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金融恐慌(2007-2009年) Review of Financial Studies, April 2015 抄訳

Anjan V.Thakor, The Financial Crisis of 2007-2009, Review of Corporate Finance Studies, v.4 n.2, April 2015  抄訳 2022年10月26日閲覧

2.原因と影響:恐慌の原因とその実際の効果
 恐慌の原因については一定の合意があるが、出来事の因果の連鎖における関連(link)の多くについては、専門家の間で不一致がある。我々は最初の図1で恐慌を導いた出来事の連鎖の図を提供することから始め、そのあと、その後の連鎖におけるそれぞれの関連について論じることにしよう。

 図1 恐慌に至るまでの出来事の連鎖
 外部要因と市場誘因→住宅価格→負債と消費→危険な貸付
                       ↓
     金融恐慌 ← 流動性の縮小 ← バブルの爆発

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2.1 住宅価格のバブルと恐慌の前提条件を生み出した外部要因と市場誘因
 この金融恐慌について書かれた多くの本と論文において、様々な著者は、火が付けられようとしている火薬樽を生み出した様々な前恐慌要因を指摘した。Co(2012)はこの恐慌についての21冊の本の、優れた要約と批評を提供している。彼は、これらの要因のうちどれが重要かについて意見の一致がないと見ているが、今度は我々がそれを論じてみよう。
Lo, A. 2012. Reading about the financial crisis: A twenty-one book review. Journal of Economic Literature 50: 151-78.

2.1.1 政治要因
 Rajan (2010)は、合衆国において経済的不公正が教育制度における構造的欠陥により拡大し、社会の様々な分野segmentsへの不平等なアクセスを生み出したと理由を述べている。両党の政治家たちは、少なくとも19世紀のホームステッド法(訳注 西部の未開拓の土地1区画160エーカー,約65haを無償で払い下げる1862年制定の法律)にさかのぼる政治的傾向であるが、自宅所有権を広げることが、この富の成長する不平等に対処する手段だとみなした。そしてそれゆえに、銀行に、より広範なベースに借り手にモーゲージ貸付を行わせるよう、立法上のイニシアチブをとり、その他の促進策をとった。そしてこれはリスクの高いモーゲージ貸付につながった(注16)。住宅への高まった需要は、住宅価格を押し上げ、そして住宅バブルを生んだ。この見解によれば、政治に動機付けられた規制は、恐慌に寄与した要因だった。
Rajan, R. 2010. Fault lines: How hidden fractures still threaten the world economy. Princeton: Princeton University Press.
(注16) これらのイニシアチブの一つは、1990年代半ばのCRA(community reinvestment act: 地域社会再投資法)の強化にふくまれている。Agarwal et.al.(2012)は、より危険な貸付に導いたことを示唆する証拠を提供している。彼らはCRA試験の6つの四半期に貸付は平均して四半期ごとに5%ずつ増加し、これら四半期の貸付の債務不履行率は約15%以上増えたとしている。もう一つの重要な進展は、2005年は破産乱用防止及び消費者保護法(BAPCA)によりもたらされた規制の変化である。BAPCAは、買戻し協定の定義を、モーゲージ貸付、モーゲージ関連証券、そしてこれらの貸付と証券からの利子を含むように拡張した。これにより、モーゲージ担保証券MBSs, 担保債務証書CDOs、そして同様のもののレポ契約が、破産における自動停止arutocratic stay(裁判所の命令なしに自動的に実行を禁止されること)を免除されることになった(Achary and Oncu 2011を見よ)。このことは、MBSとその他モーゲージ関連証券をより流動的にし、これら証券への需要を高め、銀行にモーゲージを作り出すより強い誘因を生んだ。Song and Thakor(2012)は、いかに政治が銀行規制を生み出すかについての理論を提供している。
Agarwal, S., E. Benmelech, N. Bergman, and A. Seru. 2012. Did the Community Reinvestment Act (CRA) lead to risky lending? NBER Working Paper No.18609 
Song , F., and A.Thakor. 2012. Financial system development and political intervention. World Bank Economic Review 27: 491-513.

   この点はKane(2009 forthcoming)によりさらに強くなされたところであり、彼は政治的理由から(米国を含む)多くの国が規制の文化を作っていると論じる。それは①選ばれた銀行の借り手への政治的に指示された補助金、②銀行の債権者への暗黙あるいは明示的な返済保証についての補助金付きの規定、③これら二つの要素が生み出す諸問題についての政府による欠陥のある監視と統制、という3つの要素からなるとKaneは論じる。Kane(2009)は、これらの要素は銀行監督の質を下げ、金融恐慌を生み出していると論じている。
Kane, E. 2009. Regulation and supervision: An perspective. In, Oxford handbook of banking. OUP
    (中略)

2.1.2 証券化の成長とOTDモデル
 所有権を広げようとする合衆国政府の願望が、銀行によるよりソフトな貸付基準を容易にした金融政策に伴われていたことは(すでに)示唆されている。ことにユーロエリアと合衆国の銀行の貸付基準についてのMaddaloni and Peydro (2011)の実証研究は、(金融緩和政策が生み出したところの)低い短期利子率が、家計と企業への貸付基準の緩和を導いたことを発見している。加えてこの緩和は、証券化というOTD(originate-to-distribute)モデル(訳注 証券化により銀行のビジネスモデルは作り出した貸付債権を売却するOTDモデルに変化したといわれている)(注17)、銀行資本についての弱い監督、そして緩やかな金融政策により補強された(注18)。これらの条件は恐慌に先立つ期間に、商業銀行にはモーゲージ貸付を拡張することを、(また)投資銀行にはノンバンクやモーゲージ貸付業者を使い倉庫金融に従事することを、魅力あるものにした。OTDモデルが、銀行にこれまでなかった規模で、より危険な貸付を作り出すことを励ましたことには実証的な証拠がある。Purnanandam(2011)は、銀行がその貸付を売却する性向を1標準偏差増やすことは、債務不履行率を0.45%ポイント増やすことであり、全体として32%増やすことだと記録している。
(注17)多くの投資銀行は売却できなかった資産担保証券を保有する。レバレッジをかけて(債務を増やして)購入するのだが、こうすることでこれらの銀行はリスクを高めている。
(注18)コストを下げようと、信用基準を緩和し、選別を減らし、よりリスキーな貸付を行う証券化というOTDモデルが、より高いシステミックリスクを導くことは理論的に示すことができる。Cortes and Thakor (2015)を見よ。
Maddaloni, A., and J.Peydro. 2011. Bank risk-taking, securitization, supervision, and low interest rates; Evidence from the Euro-Area and the U.S. lending standards. Review of Financial Studies 24: 2121-65.
Purnanandam, A. 2011. Originate-to-distribute model and the subprime mortgage crisis. Review of Financial Studies 24:1881-915.
Cortes, F., and A. Thakor. 2015. Loan securitization, screening and systematic risk. Working Paper, Washington University in St.Louis.  
(以下略)


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