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八項規定2012年12月4日ー反腐敗運動

    ここでは手元にある 孟慶海 游以民《十八大以來反腐熱詞》中國方正出版社,2016年3月の記載を使って、習近平政権下の反腐敗運動で問題にされる腐敗とはそもそも何かを考えておきたい。(写真は成城大学3号館)

 まず八項規定が登場している。2012年12月4日 中央政治局会議で、工作作風を改善するなどのための八項規定が議決された(小稿末の年表が示すようにそのタイミングは習近平が総書記に就任した直後であった。)。これは政治局同志への注意である。①真実の情況を把握したうえで、困難を解決、工作を指導せよ。②会議活動の精選、実効化を図り、無駄話や形式的な話をするな。③文書の簡素化、不要の文書の発出を避けることを求めている。④外出にあたっては文書規定に従うこと。⑤合理的必要性に従い、随員や交通手段については規定を守ること。⑥政治局員の活動についての報道につき、字数や長さなど圧縮を求めている。⑦中央が手配した場合以外は個人で出版、年賀状の発信、などをしてはならない。⑧精励倹約に努め、住居や車両は関連する待遇規定に従うこと(pp.8-9)。(この八項規定の話がこの本の冒頭にあるのは、おそらく、反腐敗運動を党中央の政治局から始めたといいたいのではないか。訳者)つまりこの運動は2012年末に、まず中央政治局会議で提起された。

 そして2013年1月22日 習近平同志は十八届中央紀律委員会第二次全体会議において、権力の行使に対する制約と監督を強め、権力を関連する制度のカゴの中に置くことを強調した(p.12)。これが反腐敗運動開始の実際の号砲であろうか。以後、2015年まで3年間の中央紀律委員会全体会議での、習近平の発言の要点が本書には記録され、2015年については、実際に摘発されたことが記録されている(pp.34-35,60-61)。このまとめ方を見るに、反腐敗運動は優れて習近平が主導した政治活動だったといえる。

 十八大以来、党中央は”四風”に注意を集中し(聚焦)紀律監督を強化し、作風建設を常に推進したとしている(p.15)
 (なお四風とは形式主義、官僚主義,享楽主義、奢侈浪費(奢靡)の風を指している。この四風を批判するところから伺えるのは、腐敗で批判される中身は、権力を背景に賄賂をとるといった、いわゆる不正問題だけでなく、職権にある人がその仕事をしない、誠意をもってしない、などの態度、作風の問題までが批判の対象だということである。またこの問題は、十八大で始まった問題ではない。《十八大以來反腐熱詞》の後ろの方では、幹部が職にありながらその職責を果たさないこと(爲官不爲)ただ文書を積み上げ会議を重ねるだけで問題を放置すること(文牘主義)を批判している。see, pp.130-131, 136-137.)昔から繰り返されたこの問題を十八大以来とするのは、この大会直後に総書記に就任する習近平の指導力を指摘する意図があるだろう。
 なお十八大とは中国共産党第十八次党大会のこと。2012年11月8日から14日まで開催された。
 
 2014年1月14日。習近平書記は十八届中央紀律委員会第三次全体会議で指摘した。巡視組は党風をきれいにする面に存在する問題をはっきり指摘する必要があるが、重点は4つの力をつかうところにある。すなわち、党の政治紀律問題に違反するものがあるかないか。指導幹部に権力についてのお金の取引(權錢交易)、権力で私の利益を図ること(以權謀私)、賄賂、腐敗堕落など紀律違反があるかないか。(同じく)形式主義、官僚主義,享楽主義、奢侈浪費(奢靡)の風があるかないか。選挙で選ばれた人についてそこに不正の風や腐敗問題があったかどうか(p.34 最後は選挙における不正を問題にしているようだ。pp.104-105を見よ)。

   家族あるいは一族に党の指導幹部がいることで、一族でその権利を利用すること、これはしばしば見られる問題であるが、これは一家兩制,あるいは衛内現象と呼ばれる(pp.144-145)。

   何清漣の少し前の本によると、中国で腐敗の中で深刻だとされる問題に、一つには土地使用権売買に伴う不正があり、今一つには、国有企業を通じた国有資産の流出問題がある。前者では開発許可権を持つ役人の収賄が横行し、後者では、国有企業がいつの間にか私有企業に切り替わったり、海外(経営者の親族が海外にいて出資者に加わるなど)に所有権が流出するケースもあった。

 深刻視されたのは、国有企業の幹部などが、国有資産の移転、売却による収賄、自身や家族などの利益を図るもの。その手法には、経営する企業に借入させて取得した新たな資産を売却するものや、経営者個人が取得する資産の購入資金を企業から借り入れるという方法もある。露骨なケースでは、そうした形で国有企業の株式を取得して、支配経営者になるものもいた。株式の取得では、国有資産の評価を低くすることで、株式取得価格を下げる手法も多く使われたとされる。(何清漣 坂井+中川訳『中国現代化の落とし穴』草思社,  2002年、第1章から第3章を参照)

 全民所有制企業を株式会社に改編するときに、固定資産については政府の投資分であるとして、再評価して国有株に換算された。何清漣が言っているのは、この資産評価で不正が行われたという問題である。なお内部留保分については場所によって、発起法人株としたところと国有株にしたところと判断が分かれたという。法人が他社に出資する株は募集法人株、外資が持つ分は碍子法人株。問題は、国有株、法人株が市場では自由に売買できない非流通株を形成していたということである。この問題は中国証券市場の透明性にとり大きな問題だったが、股改(グーガイ)と呼ばれる株式市場改革で、改められることになった。以下を参照  ⇒ 股改

   腐敗は中国ではどう考えられているのだろうか?実際のところどこまで一般的だとすべきだろうか?日本でも最近まで様々な贈答があったのは事実だし現在も残っている。日本でも、贈答については曖昧な点が多々残っているのではないか?中国語の勉強をしていた時この問題が出てきたことがある。《漢語口語速成 提高編  第二版》北京語言大學出版社,2006年9月,·p.154. 小張:現在中國有些地方的腐敗現象真不得了,昨天我看報上說,一位山西官員挪用公款200多萬。小李:其實腐敗凴不是中國獨有的。你看這條新聞說:剛剛結束的第八屆世界反腐敗首腦會議專門討論了經濟全球化,第三世界發展與腐敗的關係,他們反腐敗往往與發展聯係在一起。このテキスト文からわかるように、中国の人の反応の一つは、中国の腐敗は恥ずべきことだが、腐敗はどの国にもあることだというものである。また発展途上の国はもっとひどい、中国も是正に努めているとも。
 それでは中国のとくに党幹部や官僚の腐敗は、中国の民主化の遅れの反映だという議論はどうだろうか。実はこうした議論は、中国でも知られていて、中国国内出版物の中でも散見される。たとえば以下を参照されたい。
 鄭永年《建設清廉政府:如何有效反腐敗》載《關鍵時刻:中國改革何處去》東方出版社,2014年6月,pp.147-174

 最後に反腐敗運動は、共産党の歴史のなかで繰り返し提起されている。党内の締め付けの意味(綱紀粛正の意味もあるし、従わねば腐敗を理由に摘発するという脅しの意味もあるかも)があるだろうし、威張っていた権力者を叩くことで、なにがしか人々の不満を少し解消する意味もあるのかもしれない。1951年末からの三反運動(汚職、浪費、官僚主義に反対する)その直後の1952年初めからの五反運動(賄賂、脱税、国有財産・工業原料・経済情報を盗むことに反対する)、1963年2月からの五反運動(汚職、投機、浪費、分散主義、官僚主義に反対する)など、腐敗に反対する運動は繰り返し提起されている。反腐敗運動は政権の基盤を強化するために、政敵を陥れるための手段に過ぎないとの見方がある。だとしてもこれだけ摘発が繰り返され、それでも腐敗を根絶できないのは、腐敗が蔓延していることを示しており、現在の中国の統治制度にそもそも構造的問題があることを示唆するものかもしれない。
    先に述べたが次のような熟語がある。以權謀私。権力を得て私利を図ることをいう。熟語があるほどだから、権力者の腐敗は古来あるともいえる。同様の意味にとれるものに、假公濟私。公務と称して宴会をするなどの行為を指す。また官吏の汚職を指すことばとして、損公肥私 。
 以上と正反対のこと指す熟語に、大公無私。公務にあたって無私、私心がないことを指す。

   ところで中国のことを知る方法として、小説を読む方法があると考えて私はそれを実行している。この問題については、虛擬(2014)歡笑夏侯(2016) 等が参考が参考になるのではないか。

 2012年11月15日習近平総書記に就任。(党中央委員会第一回全体会議)
 2012年11月17日党政治局学習会で腐敗問題取り上げる
 2012年12月13日四川省李春城副書記に重大な規律違反を公表
 2014年6月 徐才厚前中央具に委員会副主席を収賄容疑で摘発
 2014年7月 周永康前党中央政法委員会書記を立件
 2014年12月 周永康前党中央政法委員を重大な規律違反で党籍はく奪処分
 2014年12月 令計画党中央統一戦線工作部長を重大な規律違反で取り調べ 失脚 
 2015年6月 周永康に無期懲役判決
 2016年5月 令計画 収賄・国家機密の不正取得などで無期懲役
 2016年10月27日 六七全会コミュニケが習近平総書記を「核心」と位置付ける。毛沢東、鄧小平、江沢民に次ぎ4人目。
(年月は林望『習近平の中国 百年の夢と現実』岩波書店2017年から採用)

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