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遠藤誉『チャイナ・ジャッジ』2012

 遠藤誉(1941-)さんの『チャイナ・ジャッジ』(朝日新聞出版2012年)を最初読んだとき魅了されたし、やはり中国に情報のネットワークを持っている人には、太刀打ちできないなと思った。ただそうは言いながら、どこまで書かれていることをうのみにしていいか戸惑うのも事実だ(写真は定泉寺石仏。左側に寛文十三年1673年の銘が見える)
 本書冒頭の二つの章で主張されているのは、自身の名誉回復について胡耀邦(フー・ヤオバン)に恩義のあるはずの薄一波(ボー・イーボー)が、胡耀邦批判に回り、最後は胡耀邦を総書記から引きずり下ろす急先鋒となった背景だ。まず鄧小平(ドン・シアオピン)は、長老たちの引退を進め指導部を若返らせることを考えた。そのために1982年に10年後の解散を前提に置いた組織が中央顧問委員会。主任は87年まで鄧小平、87年以降は陳雲(チェン・ユン)。副主任が薄一波と王震(ワン・チェン)。遠藤さんは鄧小平が進めたこのような政治改革に対する長老たちの不満が、1987年1月の民主生活会での胡耀邦批判、胡耀邦の失脚につながったとしている。
 とくに薄一波は息子の薄熙來(ボー・シライ)を将来国のトップの座につける夢があって、その前提は一党支配体制であり(そのためにも)、胡耀邦の民主的なやり方がゆるせなかった。他方、民主生活会で最後まで胡耀邦を守ったのは、習近平の父親の習仲勛(シイ・チョンシュン)だとしている。
 なお本書は同じく2012年に刊行された『チャイナ・ナイン』(朝日新聞出版2012年)とペアになっている(なお同書は2014年に朝日文庫で再版されている。『チャイナ・ナイン(完全版)』朝日新聞出版2014年)。このチャイナ・ナインで、遠藤さんは、習近平(シイ・チンピン)を浙江省書記から上海市書記に異動させるようにとの江沢民(チアン・ツエミン)の要求に、共青団の恩師胡耀邦を守った習仲勛の息子であればと胡錦涛(フー・チンタオ)は譲歩した。また、習近平が2007年3月上海市書記になってから数ケ月後の北戴河で、習近平の政治局常務委員入りの序列を李克強(リー・クーチアン)より上位にすることを、江沢民は胡錦涛に要求したと書いている。
 他方で遠藤さんは腐敗を摘発し法治を目指す点で、習近平(2007年10月政治局常務委員 2012年11月総書記に就任)は胡錦涛と同じだったとする。胡錦涛政権が進めた、薄熙來の排除(2012年2月王立軍事件 2012年3月解任軟禁 2013年9月無期懲役判決)、周永康(チョウ・ヨンカン)の摘発(2012年11月政治局常務委員・政法委員会書記いずれも解任 2013年12月消息絶つ 2015年6月無期懲役判決)は、少なくとも政敵を排除し腐敗摘発を進めたことで、習近平の利益になったことは間違いないようにみえる。

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