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香蕉天堂 1989film

 台湾の映画で1989年の公開。1987年の戒厳令解除を受けて2年後に発表された作品。大陸でも2015年にはネット上に公開されている。
 国共内線の続く中国大陸から国民党軍に紛れて台湾に渡ったメンシュアン。そしてその兄貴分ダーションの物語。ただ後で述べるが、誰が主人公なのか、メンシュアンらしいのだが、メンシュアンの生い立ちの詳細が欠けているので、感情移入が苦しい。
 台湾に渡ったあと、ダーションは共産スパイの疑いをかけられ拷問されてしまう。怖くなって兵営を逃げ出したメンシュアンが出会うのは、幼子を抱え重病の夫を抱えたユエシェンという女性。この夫が亡くなったあと、この夫(リー・チンリン)に成りすまして仕事を得るが、結局はうまくゆかない。ダーションの手紙を頼りに二人はバナナ園のある農村に落ち着く。だがダーションは拷問がもとで精神に異常をきたしていた。メンシュアンはここでたまたま公務員資格試験に合格し、リー・チンリンの履歴書でついに台北で役所の仕事を得る。役所では無能ぶりを時に見せながら、解雇もされずの少しの昇進の人生を歩むのだった。ユエシェンの息子のヤオホアは、成長して大学を出て会社に勤めていたが、香港に渡航することになった。そこでメンシュアン達には黙って、リーチンリンのお父さんを見つけ、香港から国際電話をかけてくる。メンシュアンたちは、このおもがけない展開に驚愕するのであった。・・・
 といったあらすじ。評価が高い映画だというのだが、見ていて幾つか筋に無理を感じる。最初の国民党軍のところ、戦場の現場だけで、メンシュアン、ダーションの背景とか育ちが見えない。なので台湾に渡ってから、気が弱そうなだけでなく、頭も悪そうなメンシュアンが公務員資格試験に一発合格することがちょっと理解できない。また見ていて、メンシュアンの生活がいつ破綻するのか、と思うのだが、意外に破綻せず、日々が進む。起伏がとても少ないのだ。
 王童監督自身の脚本だというので、監督を批判するようで恐縮だ。しかし台湾に国民党軍が逃げ込んだとき、大陸から台湾には様々な人が逃げ込んだのであろうし、戦争の混乱のなかで、名前を変えて別の人の人生を生きる、メンシュアンのような存在が少なくないことを、この映画が教えてくれるのは良い点だ。ただ必要なディテール、たとえば台湾への渡航の模様とか、国民党軍に紛れ込む時に起きる問題をどう乗り越えたかとか、いろんな肝心な場面が、細かく描かれていない。王童(1942-)という人は、6歳の子供のときに蘇州から台湾に渡った人(なおお父さんは王仲廉:渡航時、民国国軍中将。のちに行政院戦略顧問。)だが、それがこの映画の限界になっているのだろうか。
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