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DEI意識の下降、原因、これからの懸念

1980年に名古屋にある南山大学では男女平等ということが比較的平然と語られていた。わたしはまだ若く働く職場のことはほとんど知らなかった。男女で同じ仕事をしているのなら同じ給料をもらえる。ごく当たり前ではないか。差が出るというのがおかしい。そんなことを普通に考えていた。

もともと3人兄弟の末っ子として育った。上には姉がいて、同じ大学を卒業。在学中もどう見ても好きなことをしていたがよく勉強はしていた。やがて同じ大学に通う男性と結婚をして2人の子供の親になった。家にいるよりも仕事のやり手として外に出ていった方がいいのではないか。そんなことがごく自然だった。才能が家の中に埋没するなんてもったいない。

44年後の今日、9月21日付の英紙エコノミストの記事が目に留まった。記事のタイトルはDEI意識は弱まっている。冷ややかに意識高い系の陥落傾向が起き始めているという記事だった。

下降をしている状況をデータを使って説明し、その後に3つの原因を述べている。結びとしてはこういった傾向が続くとまたしても懸念材料が出てくる。こういった構成で記事はまとめられている。文章の構成としてはわかりやすく、よく書けている文章である。

さてここでは記事の切り口とそれに対する意見を述べてみたい。要点としては会社内で引き続き議論をしたほうがいい。議論をやめない方がいということだ。

まず下降状況を説明するにあたり4つの視点で定量データをチャートにしている。4つとは世論、メディア、高等教育、そしてビジネスである。2000年からのデータを棒グラフと折れ線グラフにして変化を示している。

いずれも4年前のミネソタ州でおきたジョージ・フロイド殺人事件をきっかけとしてDEIのブームが起きた。DEIとはいうまでもない。D(ダイバーシティ)、E(公正)、そしてI(包括)ということだ。人種によって差をつけないことを狙いとする。

世論のデータをみると人種というのが一番深刻な課題としてよくあげられる。はたしてそうなのかという問いが発せられた。その回答でそうだというのが一気に下がっていき、10年前の状況と同じくらいの水準になっている。

メディアにおいては高い水準にあるもののごく最近はじめて下降に転じた。高等教育の受け入れでも世論と同じような下降を示し、論文の発表もはじめて下火になってきた。論文が発表されないということは研究テーマとしてあげられない。

大きなところとしてはビジネスにおける点だ。四半期の取締役会で議題に上がらなくなった。そして比較的大きな企業においても転職でテーマとしてアピールできないようだ。

この傾向はおそらく間違いはないだろう。その原因の提示が面白い。ひとつは熱が冷めたのには関連部署の予算がカットされたことがあるという。そのためDEIを推進するコンサルタントが稼げない。

次に最高裁の決定で大学のおいてマイノリティのひとたちへの優遇しないことになった。優遇せずにどの人種にも入学基準を平等にとるというスタンスだ。メリットに配慮し、しなければ違憲となり訴えられる。

最後に会社側がDEIといった話題をとりあげる。するとかえって業績が下がることがある。それを気にし始めたという。消費財のBudLightでは売り上げが下がり経営への懸念がされたという。そうなったら役員は平静にはしていられない。

これらの原因は最もであろう。ただわたしが考えるのはDEIの中でのEである。Eとは公正であること。法律に規定されているとおりに差別をしてはいけない。いかなる人に対してもとある。これには疑問の余地がない。

ただし少数派を優遇することで多数派が公平に待遇を受けられないことがある。公正であっても公平ではないのがDEIである。

実際に若い男性は職場でやる気をなくしている。女性を優遇しようという力学が職場で起こってきている。するとどんなに頑張っても給与があがらないし、職位も上がらない。ならばやる気にはならない。子供がうまれたら育児休暇をとらなければならない。厳しい職場で一生懸命にやっても上には行けないと考え始めてしまう。それは逆効果であろう。

日本ではこういったことはあまりまともには議論されない。しかし議論は必要であろう。

多くの日本企業の社員にとってはこの話題は関わりたくないと思っている。めんどくさい話題だとして無視されている。それが現実だろう。というのは議論をしてもなにも給料に反映されないからだ。それではいけない。

こういった懸念はこれから起こってくるだろう。たとえ下降したとはいえこの話題はすぐには消えてはいけない。消してはいけないだろう。どこかで再発する。

若い人たちがアメリカに留学しなくなってきている。費用がかなりかかること。卒業をして帰国しても成功が約束されないこと。こういったリスクはある。ただしアメリカの東海岸や西海岸での進歩的なビジネススクールにはいったほうがいいこともある。こういったことを議論をして学んでこない限りは現実というものがわからないだろう。

40年前の男女平等というのはこう理解した。女性を性別で差別してはいけない。このシンプルなことがなぜこれほど難しいのだろうか。

内閣府の発表によれば男女格差の是正は進まず日本は世界で121位だという。中国や韓国よりもランキングを落としている。この調査にはいろいろと問題があろうがここまで低いのを一気にあげようとしても難しい。

政治、ビジネス、大学で一定比率のところまで公正・公平に上げていく必要があろう。それは議論を続けることによって可能になろう。