見出し画像

割り勘

大学に行くまで愛知県で生まれ育った。その後はアメリカの大学に留学して帰国。しかし地元の愛知県には仕事がなく東京で探した。当時幸いにも東京はバブルで新卒採用があった。あれから40年近くが経過した。その間にいろいろな場面で多様な人たちと食事をしてきた。食後には必ず勘定を済ます。決まりきった行為にほとんど疑問を持つことはなかった。でも最近はどうなったのか。

昔はよくこう言われた。東京の人は年配の人が勘定を代わって多めに払う。大阪はきっちりと割り勘にする。名古屋の人は誰かが言い出すまでだまっている。あわよくば誰かが払ってくれることを期待する。

東京はもともとお金を持っている人たちが集まるところだった。お金稼ぎをするところではない。一方で大阪はお金稼ぎをする人たちが集まってくるところ。勉強をする京都と住む神戸といわれていた。残った名古屋ではお金は蓄えられないところともいわれた。トヨタ自動車は別にしても。

あるおしゃべり会でこういう話題が出された。割り勘というのは最近どうなんでしょう。慣習としてどの程度受け入れらてますか。いかにも具体性のない話題の出し方だった。集まってきたのは7名。男性4名。女性3名だった。

60歳以上の年配の人たちはほとんどがこのような慣習があるようだった。男性は女性に対して割り勘を期待してはいけない。男性が女性の分を払うべきだ。あるいは少し多めに払った方がいい。それは男性の方が女性よりも給与が多いから。

すると年配の女性からはこう発言があった。男の人が払ってくれるのではないかと期待する。それは自然の事である。しかしほんとうはどうなんだ。

最近はそうでもないらしい。男性が女性の分まで払うということは男女平等に反する行為である。女性も働いていい給与をもらうようになってきた。なので割り勘でいいだろう。そういう意見が出た。どの意見が良いとか悪いとかはとはない。

これからわたしの経験をもとに会社生活ではこういうことが起きたということを話してみよう。その後で有志の読書会ではこういう支払いの仕方をするという例を提示してみよう。あくまで具体例としてあげる。

まずは外資系企業のこと。わたしは東京に来てから外資系企業に17年働いた。この外資系企業というのはスイスの企業で7年。あとはアメリカの企業であった。ここでは欧米というようにひとまとめにしてもよいだろう。

まず外資系企業というのは部門で食事会はめったに開催しない。よほどのことがないとランチでも行かない。いくとすれば気の合った2人でいく。個人と個人の関係というのが外資である。それ以外一般的に外資というのは上司と部下の関係だけである。会社に雇われてはいるが会社のためには働かない。お金のために働く。そのお金がたくさんもらえるようにするには上司に仕える。評価は上司がする。人事はしない。

では部門で食事会はあるのか。あることはある。しかしほとんどの場合、会社が食事代を払わない限りは誰も行かない。仕事にほとんど影響がないからだ。食事をして世間話をして帰るだけだ。家族持ちは早く帰宅して家族と食事をする。独身の人たちが会社主催の食事会には参加する。

42歳になって日系企業に転職した。最初の4年は三菱系だった。その後の4年は三井系だった。これは外資系とは全く違うものだった。2人で食事に行くのはめずらしく、ほとんどが部門でいった。その数は限りなく多かった。週に1回は宴会のような食事会があった。開始は19時と決まっていた。三菱は商社でもあり飲み会が派手にあった。

ただここでは安心があった。というのは一番若い職員が飲み会の幹事をすると決まっていた。そして清算は食事会の翌日にメールで通知された。部門の長にCC付だった。だれがどれだけ払うのか。そしていくらかかったのかがはっきりと会計されていた。それを見て幹事に現金で渡すだけでよかった。お疲れ様。ありがとう。

三井系ではややおおざっぱなこともあったが大体は上の人が多めに払った。清算はおつりがでないように千円札を何枚かそろえておく。食後の場で勘定を済ませた。

ちょろまかしというのはありえなかった。

さてここまでは会社での出来事である。これからは一般の人たちが集まる仲間どおしの食事会である。オンラインイベントになってからはほとんど食事会はない。目的のないイベントにはどんな人でも参加できる。そしてそういうところでは各自の収入が不明なためとてもアバウトである。幹事に慣れていない。

まずイベント自体にありえないような非現実的な目標が掲げられており、だれも目的など持って参加してこない事が前提だからだ。しかしたまに食事会というのは発生する。

ふたつ紹介しよう。

ひとつは結構まともにやれそうな読書会があった。そこでは30人ほどが集まってくる。年齢はさまざまで20歳から60歳までだ。月1回2時間。そこのホストがめでたく結婚をすることになった。そこで企画されたのが隅田川を屋形船で渡るというちょっと風変わりな企画が発生した。

一体、清算はどうするんだろう。ひとり1.5万円を区別なく支払ってくださいとのことだった。20名が参加する。普段、屋形船には乗らない。わたしは30年前にコカ・コーラでインターンをしていたときにインターン仲間8名と屋形船に乗った。会社が支給してくれた。

この一律1.5万円に男女の区別はない。また年齢によっても差をつけない。おそらくはご祝儀を含めての金額であろう。ホストはお金を払う必要もないだろう。また読書会への運営資金へ組み入れるということもある。将来に向けての資源確保もあるだろう。

毎回、都内で場所を確保する。場所代にはお金がかかる。またオンラインではズームに月2千円が発生する。ただこの読書会の財務状況は一切開示されない。ちょろまかしてもだれもわからない。

もうひとつはオンラインで行われている読書会。これは毎週日曜日2時間。常連が集まるところになってきた。そこでは年1回クリスマスの時期になると食事会が企画された。

ところがこの食事会では割り勘であることはわかっていても事前にいくらかかるということは一切通知されない。また事後も清算の知らせが全くないのである。年の財務状況は一切開示されない。

コロナ前にクリスマス食事会があった。食後にカラオケにいったという。聞いたところによるとひとりあたり7千円の負担という。割り勘でしたことだろうが、その明細は一切開示がない。トータルで食事いくらかかり、カラオケにいくらかかったのかは全くわからないのである。

40年前に東京に来たときはだいたい上の人が多めに払うのが一般的だった。会社仲間では割り勘をした。東京、大阪、名古屋と出身地による違いだけをちょっと気にするだけだった。しかしオープンなイベントでは事情は違うようだ。

勘定のできる信頼のおける友達が含まれていればよい。しかしながら最近はいろいろな人が集まり、いろいろな価値感が存在する。外国の人も混ざる。そうなると男女、人種、年齢、職業、既婚・未婚といった要素が加わる。そういったところではちょろまかしも起きる。

割り勘でも気を付けた方がいいだろう。数千円といったわずかなお金なら失ってもいいというのなら構わない。しかしながら働いていた時にはありえなかったことが起きる。それがネットで知り合った人たちである。

普通のことが行われない。わずかでもコソ泥するのである。