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ジョブ型にはならない

前回のブログで大学生の皆さんに向かってどうやってジョブ型に備えるのかを書きました。ジョブ型という慣習になれば、働く人たちは経営コンサルティングのように働く。働き方は、作業単位(タスク)を意識し、やることリストをつくって働く。タスクを集めると1週間、あるいは、四半期程度の作業分解構成図(WBS)になる。スケジュールと会議を管理しながら、プロジェクト単位で社内外の人たちと厳格に働くというようなことを書きました。

これは、わたしの過去の経験をもとにしたものです。そして現実はどうなるか。まだわかりません。そこでオープンなオンラインイベントに参加しました。東京経済政策勉強会(TSEP)で現役の経営コンサルタントが数人集まりました。ジョブ型とは何か、何が起こるのかといった話題を取り上げていました。わたしも視聴者として参加をし、悶々としていたことが少しばかりわかりかけていました。ここではジョブ型になっていくのかということについて書いてみます。

結論からいいますとジョブ型にはならないでしょう。

それには以下の理由があります。ひとつは、仕事は何なのかというジョブの定義が簡単にはできない。次に事業会社で働くひとたちは経営コンサルタントではない。そして事業会社の場合、欧米の契約型がなじまないというのがあります。詳しく説明してみましょう。

まず、ジョブ型からスタートした場合、ジョブ型とは何なのかを人事主導で進めます。うまくいくかどうかはわからない実験です。ジョブ型にあてはまる25~45歳くらいまでの人たちを集める。専門職のひとたちの仕事は何なのかを定義しようとしてみます。その定義が簡単ではないことがありえます。延々と話すもののジョブ型とは何か、仕事はなにかで明け暮れてしまう。

仕事の定義をする場合、大工程は計画(P)、行動(D)、検証(C)、実施(A)になります。日常業務はルーチンですので、実施(A)です。多くのサラリーマンは、これを朝の9時から5時までする。そしてなるべくミスなくやればいいことになっています。決まった仕事です。

ところがこれをジョブ型にしてコンサルタントのように働くということはどういうことでしょう。通常、計画(P)、行動(D)、検証(C)をするわけで実施(A)はしません。また、計画というのは、プロジェクト計画書であり、そこで顧客(勤務先)と取り交わされたものをつくって納品するわけです。

経営コンサルタントによっては、プロジェクト計画書のようなものは、業務委託契約の中でするものではない。大まかなものでいいから、契約がはじまる前にほしい。すぐに問題発見をする作業をすぐ開始してほしい。つまり、計画などは、就業時間中にするものではないことがありえます。

そうなるとこの計画をする、作業単位(タスク)に表し、作業分解構成図というのが準備であってジョブではない。就業時間中のするのはいかがなものかというのが出てきます。どこまでが仕事でどこまでが仕事でないのか。これはコンサルタントの業務委託契約のようにはいきません。

組織の外からひとを雇って問題を定義し、解決策を提示する。それを報告書にまとめて納品する。そういったことを事業会社の社内のひとがやるのかどうか、やれるのかどうかといったことが発生します。やらなくてはいけないのか。そんなに難しいことを要求するのか。

これはおそらく、やれないでしょうし、やらないほうがいいでしょう。やったとすれば、問題がつぎからつぎへと噴出し、収拾がつかなくなりえます。事業会社のひとはそういった訓練すら受けていない。

たとえば、前回のブログでコカ・コーラの物流構想プロジェクトについて書きました。社内コンサルタントのように働くことも可能です。それを報告書にまとめてメモとして提示する。しかしながら、物流構想で注意しなければならないことがありました。それは、資本関係のないボトリング会社を相手に、「物流効率がよくない、倉庫を集約し、トラックを減らした方がいい」という提案をしたとしましょう。

そうすれば、だれでもわかるとおり、ボトリング会社の営業所(倉庫)の所長の配置転換をしなければならない。実際には、神奈川県、山梨県、静岡県の地域にある40ある倉庫をどのくらい集約したらいいか。「減らしましょう」とはまともな顔をしていえないでしょう。外部のコンサルタントを雇い、依頼内容がはっきりしているのなら話は別です。なにをどこまでやって、やらないのかの線引きが明確にできない。

次に事業会社で働く人たちは、外部の経営コンサルタントではない。そのためにジョブ型で働くことはほとんど無理に近いのではないか。多くのコンサルタントの場合、他の会社の事例をもちより、客観的なデータをもとに仕事のやり方に口をはさむのを得意としています。それが問題解決です。

ところがあれもこれもと解決策を打ち出すようになっていくとオペレーション(日常業務)をすることが手薄になっていく。場合によっては、必要だった仕事が宙に浮き始める。やらないと回らない仕事をだれもやらなくなる危険性があります。そしていつもまにか、ジョブ型だから、おれの仕事ではない。だれかがやるだろうといった間違った理解が進んでしまう。

そうすると上の方からいったどうなっているんだということになりかねない。むしろ経営コンサルタントのような問題解決をするプロが必要でなく、実行者が社内には必要。これまでどおり解決済みのことを実施(A)することが仕事であり、それを9時から5時までする。シンプルでわかりやすいということになりましょう。

事業会社の仕事をいたずらに複雑にしてかえってわかりにくくしてしまう。混乱の結果、だれにも理解できない仕事になるということがありえます。

経営コンサルタントのように厳格で、変化を好み、結果にコミットするような働き方をするわけではない。厳格にタスク管理をし、変化(解決策)を提示し、結果(業績、顧客満足)という仕事かというと必ずしもそうではない。

うまくいかなくなったときに責任追及をしはじめます。業績があがらないのはどういうわけなんだ。原因は何なのかということを調べなければならない。それも仮説でなく、事実(データや証言)を使って調査・報告していかなければならない。検証(C)の作業が発生します。そうなると本来は施策の実施(A)だけしていればいい部署に仕事が増える。

90年代半ばにコカ・コーラで働いていたころの話です。当時、炭酸飲料の売り上げの伸び鈍化があったため、コーヒーブランドのジョージアの売り上げの影響を気にしていました。TVコマーシャルでも飯島直子さん、安田成美さん、古手川祐子さんを起用してプロモーションをしていました。ブランドマネージャーが各ブランドの売り上げを定期的に診断し、役員に報告をしていました。わたしは、そのチャートづくりをしていたことがあります。

ある時、ほんのわずか、ジョージアの売り上げが落ち始めたことがありました。それをある役員がブランドマネージャーたちに向かって、なぜ落ち始めたのかという質問をしたのです。早い段階でその原因をつきとめ、なんらかの対策を提案するのが経営コンサルタントの役割です。

ところが社内のブランドマネージャーは、そのような原因究明の役割を担うかというとはっきりしません。なんでも知っているわけでもなく、探してもわからない原因というものもあります。たまたま、売り上げが落ちていただけかもしれない。そんなことにひとつひとつ時間をとられていたら、本来の時間に仕事すべく、新製品の展開とプロモーションにかかれません。ブランドマネージャーは疲弊してしまったと聞いています。

最後に日本の事業会社にはジョブ型はなじまないということです。それは契約社会ではないからです。欧米、とくに欧州のように法律に厳格にはならない。米国のように契約ベースで仕事をするわけではない。むしろ、変化に弱く、変化を嫌い、どちらかというと物事をあいまいにして、適当に社内で時間を過ごすことも社内で認められている面があります。

そのほうがむしろ農耕社会に近く、間延びした時間の中で、調子がよくても悪くても朝から晩まで働く。協調性や和の精神を重んじ、孤独な戦いを好まない文化があります。好戦的なひとではない。むしろ戦わない方が好まれる。

ジョブ型というのは、ひとつの形であって法律ではない。むしろあいまいな慣習といったところ。公にジョブ型するといっても中身はメンバーシップと変わらない、後になって、あれはなんだんだったということがありえます。法律ではない。そのため、やろうが、やらまいが、訴訟もできない。法律家や弁護士も背後にはおらず、事件・事故にはならないのです。

重要なのは、個々の会社で言語化が難しいやり方があって、それはなにか。暗黙のルール、長い間に培われた、多くの職員が習っている風習といったところがある。むしろ、個々の会社組織の中でどのように理解され、実行されていくか。直属の上司がどのように理解し、部門をどのように管理するかです。ひとには個人差があり、組み合わせもうまくいったり、いかなくなったりします。

三菱であれば、上司は絶対的な存在に近く、上司の許可なく勝手なことはできません。三井であれば、やや自由な気風があり、上司とうまくいかなければ、上司の上のひとに相談できるというのがあります。どちらも経営コンサルタントの経験者がはいって仕事をするとうまくいきません。経営コンサルティングは個人事業主のようにする仕事です。

経営コンサルタントを経験したひとでなければ、事業会社内でジョブ型の仕事をするのは無理でしょう。その経験をした人でさえ、事業会社であれば、問題解決に専念することはなく、実施(A)をすればよい。それで給料はもらえるのではないか。難問・奇問と格闘しなくてもいいのではないか。そのために事業会社で働くという選択肢をとったいう言い分も出てきます。

以上のような理由でジョブ型にはならないでしょう。

ただ、これは大方の方向であって、ほんとうにやるということもほんのわずかではあるものの就職先によってはありえます。それは役員が経営コンサルタントのように働いてほしいという憧れを抱いている場合。そんな憧れに付き合った場合は、経営コンサルタントのように働く。周りから嫌われる。周りは、経営コンサルティングが虚業であることを知る。そうならないためには、ジョブ型に移行すると表明している事業会社に就職するのを避けるということくらいです。

いままでどおり、適当(あいまい)に採用し、適当に育成し、適当に評価する。就社であって、就職ではないことの延長であるようがよいでしょう。

わたし個人の予想としては、ジョブ型にはならない。そして期待としては、ならないほうがいい。働ける期間が10年、せいぜい15年となってしまい、それ以外は何をしているのかということがありえますから。稼げる期間が短くなります。

ジョブ型には、ならないことを祈ってます。