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子供を持つことよりもパートナーと幸せになる

27歳で上京し1年くらいした頃のこと。大学時代の友人と都内で会って食事をしていた。そこでの会話はこうだった。おい、そろそろ俺たち結婚をして家庭を持った方がいいんじゃないか。そういう会話が自然だった。どういうことかというと二人とも首都圏での仕事に悪戦苦闘していた。そうなると身の回りのことを手伝ってくれる人を探す。それがお嫁さんというものだった。

お嫁さんの候補になる人を大学時代に探し損ねたことが後になって大変苦労することになる。運よく見つかればよし。そうでなければずっと独身で掃除・洗濯といった身の回りのことをしなければならない。それで週末はほとんどなくなってしまう。あっという間に週末は時間が経つ。

このところイベントで日本の少子化問題について話題になることが多くなった。東京ではどちらか一方が家にいて子供を産んで育てるという生活スタイル。それがなくなった。両方が稼いでいないと生活すら成り立たない。そして空いた時間を利用して両方とも仕事でスキルを身に着けるために時間を使う。結果として子育てに余力がなくなる。子供を産んで育てるどころではない。全体的に出生率は年々減っていき人口減になっていく。

長い期間で考えれば一家に子供が二人以上生まれなければ人口は減っていく。二人いればなんとか数は維持できる。しかし増えもしない。両親はやがて他界して子供たちが残る。子供一人では人口は減っていく。

イタリアでは1964年の出生率は2.66あった。それが2020年になると1.24にまで減少した。出生率が1を下回ると急激に人口は減少する悪循環に入る。スペインにおいても同じような傾向で1.19とよろしくない。両国において女性は平均2人の子供がほしいという。しかし経済的理由から断念している。

一人当たりのGDPと出生率は正の相関がありそうだ。以下のチャートは英紙エコノミストに掲載された記事からとったものである。一人当たりのGDPが比較的高いアイルランドは購買力平価による実質ベースで$90,000になる。これは一ドル132円で計算をすると1200万円。アイルランドの出生率は1.6である。アメリカでは$60,000で800万円となり出生率は1.6である。

The Economist, "Why there are so few babies in southern Europe ", Feb 23, 2023

ところがイタリアとスペインではそれぞれ$40、000(530万円)に満たず出生率は1.2と低い。日本は同じく$40,000(530万円)であるものの1.3とやや高いところに位置する。日本では一人当たりのGDPが800万円くらいにならないと子供を産んで育てるのは難しい。

日本やイタリア、スペインで一人当たりのGDPが低く出生率が低いのはいろいろな理由があろう。年収、キャリア、そして家庭の変化が大きい。年収は二人で稼げばそれなりにもらえる。ただし働く女性の年収はいまだに低い。キャリアにおいて女性の社会的進出が遅れている。身に着けたスキルを活かす場所がない。長時間労働のため給料がよくて仕事にやりがいがあっても子供を産んで育てられない。経済的負担が大きい。

第一に住む家がいる。都内においてはマンションの平均価格は6千万円以上だという。第二にもし子供がいた場合2歳から22歳の大学卒業までの教育費が加わる。20年間にオール公立で770万円。オール私立であればその3倍近い2200万円がいる。それぞれ月3万~9万円の出費になる。大学卒でないといいところには就職できない。

これだけの費用を結婚適齢期の20代後半に背負うことは無理だろう。800万以上の年収が安定して入ってくることなどありえない。公的機関であればリストラがないため可能な場合はある。民間ではありえない。というのは現在非正規雇用は労働人口の36%にまで達している。そのひとたちは事業がうまくいかなければ契約を切られてしまう。公務員ではないのだ。

ではどうするか。少子化を問題ととらえないことだろう。結婚をするなり事実婚としてパートナーと生活することは賛成する。その先にある子供を産んで育てるということは慎重になったほうがいい。女性が子供を欲しいといった場合は話し合いが必要であろう。一般的には女性は2人くらいはほしいという。それは母性として持っている。しかし結婚→家族とはならない。そういった生物としての自然は東京にはない。

確かに子供はひとりいたほうがいいだろう。わたしにとっても息子からかけがえのない教訓を学ぶことができた。そして親としてあるいは夫としての振る舞いも身についた。ただし現状において20代後半の人たちが子供を育てていくとなると経済的負担があまりにも大きい。そうなると二人目は難しいということになろう。ひとりでも負担が大きい。

仕事で成功するかどうかというとさらに難しい。というのは成功にはそれなりの運を味方につけることが重要になってくる。それがだれにも公平に与えられているわけではない。むしろ仕事で苦痛や苦難を味わい失敗の烙印を押されることすらある。そうなってはじめてわかることがある。助けてくれる上司もいなければ救い出してくれる組織もない。

成功によってもたらされる権限と富がほんの一部のひとたちにしか与えられない。権限と富が集中してしまう。前者は霞が関に後者は丸の内である。それが東京の現状である。

それよりもパートナーと幸せになる方法を考えていいのではないか。一緒にいる時間を持ちながらお互いの関心のあるところで会話をする。それぞれの友達といっしょに都内で会ってパーティーを開催する。ペットを飼って育てることもできる。それでいいのではないだろうか。そうしているうちに40代が見えてきて子供がいなくてもよくなる。子供にかける出費がないため老後に向けて貯蓄ができるはずだ。そちらを選べる。

わたしが結婚したころは家庭を持って子供はふたりを育てる。どちらも都内で過ごしそれぞれに家族を持っていく。そのような好循環が期待できた。残念ながらもうそういう時代ではない。収入をふたりで蓄えて余生をのんびりと暮らす。そのほうが無理しなくて済む。

子供を持つことよりもふたりで幸せになることを選ぼう。それが東京のライフスタイルだろう。