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曉蘇「三個乞丐」『天涯』2015年第2期

 曉蘇(シアオ・スウ)は1961年生まれの華中師範大学文学院教授。本作は構成内容とも計算されていて面白い。この小説はまず『天涯』2015年第2期に掲載され、その後《2015中國短篇小説年選》花城出版社2016年、pp.181-194などに転載されている。 三个乞丐とは3人の乞食という意味。中国を旅行していると、物乞いをする人に出会う。そして毛沢東にかこつけた飲食店にも出会う。この小説は、それらを素材としながら、全体としては軽いお話しにしていて巧みである。

    場面は油菜坡の麓にある「老三篇食堂」。時は夏の暑い日の朝9時(朝食の客がいなくなったころであろうか)。3人の乞食が現れる。男は50から60の間。痩せている。女は色白で30前だろうか。そして性別の区別がつかない4歳前後の子供が一人。皆汚れた格好をしている。
 老三篇食堂は新時代餐館として開店したが今一つ。で店主が思いつきで改名して以来、大繁盛。正面の壁には軍服姿の毛沢東像を飾り、残りの3面の壁には、「人民に尽くす(爲人民服務)」「愚公山を移す(愚公移山)」「ベイチューンを記念する」の3冊の本が開かれている。
 店にいたのは店主(老闆)、料理人(厨師)、雑用係(打雜的)の3人。3人はとまどいながらも、飢えた3人の乞食に食べるものを恵んであげた。

 夏の暑い日の2日目。朝10時過ぎ。店主が壁に掲げてある「人民に尽くす」の一節を読んでいたところで、ふと言いよどんだ。そこに最近退職したばかりの、村の湯(タン)支書(支部書記)が現れ、すらすらと下の一節をそらんじてみせた。湯書記は最近、奥さんが自殺する不幸があったばかり。(これはタダでいつも鶏をくれていた人が、たまたまくれず、欲しけりゃカネを出せといわれた。そこでケチだといったところ、厚かましいと散々なじられた。支部書記の奥さんだったため、他人から批判されたことがなかった奥さんは、すぐに自宅の門前の木の枝で首をつってしまったと)。加えて娘さんが2日前に離婚したばかり。娘さんが子供(孫)を連れ帰ってくるが、家にはご飯を作る人がいないのでと、食堂に娘さんとその子供も一緒に食事にみえたのだ。湯書記も退職したばかりで経済的に余裕がない。やや暗い雰囲気の湯一家3人を見て、食堂の店主たち3人は昨日の乞食の3人のことを思い出した。湯一家が食事を終えて食堂をでたあと、食堂の3人は、昨日の乞食3人の関係について、議論を始めた。そこへ近くで豚を飼っているいる主人がはいってきて、その乞食3人を見たという。昨日の午後、男が道端の梨の木に石をぶつけて、ようやく1個を得て、しかし自分では食べず、女にわたし、女もまた自分は食べず子供に与えていたと。

    夏の暑い日の3日目。午後まだ5時前に6人の客があった。彼らは近くの高速道路工事をしている人たちで、古墳の盛り土を平らにする仕事をしていた。彼らは元来、農民で店主とも歳が近い。この古墳を平らにするのは大変だ、何年かかるか分からないと。そこで店主は、毛沢東思想で武装すればいいと、「愚公山を移す」の一節を読んで聞かせる。
 しかし6人の中の青年は、笑って愚公山を移すを学んでも役に立たない(不顶用)。我々に必要なのは、マッサージ師だという。
  それで、マッサージ師を呼んでいるがなかなか来ない。このマッサージ師は女性で実は料理人の隣家の人。
  ようやく現れた彼女は、実は3人の乞食が、自分の家の菜園のキュウリを盗んで、道端で食べているのに出くわした。彼らが家に進入するかもしれないと怖くて、食べ終わって遠くに行くまで待って、ようやく出てきたのだと話す。彼女によれば、男は大胆にも子供の前で、女の尻をつねったと。料理人は、それを聞いて、乞食の男と女の関係は、親子ではないなと、得意げに言った。

 夏の暑い日の4日目の夜。店を閉めようとする時間に、店主の電話が鳴り、万千一と名乗る人物からだという。万千一は店主の古い友人だ。これから、食事をしたいという。もう遅いので麺くらいしかできないと店主がいうと、それでいいから3碗くれという。
 店主の話では、万千一は奥さんを服毒自殺で失った人。原因は万千一の夜遊びにあるが、彼は奥さんも好きだった。奥さんが自殺したあと、奥さんの実家の人たちが怒って、万千一を殺すというので、万千一は身を隠した。しかし奥さんが亡くなって35日。五七節をして奥さんを弔おうと、一人で山上のお墓の前でお祀りをしていたところ、火を出してしまい山林を焼いてしまった。
 犯罪として捕まることを恐れて、彼は山の中にはいり、両親が出稼ぎにでたまま戻ってこないなか、困窮している若い娘と老婆とにであった。ここで老婆に頼まれ、彼は山の中の一軒家に落ち着くことになった。こうして2年経ったとき、若い娘との間に一人の女の子がうまれた。女の子が3歳になったとき、万千一は、女の子に何か着るもの、食べるものを買おうと町に初めて出て、そこで発見されて、捕まった。
 そして失火の罪で入牢一年。彼は必ず迎えに戻ると娘に約束していたが、今年6月出所し、娘を会いにゆき、おばあさんが亡くなったことを知り、娘と女の子とともに、油菜坡にもどってきたのだと。
 店主はここで、3人の乞食のことを思い出し、あの男と女は夫婦に違いないと思うのであった。そこに万千一たちがやってきた。店主が3人の乞食のはなしをすると、万千一も今朝早く、かれの家近くの防空壕の入り口で眠る3人を見かけたというのである。

 夏の暑い日の5日目。午後1時半。食事客も減り、食堂の3人は皆一服する。雑用係はテレビを見ているー四川の某所で洪水があった。3人行方不明。一人は男性、一人は中年女性、そして子供が一人。雑用係は、乞食3人との関係を自分で考えこれはないなと思う。
 店主はレジの後ろで座って、ラジオを聴いている。毎日聞いている京劇の番組の後、湖南の某市のある精神病院が、60歳の老人、30歳の女性、そして5歳の子供を探しているとのお知らせー10日程前に病院の後門から病院側の不注意ででてしまった精神病患者の3人。情報提供者には謝礼を支払うと。これだと店主は感じ、料理人と雑用係に伝えたが、病院の電話番号を聞き漏らしたので、謝礼をもらい損ねだ、と続けた。
 料理人は、それは残念でしたといって、煙草を吸いに食堂の入り口に向かい、ふと客が捨てた新聞に「通缉令(トンチーリン)」を見つけた。(通缉令は犯罪嫌疑人に関する通達命令)それによると、河南省某県某町の55歳の男。そしてその妻の妹である31歳の女が悪事を働いた。それぞれの伴侶を自ら殺害後、潜伏。親類の4歳半の女の子を連れ去ったというのであるー店の入り口でこれを読み終えるや、料理人は、あ、と大きな声をあげ、店主と雑用係はなにごとかとそこにかけよった。

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