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ファミリーマートの行方

2001年9月11日。この年月日を聞くと読者の大学生は何の日のこととして知っているだろうか。そのままネット検索をすれば大きな事件があった日として世界中に知られている。それは世界同時多発テロがあった日である。テロ事件によりニューヨークのワールドトレードセンターは崩壊した。この事件から犯人を突き詰めていき、アフガニスタンに潜伏するオサマビンラディンの殺害へと展開する。

こう書いてしまうとなにかあっけらかんとしている。そうなのか。そんなことがあったのかで済んでしまいかねない。ただわたしにとってはこの日はちょっと違うこととして記憶されている。わたしはテキサス州ダラス国際空港にいた。朝8時半、事件が起きたことをしらず数十分後にミネソタ州に飛行機で移動する予定だった。そしてニューヨークから合流するひとを待っていた。

その人というのは当時ファミリーマートで執行役員をしていた人だった。アメリカにおける小売業の実態を視察した後にダラス空港に到着する予定だった。しかしいつまで経っても来ることはない。わたしは商談がこれ以上うまくいかないことはわかった。なんとか数日後無事に日本に帰国できればそれでよい。商談は流れ、ただ帰国だけできればよいというアメリカ出張になった。


きっかけ


ハーバード・ビジネス・レビュー読書会というイベントに参加をした。そこでは雑誌の特集を読んできて関心のある記事を選ぶ。その中から気になったところ、参加者と話してみたいところを出し合う。特集記事は5本あってそのひとつがファミリーマートだった。ファシリテーションをするひとがいて順番に論点を出し、問題提起をする。そういった2時間である。

参加してきたのは16名ほど。オンライン組は10人くらいで5人の部屋が2つできた。そのひとつにわたしは入り、参加者の関心事に耳を傾けていた。どういった内容であったのかはここでは書かない。ただわたしが記事を読んだ上でやや違和感を持ったところを簡単に紹介しようと思う。

要旨


どういった違和感かというと次の3点である。ひとつはなぜファミリーマートの記事がDHBRに掲載されたのかということ。DHBRというのはダイヤモンド社出版のハーバード・ビジネス・レビュー(日本語版)のことをいう。次にどこかハーバード・ビジネス・スクール(HBS)とファミリーマートが釣り合わないこと。そして最後にHBS卒業生がファミリーマートで働くことはないだろうということ。そのあたりである。

ひとつひとつ見てみよう。

収益減

DHBRというのは大学教授や経営コンサルタントが寄稿する雑誌である。教授はビジネスの研究をする。学術論文として学会で発表をする。これはあくまでアカデミックで研究者を対象としたもの。そうではなく一般読者向けに研究論文を紹介をするのがDHBRだ。この雑誌には簡単な解説として掲載されている。ファミリーマートはインタビュー記事として載せられていた。

ここにやや違和感が生じた。というのはこれらの記事というのは一般読者であっても経営者や経営コンサルタントが読む。その場合対象企業の業績を気にするはずである。ファミリーマートの最近の業績をウェブサイトから見てみる。すると過去5年間で業績は下降しているのである。

第40期の有価証券報告書を見てみる。その5ページには過去5年の営業収益がある。2017年に8438億円あった収益が2021年になると4734億円にまで落ち込んでいる。約3700億円という減少幅である。これは不振に陥っている企業としてとらえられても不思議ではない。

念のため営業収益の時系列データを記しておこう。
2017年2月期 8,438億円
2018年2月期 6,370億円
2019年2月期 6,172億円
2020年2月期 5,171億円
2021年2月期 4,734億円

このような業績の会社をDHBRに掲載するというのはどういうことだろうか。経営者が読んだらどう反応するだろうか。経営コンサルタントが見たらどうだろう。これはかなり苦戦していると解釈するだろう。こういった業績数値を見逃すわけはないのである。収益が下がって苦境に直面している会社を特集に掲載することは普通は考えられない。

学費との釣り合い


次にDBHRはHBSの教授が寄稿する。このHBSというのはビジネススクールでも最高峰の学校である。しかも2年間の学費も決して安くはない。HBSのウェブサイトによると2023年度における1年間の学費は115638ドルであった。これを日本円に換算すると1670万円。2年間にすると3340万円かかるということである。これを計算した時の為替レートは144円である。

これを1日当たりで計算すると4.6万円。1日HBSで勉強するだけで5万円近くかかるという計算になる。

こういった途方もない学費。そこに通う学生がファミリーマートのビジネスに興味がわくのかどうかはさだかではない。どちらかというとウォール・ストリートやシリコンバレーを目指すのではないか。そうでないと学費とやることとの採算が合わない。

東京港区芝浦でおにぎりや弁当のことを考えながら仕事をするとはちょっと考えられない。高い学費と売っているものと釣り合いがとれていないのではないか。

卒業生の行先


確かにコンビニエンスストアのビジネスというのは日本では成功してきた。しかし飽和状態になり競争が激化している。そのため本部の業績が下降。東南アジアに進出をするくらいしか魅力のないビジネスである。そういったところにトップ・ビジネススクールの卒業生が魅力を感じるであろうか。卒業生はいかない。読者である若手の経営コンサルタントにとってもそれほど魅力がわくとは考えられない。

行方


ダラス空港で5時間何が起きているかわからないまま過ごした。ホテルにもどるとそこにはCNNが崩れ落ちたワールド・トレード・センターを映していた。数日後、帰国の便に乗った。なんなのかよくわからないまま成田空港までの14時間を過ごした。

その14時間で考えたことはこうだった。どうもファミリーマートのビジネスというのは特攻隊員のような特徴があるのではないか。年間季節により3千もの商品が入れ替わる。一日100近くが棚から落ちたり入ったりする。読者の皆さんは店内で忙しくしている店員を見たことはないだろうか。

そういったビジネスに何億もするようなソリューションは合わないのではないか。わたしが当時勤務していたアイ・ツー・テクノロジーズのという会社。途方もない価格のソリューションを売っていた。そういったものを無理やり使わせるよりもむしろ人海戦術でいったほうがいいのではないか。そう考えながら過ごした。

ファミリーマートの記事を読み返すとどうも基本に忠実に仕事をするとある。デジタルに振り回されることなく。ということは朝から晩まで取り扱い商品の販売分析をするということになろう。こういった仕事のイメージがわいた。

あれから23年以上が経過した。だだどうもファミリーマートの基幹事業は相変わらずのではないか。これからも根本は変わることはなかろう。それが悪いというわけではない。そのような結論に達した。