エコノミストにテーラー・スイフトについての記事が掲載されている。タイトルはこの記事はテーラー・スイフトのストーリーではないとある。ではなんなのか。記事の出だしはスイフトの人気は高く、それに人為的につくりあげられた(嘘の)ストーリーができてしまっているということ。

2月11日(現地時間午後6時、日本時間12日朝8時)ラスベガスで第58回スーパーボールが開催される。試合はカンザスシティ・チーフスとサンフランシスコ49ersの間で行われる。テーラー・スイフトは前半と後半の間にあるハーフタイムショーに出る。彼女のボーイフレンドはチーフスのタイトエンドであるトラビス・ケルシーだ。この二人の関係をめぐって様々な憶測が流れている。それについての記事だった。

ひとつはフォックスニュースが話題に取り上げている。テーラー・スイフトの音楽は偉業を達成し多くのファンを魅了している。チーフスのゲームにも応援にきており二人の関係はまじであるとのこと。ちょっとばかばかしいような表現であるもののこういったありえないような作り話に多くの視聴者がロマンスを味わうという。

また別の憶測ではどうもテーラー・スイフトがハーフタイムショーをつかって演じ、大統領選挙でのバイデン候補のプロモーターとして一役かっているのではないかというもの。この説はペンタゴンは否定しているという。

最後に英紙エコノミスト誌の記者自身が憶測を展開している。これがなかなか面白いので紹介しよう。執筆者は歴史家のダニエル・ブースタインから引用している。引用先は「The Image」で1961年に出版された。日本語訳は出ているだろうか。

ブースタインによるとアメリカ人は世間に期待しすぎているという。ニュースメディアがありえないようなことをとりあげる。例えばテイラー・スイフトとケルシーといった恋人関係を報じる。こういったことは人為的に仕組まれた報道であるという。

こういった報道は危険にはらんでいる。人工的に作られた報道ストーリーはセレブが達成したこと業績の価値を低下させるという。セレブというのは概ねでっちあげられたものに近い。なにか人が成した偉業をさらに誇張することで読者を喜ばせるような仕掛けがあるという。注目をひくための情報合戦に過ぎず、内容的にはどうもちょっとばかげているらしい。

どうでもいいことではないがこういったことに注目してしまうところが非現実的であろう。メディアがこういった非現実的なセレブの恋人関係に乗っかって報道をしてしまうところに問題がありそうだ。

2週間で放り出したエコノミスト。30年後には仲間と読書会をして十年が経過した。随分と役に立った。この週刊雑誌は非現実的なストーリーを意図的に書いているとは思わない。一方で執筆者はなにかしらの偏見や思い込みもあるのではないかという疑義も持っている。中立的な雑誌などはこの世に存在しないのであるから。

大学生の読者の皆さんはどうでしょうか。新聞、TV、SNSと情報入手のためのメディアはたくさんあります。ただどうも非現実的なイメージだけをつくりだして読者の注目を引こうとしているメディアがある。それはほんとうのようです。

自分の目で見て疑い、いろいろな人、特に識者や専門家の人の意見を聞いてみるのがいいでしょう。