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岡本隆司『中国の論理』2016

ちくま新書の『近代中国史』2013から3年後。中公新書である。正式タイトルは『中国の論理 歴史から解き明かす』。読み手を導いて、なんとなく中国の論理が分かったつもりにさせる岡本さんの文才はこの本でも健在で、大変分かりやすい(写真は東京大学医学部1号館 2019年12月4日)。

p.vi   やはり現実は決して「一つ」ではない。けれどもその現実は認めがたい、だからこそ「一つ」であらねばならないし、「一つ」だといわねばならぬ。

p.9 儒教は中庸を尊び、神秘は例外。合理的なのがあたりまえであるから、それ以上の合理主義が育たない。現実の追究は一定の限度までくれば、常識的な協議に還元できるから、その理論で納得できれば、それ以上の好奇心・探究心がわかない。つきつめた分析も放棄してしまう。

p.10  自分を優先するところから、自尊と謙譲の精神が出てくる。・・・そうした心の動きを可視化した所作として、礼儀がある。たとえば、相手に敬意を示すには、高いところからへり下る。頭を下げる、おじぎをする、などの行為はその典型であって、まず自分が高いのが、前提なのである。

p.11  儒教は要するに自己中心的、利己的であるから、社会全体にとって害悪になりかねない。これが墨子の立場であり、批判である。

p.12 礼(のり)はモデル・規範であるので、その点で法(のり)とあい通ずる。経典・規範の規制力・強制力を刑罰で高めたものが法律・法典であり、ここに重点を置けば、儒家は法家に転化する。

p.13  現実に地位・能力・関係がまったく対等平等な人間など、古今東西、存在しない。・・・そうした現実から出発し即応して・・・理念と実践を磨いたのが儒教である。・・・だから儒教の観念と行動に、対等平等は存在しにくい。

p.16  そもそも史学とは何なのか。

p.17   便宜上、出来事のことを「史実」、書物を「史書」、学術のことを「史学」と呼んでおきたい。

p.17  史学の祖は司馬遷(前漢の武帝時代 紀元前二世紀から前一世紀の人)。・・・通史『史記』が史学の起源、「史書」の嚆矢である。

p.25  経書が説くべきは、抽象的な理論・教義・イデオロギーである。そうした前提条件に応じて、記す値する歴史事実・人間行為だけを選び、記してできあがったのが史書、それを作る営みが、史学に他ならない。

p.25 近代歴史学は、客観性と中立性を尊重する前提と原則があるのに対し、中国の史書はそうはいかない。むしろ教義のためには、客観的な事実かどうか二の次、記述をことさら改めることが少なからず見られる。

p.28  北宋時代 史料批判の方法の確立 膨大な史料・記録を集め、その内容を比較対照、批判吟味して、最も確かなものは「考異」として、なぜしかじかの史料を採用して、そのような叙述にしたのか、その検討批判のプロセスを論じる。

pp.30-31  資治通鑑 題名のとおり、ときの皇帝天子に捧げて、政治の参考に供する、という崇高な目的をもっていた。そのためには、しかるべき君臣関係を明らかにしなくてはならない。・・・要するに、歴史叙述の目的とは儒教理念を精確に表現するに会って、史実考証とはそれを支える手段にほかならない。

 pp.31-32   史学は経学と表裏一体の存在、史学という学問分野は、・・・独立自立した学になりきっていない

pp.32-33   論纂 史書編者によるコメント 実事求是 史実を示すだけでは不十分な場合コメントが書かれているがそれのこと

p.38  政権授受の「正しい」方法・筋道とは何か。「天命」を受けることである。・・・したがって王朝政権が交代することを、「天命」が「革(あらた)」まる、「革命」と称する。

p.39   「正史」とはこのように、「正統」というイデオロギーを表現、発揚する書物である。

p.42   「正」「偽」を分かつことなしに、歴史を考えることも、書くこともできない…のが中国の史学,史書なのであり、「中国の論理」だということになる

p.47   資治通鑑(司馬光がつくった)を朱子がリライト、ダイジェストした通鑑綱目

p.72    隋王朝 賢才主義の実践が、現実の制度(科挙)として結実した

p.73   天子と新興の官僚層が、科挙を活用しながら、三百年かけて貴族制を崩壊に導いたのが、唐代の歴史だ

p.74   宋代以降の体制を、われわれは君主独裁制・官僚制と呼んでいる。

p.77   唐一代を通じて、ようやく社会全体が門地の高下より個々の人材を重んじる観念に変化したのである。…官職も、個人の人徳で任用する原則になった。・・・任用するのは天子であり、そのよすがになったのが、ほかならぬ科挙である。

士大夫 読書人

p.83 庶民は自分が独立した財産を持っていれば、租税はもちろん、徭役もまぬかれない。そんな負担を少しでも回避するために、その家族・財産もろとも士大夫のもとに身を寄せ、特権のおこぼれにあずかろうとした。

#岡本隆司     #中国

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