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コルナイモデル 1985年9月

  1985年9月2日から7日 世界銀行、中国社会科学院などが共催して、重慶から武漢まで巴山輪号という船に泊まり込んで揚子江を下りながら、中国内外の経済学者が中国の経済改革について語り合う大規模な会議が行われた。歴史上「巴山輪會議」といわれるもの。海外からはA.Cairncross, J.Tobin, W.Brus(Poland), J.Kornai(Hungary)など、中国からは、薛暮橋,馬洪,劉國光,張卓元,吳敬璉などが参加している。手元の張軍《“雙軌制”經濟學:中國的經濟改革(1978-1992)》上海人民出版社2006年156-158には同会議で発表されたコルナイモデルが紹介されている(p.156)。

                                  協調方式直接的                協調方式間接的
協調類型 行政   直接的行政協調ⅠA   間接的行政協調ⅠB
協調類型 市場   無控制的市場協調ⅡA     有控制的市場協調ⅡB

 言葉の使い方が全体的にわかりにくい。協調方式で直接的・間接的というのは行政と企業との関係を言っているようだ。控制的(コントロールされた、管理された)という言葉は、直接的-市場の組み合わせには無控制的、間接的-市場の組み合わせには控制的が機械的に置き換えられているように見える。有控制的という言い方は、ⅡBを美化する言葉のマジックのようにも見える。恐らくだがⅡBをよいものだと伝えたいので、市場という言葉とやや反する面もある、控制的(宏觀控制的)という言葉をあてた可能性がある。混乱しないように控制的という言葉をここでは使わずに書き直してみた。それが以下である。

                                       直接的協調方式                  間接的協調方式
             (直接的控制)
協調類型 行政      直接的行政協調ⅠA   間接的行政協調ⅠB
(随意性 指令性)
協調類型 市場      直接的市場協調ⅡA      間接的市場協調ⅡB

 ポイントは伝統的な集中計画経済体制はⅠA。コルナイは1960年代の東欧の改革はこれをⅠBとするものだったが、改革の目標はⅡBにあるとする。
 大事な点は、多くの努力にもかかわらず、ⅠBでは合理的価格体系を作れなかったという点だ。こうした東欧の経験からすれば、行政と企業の間を間接的にするだけでなく(行政の統制をゆるめるだけでなく)、協調の在り方について市場(企業間の交渉)に依存した経済(市場経済)を作ることが望ましい(p.157)。ということをコルナイは中国に伝えた。おそらくこちらがポイントだろう(コルナイは自伝の中でこの中国旅行に触れ、旅行の様子やその時の思いを記録している。コルナイ 盛田常夫訳『コルナイ・ヤーノッシュ自伝』日本評論社2006年pp.329-331)。
 もちろんこのコルナイの言い方には、市場を理想視しすぎているとの批判がありえよう。
 コルナイ経済学については以下を参照した。
 盛田常夫「コルナイ経済学をどう理解するか」『比較経済研究』第46巻第2号2009年6月、1-10
    小山洋司 富山栄子「コルナイの社会主義システム分析に関する試論」『新潟大学経済論集』第64号1998年3月, 81-101 
 コルナイは、社会主義では消費者主権が確立した消費者市場となっていないために、不足が常態化していると説明した。以下を参照。コウオトコ「社会主義なのか?資本主義なのか?そのどちらでもないもの」『比較経済体制研究』第25号2018年, 43-69


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