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長期継続的包摂成長を支える健全な金融部門をいかに再建するか OECD 2015

How to restore a healthy financial sector that supports long-lasting, inclusive growth? OECD Economic Department Policy Note No.27  June 2015  抄訳
2022年11月1日閲覧

 このNoteを読んで最初すごく驚いた。銀行貸付の増加が、長期的には経済成長率を低下させるという検証結果に驚いた。ただ考えてみると背後にある問題は、債務の過剰な拡大(過剰債務問題)だともいえる。他方で、株式金融の拡大は成長という点では肯定されるが、所得の不均衡を拡大するという問題が伴うと指摘している。かくして結論は、金融の過剰な拡大を防止することに落ち着く。議論の内容は金融全体の在り方を考察しており、その結論は刺激的である。大変大きな問題を提起しているが、日本ではほとんど注目されなかったのではないか。(福光)。

本文
 長期継続的包摂成長を支える健全な金融部門をいかに再建するか
  金融は経済成長に不可欠の要素であるが、成長に過多でありうる。過去50年以上、銀行やその他の組織による、家計と事業businessへの信用は、経済活動より3倍早く成長した。この水準での更なる(金融の)拡大は、長期的成長を鈍化させ、不平等を引き起こす。 
 主要な発見
 異なる金融種類は、経済活動に異なる影響がある。
レ民間部門へのより多くの信用は、ほとんどのOECD諸国で成長を鈍化させている。
レより多くの株式市場金融は、ほとんどのOECD諸国で成長を加速している。
レ信用は事業より家計に向かうとき、成長の強力な停滞要因である。
レ銀行貸付は債券(金融)に比べて経済成長を遅らせる。

 金融の拡大は所得不平等をより多く強める。それは主として以下の理由による。
レより高い所得の人々は、貧しい人々より、信用で金融された投資機会からより多くの便益を得るから。
レ金融部門の従業員は、同一の分類の人々が他の経済部門で稼ぐのに比べて高い賃金支払いを受ける。このプレミアムは、最高位の所得稼ぎ手にとってはとくに大きい。

 信用拡張を妨げる方策は、短期的には経済活動を傷つけ、また価格が調整されるまでの間、住宅所有と信用へのアクセスを一時的に制約する。金融部門をより安定的にする改革は、長期的経済成長を押し上げ、所得の平等性を改善することが期待できる。金融部門の強力かつ平等な成長への寄与はとくに以下において求められる。
 (中略) 
 地球規模の金融恐慌は、金融の役割に関して深い疑問を生じさせた。
 
信用仲介と株式市場は過去半世紀に大きく拡大した。1960年代以降、銀行とその他の金融機関による家計と事業への信用は、経済活動より3倍早く成長した。株式市場もまた拡大したが、低い水準からスタートし、ずっと低い速度だった。今日その価値はGDPの65%に等しく、金融部門の信用の半分より少し大きい。
   同時に金融活動の構造は顕著に変形した。たとえば事業向けよりは家計向け信用の割合が上昇した。金融の拡張と変形が同時に生じ、成長は減速し、所得の不平等が拡大した。最近の大規模な金融部門のクラッシュは、かなりの大きさの所得と仕事との喪失を伴った。こうした出来事も連続は、経済活動と所得の分配への金融の影響に関して深い疑問を生じさせた。(中略)

 信用の過度な拡張を避け、金融構造を改善することは経済成長にとり良いことである。
 
金融は長期の経済成長にとって鍵の要素である。しかしこの要素は過度に使われると問題がある。信用と株式市場発展の初期段階においては、より多くの金融は、急激でより高い成長とリンクしている。しかしある点を超えると、さらなる信用の拡張は、よりゆっくりした成長と結びついている。(中略)
 ほとんどのOECD諸国で、銀行と銀行同様の仲介機関による信用の更なる拡張は、長期成長を押し上げるより、低下させる(Fig.1)。平均してOECD諸国を通じて、銀行信用のstock(残高)10%の増加は、長期の成長率0.3%減少と結びついている。この結論は長期についてである。短期については新たな信用の発行は。需要に燃料をあたえることができる。他方、より広範な企業への株式金融のアクセスの更なる拡張は、経済成長を促進しそうである。(中略)

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 信用の成長と低い成長とを結びつける主要な通路channels
   五つの主要要因が認識されている。
 1.過剰な金融緩和
    2.債券貸付に比して銀行貸付の顕著な増加
 3.公共当局による大きなものは潰せないという保証
 4.信用の質の低下
     5.   事業信用に比し家計信用の脱比例的増加
 (以上各項目の説明は省略)

 信用の過剰拡張の長期的コストは、社会的に傷つきやすい階層に脱比例的に降りかかる。
 経済成長に加えて、所得分配に金融は影響する。実証作業はその三つのメカニズムを示唆している。
 1)  金融部門の労働者は所得分配のトップに大変集中している。
    2)高所得の稼ぎ手はさらに借りることができる。
    3)   株式市場資本化の成長はより大きな所得不平等に貢献する。
 (以上の各項目の説明は省略)

 政策対応:金融制度のより良い設計
 1)  過度の信用拡張を避けること
   debt-service -to-incomeに上限を置く
   strong capital requirementsを置くなど。詳細は省略。
    2) 金融構造を改善すること
   debt biasを減少させる税制改革
   stock holdingへの広汎な参加 ex. そのための年金プラン。
   (以下略)


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