見出し画像

(OTDモデルの勃興と)金融仲介における銀行の役割 FRBNY EPR July 2012 抄訳

解題:以下の論文は銀行のビジネスモデルが債権を作り出して保有するOTHから、作り出した債権を分配するOTDに変わったと指摘している。そのことがシャドーバンクと呼ばれる組織の拡大につながったとしている。現代金融システムの大きな変化を指摘している。
Bord  and Santos, The Rise of the Originate-to-Distribute Model and the Role of Banks in Financial Intermediation, FRBNY Economic Policy Review, July 2012 12-34   第1節の訳 2022年10月25日

 歴史的には銀行とは、預金を貸付の資金に用いて、その後は満期まで(貸付を)貸借対照表に保つ存在であった。しかし歴史が経つとこの銀行業のモデルは変化し始めた。銀行は、債券、CPそしてレポ取引を含めるようにその資金源を拡張した。彼らはまたその貸付の伝統的な、保有するために作り出す(originate-to-hold:OTH)モデルを、分配するために作り出す(originate-to-disitribute:OTD)モデルに置き換え始めた。最初、銀行は分配モデルを、モーゲージ、クレジットカード債権、そして学生ローンに限定していた。しかしやがて彼らは、それを企業貸付にも適用し始めた。この論文は、銀行がOTDモデルを企業貸付にいかに採用したかを記録し、このシフトがノンバンク金融仲介の成長に(いかに)影響したかの証拠を提供するものである。
 銀行は企業貸付の分配を、シンジケートローンを作り出すoriginatedことで、またそれらを流通市場で売却することで、始めたstarted(注1)。より最近では、CLO(担保付き債務証書)のための市場の成長は、銀行に、銀行が生み出した貸付を分配する別の道を提供した。原則として銀行は、自らが作りだいした貸付を使ってCLOsをうみだすことができる。しかし銀行は、通常は投資管理会社が務める担保管理者を使用することを好んでいるように思える―管理会社は、シンジケーションのとき、また流通貸付市場において、貸付を取得しそれらをCLOsにまとめている(注2)。
 (注1)ローンのシンジケート化(シンジケーション)において、幹事銀
  行は、通常、貸付の一部を保有しており(保有を続けており)、それ以
  外は、通常、ほかの銀行である多数の追加的投資家のもとに置く。この
  配置は、貸付を作り出す過程と関係があり、その一部である。対称的
  に、貸付流通市場は、幹事銀行やシンジケート参加者を含めて、銀行が          既存の貸付(あるいは貸付の一部)を次々に売却できる、年季を積んだ
       市場である。
       (注2)証券業協会(Securities Industry and Financial Markets Association) 
  によれば、2007年の企業貸付CLOsの97%は、その貸付を作り出していな
  い金融機関により組み立てられた。

   貸付流通市場の規模は1991年の80億ドルから、2006年の1760億ドルまで増加した。法人貸付の証券化はまた、金融恐慌に先立つ年年に驚異的な成長を経験した。2003年より前には、合衆国で発行される新たなCLOsは年間200億ドルを超えることはほとんどなかった。しかしその後、貸付証券化は急速に成長し、2007年には1800億ドルの頂点に達した。
 合衆国の銀行のOTDモデル採用の程度を調査することは、データの制約のため困難であることが分かっている。Thomson Reuters Loan Pricing Corporation’s Deal Scan databaseは、(貸付)流通市場で取引されている貸付についての、ここが問題のある点だが、シンジケートローン市場の最も包括的データ源であるが、また過去、多くの研究者により使われてきた情報源であるが、この問題の調査に深刻な制限を課している。このデータベースは貸付が作り出された時点にのみ入手できる情報を含んでいるが、それを使って貸付が作られたあと何が生じたかを分析することは不可能である。加えてDeal Scanは、作られた時点の投資家の貸付持ち分について、とても情報が限られている。それぞれのシンジケート参加者の持ち分についての情報はとてもわずか(sparse)で、幹事銀行が―つまり貸付の条件を決める銀行が、貸付を行った時に保有している持ち分についての情報ですら、全Deal Scan債権の71%については失われている。
 Loan Syndication Trading Associationのデータベースは、流通市場で取引された貸付についてのミクロ情報を含んでいる。しかし売り手と買い手を特定することに関する情報は皆無で、Deal Scanにおける情報の欠落を埋めるためにこれを使うことは論外である。このほか、連邦準備制度に報告される財務書類は、ただ銀行が貸借対照表上にもつ債権についての情報を持つだけであり、これを、銀行が作り出す信用の量を確かめるために用いることはできない。これらの報告書は、銀行が売却のため保有する貸付についての情報を含んでいるが、Cotorelli and Peristaniani (2012)がこの雑誌の別のところで詳しく説明しているように、この変数は、銀行が彼らの貸付ビジネスでOTHモデルをOTDモデルに置き換えた程度について限定された情報を提供しているのである。
 我々は、(これらの)ただ代わりに新たな情報源である、連邦預金保険公社(FDIC)連邦準備制度(BGFRS)そして通貨監督官事務所(OCC)が運営するShare National Credit programに依存するだけである。Deal Scan同様にSNC programはシンジケートローンが中心である。しかしDeal Scanとは対照的に、SNC programは、時を超えて追跡している。そして債権の歴史については、投資家の貸付持ち分(の変化)についての完全な情報を持っている。我々はデータの部でSNCのデータベースをより詳しく論じる。
 我々の銀行の企業貸付モデルの変化に関する研究は、多数の重要な発見を生み出している。データは、幹事銀行は1990年代前半からOTDモデルを相当に使ったことを示唆しているが、われわれはこの増加は、大部分タームローン(定期貸付)に限定されていたと結論する。企業との信用枠ビジネスにおいては、銀行は伝統的OTHモデルに依存し続けた。さらに我々は、幹事銀行はその定期貸付のますますより大きな部分をローンを作り出した時だけでなく、その後の年においても分配したことを発見している。たとえば我々のサンプルの最初の年である1988年に、幹事銀行は同年作り出した定期貸付の総計21%を保持した。2007年、幹事銀行は同年作り出した定期貸付のわずか6.7%を保持した。2010年には2007年に作り出した債権における自身のシェアを3.4%まで低めることになった。
 銀行貸付に投資している主体についての我々の調査は、幹事銀行が自身作り出した貸付において、その他の銀行がすぐに入ってきて、減った持ち分を買収しなかったことを確認している。我々が発見したことはそうではなくて、投資管理者やCLOsを含む新たな(補語 銀行以外の)貸付投資家が信用ビジネスの支配権を一層引き受けたことである。1993年においてノンバンクの投資家は、同年作り出された定期貸付の13.2%を取得した。2007年においては、彼らは同年作り出された定期貸付の56.3%を取得した。15年間において327%ポイントの増加である。
 この論文に記録された趨勢は重要な含意を持つ。銀行の定期貸付ビジネスにおけるOTDモデルの使用の増加は、信用リスクの重要な割合を銀行業システムの外に移すことを導くであろう。しかしながらその過程において、規制されていない「シャドーバンキング」機関により大きな役割(を与えること)を含め、銀行業の外に金融仲介の成長を導くだろう(will contribute to)。それはまた時を超えて、銀行が貸借対照表の保持する債権が、銀行が金融仲介で果たす本質的役割をより少なく表す(less representative)ようにするだろう。
 加えて銀行のOTDモデルの増加する作用は、貸付基準の弱体化を招くかもしれない。Ramakrishnan and Thakor(1984)、Diamond(1984)そしてHolmstrom and Tirde(1993)を含む幾つかの学説によれば、銀行は、その借り手を監視(モニター)する上での比較優位のゆえに付加価値を保有する。この課題(モニター)をきちんと(properly)実行するために、銀行は作り出した貸付を満期まで保持せねばならない。逆にもし銀行がただ貸付の小部分を保持すると予測するなら、貸付応募者をきちんと選別して貸付契約条件をデザインする誘因は減少するだろう。貸付の存続期間、借り手を監視する誘因は減るだろう。CLOビジネスの成長は、そのリスクを悪化させたように思われる。なぜなら新たな証券に投資するCLO投資家は、しばしば異なる銀行が作り出した多くの貸付から構成される参照投資構成(reference portfolio)の成果に頼っているからである。
 OTDモデルを銀行が採用することは、また借り手である企業が一度行われた貸付を再交渉する能力を妨げるかもしれない。借り手がより多くの投資家と再交渉せねばならないというだけでなく、企業貸付を取得する投資家の世界(universe)がより異質になるという困難からである。
 最後に、銀行は信用枠の提供ではその伝統的OTHモデルの使用を続けるという我々が(みつけた)証拠は、銀行が企業に対し流動性を供給するユニークな能力を保持しているのは、その預金源泉へのアクセスのゆえだという議論を支持する。我々の発見はHolmstrom and Tirole (1998), Kashyap, Rajan, and Stein (2002)が銀行の企業への流動性供給について展開した議論に沿っている。依然としてSantos(2012)が記録したように、銀行による預金者と企業への流動性の提供はその貸借対照表の両側に同時的取付というリスクをもたらすものではある。
 この論文は以下、次のように構成される。次節(第2節)は、我々のデータと方法論とを示し、我々の事例を特徴付ける。第3節は、合衆国の銀行の過去20年にわたる企業貸付におけるOTHモデルからOTDモデルへの転換を記録する。第4節は、銀行が作り出した債権を次々に購入する様々な投資家の関連する役割を特定する。第5節は、我々の発見とそのより大きな含意とを要約する。


main page: https://note.mu/hiroshifukumitsu  マガジン数は20。「マガジン」に入り「もっと見る」をクリック。mail : fukumitu アットマークseijo.ac.jp