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防衛構想における日米同盟の死角

1980年、いまから44年も前になる。そのころ大学の授業になんとなく飽き足らなさを感じていた。厳しい受験勉強を通り抜けて合格した。倍率は10倍だった。この学部は10人中1人しか合格しないのか。それにしては大学の中で行われている授業には違和感を覚えた。興味のわくテーマが少なかった。

180人の学部は30人づつに分けられた。苗字をアルファベット順にならべて6つのグループがつくられた。わたしはHであるからして一番初めのクラスだ。仮にA、B、C、D、E,FとしてAのクラスに入ったわけだ。それ以外のクラスの人とは無縁に近くなった。

ほとんど同じような人たちだろう。わたしはクラスのとなりにいる男性に声をかけた。反応よろしくすぐにうちとけることができた。しかし女性たちは180人いる同級生とまんべんなく話しかけているようだった。これが不思議でならなかった。

授業に満足しないわたしは友達に話しかけた。なんか物足りない。もうちょっとなんとかならないか。友人は教えてくれた。名古屋駅の近くにアメリカンセンターというのがある。そこのビデオを見ると面白い。

そこでわたしは覗いてみた。するとそこで大統領選挙に向けて候補の演説やディベートを見ることができた。こちらの方が大学の授業よりも数段面白かった。そのためか授業が終わるとアメリカンセンターに行き、しばらく入り浸った。これが卒業まで続いた。

いつも入室してビデオを見ていると職員のひとたちからもなぜかかわいがられた。アメリカンセンター主催のイベントがある。来てみないか。そういうものだった。そのイベントでは日米における防衛構想や貿易摩擦といったテーマをとりあげていた。そこに来る講演者の巧みな話術に自然にひかれていった。


きっかけ


2024年1月11日。政策大学院大学主催(GRIPS)のイベントがあった。そのイベントでは日米における経済安全保障がテーマとしてあげられていた。まず識者から発表があり論点整理が行われた。すでに日本とアメリカという政治上のパートナーシップということは語られなかった。二つの国は双務関係にある。また貿易のパートナーとしても補完関係にある。よって政治・経済の関係は語られずむしろ前提となっていた。

そこで40分の説明で語られたのは技術協力についてだった。軍事的な技術において両国で認識合わせをしておかねばならない。そうでないと両国にとってどちらとも損をする結果になりかねない。そのための防衛構想を煮詰めておくということであった。これは難しい。というのは技術の話というのはそれほど簡単ではないからだ。

問題提起


どういった点が難しいのか。二国間で話し合いをしたとしても死角が発生する。そのような指摘があった。ひとつは民間と行政のへだたり、次に人材育成、そして企業の在り方。どういうことだろうか。

まず民間企業と行政の間にギャップが存在する。それを埋めるのは簡単ではないのではないか。この問題はモデレーターをしていた道下先生から発せられた。(わたしはこの先生のことを尊敬している)

どういうことかというと軍事的な技術、主に武器として使われる技術は企業の中にある。それをつくっている民間企業に集まっており、外には情報が漏れない。解放されない。軍事機密になる技術は民間企業の一部の人たちの中で極秘に開発されているというものだ。よって普通のひとではアクセスできないという。この普通という人の中には政府関係の人たちも含まれる。

よって行政にかかわる人たち、霞が関の官僚、国会議員、そして裁判所のひとたちは先端技術にアクセスする権限をほとんど持ちえないということ。となれば企業の中のごく一部のひとだけが持ちうる先端技術のため暴走を制御できない。そのようなリスクが存在するというものだった。

なるほど。民間と行政のギャップというのはこういう側面がある。これはなかなか埋められないだろう。民間企業が極秘の先端技術を安々と政府の関係者に渡すわけはないからだ。そんなことをすれば内部告発として企業にはいられなくなる。

次に人材育成に関して。これも道下先生から問題提起があった。プレゼンテーションをした識者からは先端技術として19項目があげられていた。その中でも重要な7分野が選択され指摘されていた。いずれも防衛にとっては脅威となりうる技術のように受け取られた。

しかしこれらの技術を評価できる人材が不足しているというのである。確かに7分野としてあげらていた技術は言葉の上ではなんとなく理解はできる。これがどの程度脅威になりうるか。一般の技術者では評価が難しい。ひょっとしたら日本の防衛庁や自衛隊の中でも的確に評価できる専門家がどれほどいるか。不明なのである。日本は武器を持たない国としてこれまできた。そういった領域は避けてきたこともある。

そして日本は今でも武器を外国に輸出している。スウェーデンの軍事関係の研究所が発表している各国の武器輸出データがある。そこには毎年どの国がどのくらいの武器を輸出しているか。金額ベースの統計がある。それが企業ごとにランキングされている。ランキングには上位100の企業が名を連ねている。

日本企業は上位100社の中には3社入っている。三菱重工業、川崎重工業、IHI石川島播磨重工業の3社である。それぞれ43位、65位、そして99位である。これはちょっと違憲行為ではないのかとの疑いもあるがとにかくこれらの企業は武器を輸出している。

識者によるとこの事実はあるにしても企業はなにかしらの評判リスクを負っているとのことだった。この話の流れからしてこういうことがいえる。もしこれら3社がわかっていて武器の輸出をしている場合にはなんらかの問題視されるリスクがある。輸出している武器というのは一体何なのか。それらに先端技術が含まれるかどうかは容易にはわからない。

もし輸出品の中に国家機密に関わる武器がリストとして入っていた場合はよくない。その場合は通常ならば株価にも影響を与えよう。企業が一部のひとたちのためだけに利益を社内にためこんで社員には還元をしない。また国家に対してなにかと不穏なメッセージを送りつける。それによって不安をあおるのである。ひいては国を守るため国防を強化しなければならない。それには自衛隊を増強。税金を回す必要がある。そういった展開も可能になってしまう。

これは考えすぎかもしれない。しかし防衛構想というのはなにかと心理的な側面が多い。いたずらに政情不安をあおり国民から税金をもっていく。企業が不必要な武器を輸出して利潤を独り占めにする。そういったことはありうる。

これから


40年の時がすぎ、わたしはもはやあのアメリカンセンターにいくことはなくなった。しかし大学の授業のあとに訪れた名古屋のアメリカンセンター。そこで視聴した時間は無駄ではなかったと振り返っている。

このアメリカンセンターという無縁の場所を教えてくれた友人は大学卒業後に外務省に入省した。数年での国内研修のあとにイギリスに留学した。わたしも同じ時期にアメリカに留学をした。それぞれセンターで身に着けた知識や経験をもとにふたりで話すことがあった。

帰国前にどうしても彼に会いたかったことを覚えている。そのためアメリカから日本には帰らなかった。ニューヨークに飛んでそこからイギリスにいった。そして電車で4時間もかけて彼が留学をしているエディンバラ地方までいった。再会ができてよかったと思っている。

二人とも政治や経済のことはよく話した。しかし40年の時を過ぎて軍事の先端技術に関しては素人のまま。これからでも遅くはなかろう。もうお互いに定年まじかでもある。ゆっくりと学びなおして日米同盟とその死角について話すのも楽しいではないか。