メタバースは良薬か毒か
2007年の春、わたしは新しい部署に配属になった。その配属先はちょっと風変わりな名前であった。知財部。この名前から連想されるものはなにか。そしてなにをするようなところなのか。部署に配属された20名ほどの職員は、わたしも含めてほとんどがなんのことかわからなかった。
ところは、豊洲にある日本ユニシスという会社。そこで総合技術研究所という部門があった。その中の一つが知財部。つまり知的財産を管理する部署であった。世間一般の理解では、特許を管理するところとされるであろう。わたしもそう理解した。そこで組織の外で知的財産を扱うところはないかと探した。セミナーにも出席した。
そこで乃木坂にある政策大学院を知った。そこでは、知的財産を扱う勉強会が行われていた。なにやらよくわからなかったものの、どうも法律と技術が交錯するところで話題のテーマを勉強するものだった。それが特許にも結び付いた。
ところが3年間、知財部に過ごしてみて、特許についてはなにもやらなかった。特許ということばすら部内では、飛び交ってはいなかった。これはおそらく名前をつけたひとの勘違いであったろう。それをランチで遠回しにいったところ、本人は気分を害した。ほんとうのことはいってはいけない。
2か月前に政策大学院からイベントの案内をもらった。引きこもりが社会問題化しているという。その数は100万人以上。そんなにもいるのか。いるはずがない。ただ、4人の識者がその問題に解決策を提示しようとしていた。メタバースを使って社会復帰させようというのである。
引きこもりとはなんだろうか。メタバースは、効き目があるのだろうか。識者はなにか勘違いしているのではないか。何がしたいのだろうか。そのような文章を書いてみます。
イベントの内容はここに掲載されています。以下の文章は、なにぶん専門家ではないわたしが、研究の第一線にいるひとたちの発表に向けて書いているものであって、まだ不完全なことがあることは断っておきます。
引きこもりというのは、家の外から出ずにずっと家の中で何かしている。していることは大体はコンピューターゲームでしょう。最近のコンピューターは高速化している。アプリも3D化しており、ゲーム性が高まってきている。そのため、だれもが中毒になろう。つまり、はまる傾向を意図的に仕掛けて作られている。
家の外に出ずに1日中、4時間とかゲームをしていれば、ゲーム中毒でしょう。6時間であれば、ゲーム廃人への道をまっしぐらというところでしょう。ある本によると中国北京には2,400万人いるといわれています。
さて、これは発表者に実際に投げかけた質問です。引きこもりとは、病気なのか、行動嗜癖なのか、それとも社会問題なのか。どうもはっきりとしたものがない。病気でなければ、医療行為ではない。行動特性であれば、社会療法、心理療法を用いる。社会問題であれば、自治体が支援しなければならない。それらがどうもはっきりしない。
はっきりしないところにメタバースという仮想現実世界を投入しようとしている。わたしはこれには違和感を覚えた。というのは、ひょっとしたらメタバースという技術を使うことで、引きこもりの症状がある人たちは、ますます引きこもり傾向を強め、社会復帰、つまり、ほかの人たちと過ごすことをしなくなるのではないか。つまり、症状がむしろ悪化するのではないかという懸念です。
そして、ある識者がいっていた仮説の一つに確か30年後の2050年くらいには、日本の人口の一定数(5%くらい)が引きこもりになるのではないか、それが普通であろうという意見があったことです。これは、むしろ引きこもること、社会的生物としての存在を否定するような方向に導いているのではないかという懸念です。
そしてこの識者のひとたちの狙いは何なのか。これは、想像ですが、どうもこれから設定される国立大学を中心とした研究費、10兆円ファンド、これを狙いにいっているものではないか。いくらかの研究費の予算獲得のためにこのような研究、実証実験、そしてなんらかの治療行為に使うことが正しいことなのかという問題提起がわたしにはありました。ほんとうに引きこもりの是正になり、社会復帰できるのならお金を計上するのには、問題ありません。
ところが、もともと民間のゲーム会社がお金儲けのために、次から次へとゲームアプリを開発し、市場で展開した。ユーザーはそれにはまり、知らず知らずのうちにゲーム中毒になった。気が付いたら、人とつきあうようなめんどくさいことをしたくなくなり、家でゲームだけをするようになった。そういったひきこもりの原因を作ったのは、ゲーム会社ではなかったのかということです。
しかも、引きこもりが100万人以上いるから、労働市場にはなかなかいけないから、今度は、同じようなIT企業、特にゲーム会社がメタバースをつかって、ほんとうに薬になるのか、また、毒をさらに盛るのかわからないまま、国の研究予算をつけてなんらかの行為をする。自分たちで蒔いた種で、社会現象が起きたのであって、それを税金で是正しようとする。それはいかがなものかということです。
あれから、15年。法律と技術の交錯する勉強会には何度も出席しました。ただ、このイベントの内容は違和感が残った。というのは、法整備が遅れている。ゲーム会社の暴走をなんらかの法制度で抑制することはできなかったのか。そしてひきこもりというのが病気であったのならば、医療行為として法律をつくらなければならない。そういった法律はおそらくないでしょう。
また、自治体の支援は、なかなか届きにくく、効果も限定的でしょう。
原因がはっきりとしない引きこもり傾向。それにメタバースを使おうとしていること。わたしの意見では、これは良薬ではなく、むしろ毒になるでしょう。なにか、識者は勘違いをしているのではないか。
行き過ぎた技術を乱用することは控えめにしたほうがいいでしょう。