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中国経済学史

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#鄧小平

姓社姓資論争 中国経済用語

 株式会社制度を導入する際に中国で行われた論争。1990年代初頭。導入支持派は株式会社そして株券市場の姓は社会主義であって、資本主義ではないと論じた(以下は《中國的股份公司與股票市場:姓“社”不姓“資”》在郝繼倫著《中國股票市場發展分析》中國經濟出版社2000年, 9-10の翻訳)(写真は成城大学。左が8号館。右が5号館。)  中国社会主義制度のもとにある株式会社そして株式会社(股份公司)と互いに補完的制度として設立された株券(股票)市場の姓は、社会主義かあるいは資本主義か

周其仁 企業理論と中国改革 2017

 現代経済学のさまざまな枠組みのなかで、コースの企業理論が実は中国の経済改革と相性が良かった。周其仁のこの論文はその点をよく示している。現代経済学というと、数理的モデルを使うものを思い浮かべがちだが、コースの議論はそれらとは異なっていて、企業の本質を取引コストから明らかにしている。逆に言えば、市場とは何か、企業とは何か、そうした原理的な考察がコースの議論に含まれている。  市場取引には取引コストが存在している。ここでは取引コストを下げようと、企業は取引を内部化することがあると

張占娬《中国経済新棋局》2017

 張占娬《中国経済新棋局》人民出版社2017年11月。張占娬は国家行政学院経済学教研部主任。国家行政学院は国の役人、党官僚を教育する組織であるので、この書物はそうした教育の教材だと考えられる(写真は2021年9月2日。コロナ下での習近平総書記を迎えた学習風景。出席者をコロナ前の半数に抑え開催したことが伺える。)。 p.1 習近平同志は指摘している。「私は中国共産党成立百周年のとき(補語 2021年のこと)、小康社会を全面建設(建成)する目標は必ず実現できると確信している。私

胡鞍鋼《中國崛起之路》2007にみる「全面的な小康社会の実現」に到る経済目標の変遷

 胡鞍鋼《中國崛起之路》北京大學出版社,2007 pp.323-332, 372-388(王京濱訳『国情報告 経済大国中国の課題』岩波書店, 2007 pp.161-191 王訳は原書をかなり大胆に編集している。しかしこの大胆な編集については、どこにも明記されていない。その意味で王訳については、かなり問題を感じるが、ここでは中国における全面的小康社会の実現に到る経済目標の立て方の変遷を見る資料という意味で資料としてだけ使うことにする。  「小康」が1980年に鄧小平の発

張卓元 中国改革の回顧と展望 1998

書誌事項は以下のとおり。張卓元<中国経済体制改革總體回顧與展望>載《經濟研究》1998年第3期15-22.この論文は1998年3月香港大学アジア研究センター主催開催の「中国経済改革:比較と展望」国際研究討論会に提出されたもの。経済改革の論点あるいは中心が価格改革から、企業改革とくに国有企業改革にシフトしていることを繰り返し述べている。残念なのは、その企業改革の中身がここでは十分には展開されていないことであるが、価格改革から企業改革への、経済改革の中身の転換を意識させる歴史的論

鄧小平 南巡講話 1992/01-02

有名な南巡講話(南方談話)である。《鄧小平文選》第三卷 人民出版社1993年pp.370-383 ここでは冒頭の4pageを訳出した。pp.370-373 p.370 (一) 1984年に私は広東に来たことがある。当時、農村改革が行われて数年、都市の改革は始まったばかりで、経済特区は開始されたばかりだった。8年経った。今回来て見るまで、深圳、珠海特区やそのほかの一部の地方で発展がこのように早いとは、私は思いつかなかった。見てから、確信(信心)は高まった。  革命とは生産

鄧小平 白猫黒猫論 1962/07/07

這是鄧小平同志在接見出席中國共產主義青年團三届七中全會全體同志時講話的一部分。《鄧小平文選 第一卷 第二版》人民出版社1994年,pp.322-327, esp.322-324 いわゆる白猫黒猫論(黒猫白猫論 猫論ともいう)のもとになる文章がここにある。 p.322 この時期、我々は経済上若干の措置をとった。全体として情況は前の一時期に比べて少しよい。少し良いというのは、我々の生産が発展しているとか、我々の調整工作が成果を上げ始めたということではない。食べるもの、着るもの、

鄧小平 今世紀中の小康実現 1979/12/06

這是鄧小平同志會見日本首相大平正芳時談話的節錄。《鄧小平文選 第二卷 第二版》人民出版社1994年,pp.237-238  4つの現代化というこの目標は、毛主席、周総理が在世中に確定したものである。いわゆる四つの現代化、(そのためには)中国の貧しく欠乏し遅れた面貌を改めることが必要であり、人々(人民)の生活水準を少しずつ高めるだけでなく、中国をして、国際関係(国際事務)に置いて自身の情況に見合った地位を回復させるすべきであるし、人類に対し、少し多くの貢献をさせるべきである。

民主化についてのー胡鞍鋼、李羅力、吳敬璉の議論(2019/05/13)

民主化についてのー胡鞍鋼、李羅力、吳敬璉の議論  福光 寛  胡鞍鋼《中國崛起之路》北京大學出版社,2007 pp.198-204(王京濱訳『国情報告 経済大国中国の課題』岩波書店, 2007 pp.104-110)ここでは胡鞍鋼を引くが中国の経済学者の中国経済に関する議論をみるとき、一つの注目点は政治改革の問題の扱い方である。胡鞍鋼の本書での主張は、共同綱領で見られた民主党派との連携という政治の在り方がその後失われたことを問題にしているが、この問題は事実関係としてはよ

鄧小平「道は正しく、政策は変えようがない」1983/06/18

 這是鄧小平同志會見參加一九八三年北京科學技術政策討論會的外籍專家時談話的一部分。《鄧小平文選 第三卷》人民出版社1993年,p.29  我々が進めている現代化は、中国式の現代化である。我々が建設する社会主義は、中国の特徴(特色)のある社会主義である。我々の主要は、自己の実際情況と自己にもとづいており、自力更生を主とする。  われわれの現在の道は正しく、人々(人民)は喜んでおり、我々もまた自信がある(有信心)。変えるのであれば、さらに良く変えるしかない。対外開放政策はさらに

一国二制度 中国経済用語

《一個國家,兩種制度》一九八四年六月二十二日,二十三日。這是鄧小平同志分別會見香港工商界訪京團和香港知名人士鈡士元等的談話要點。《鄧小平文選 第三卷》人民出版社1993年pp.58-61 p.58 中国政府が香港問題を解決するため、採用した立場、方針、政策は確固としており不変(堅定不移的)である。何度も話したように、わが国政府が一九九七年香港の主権を回復行使したあと、香港の現在の社会は、経済制度は変わらず、法律の基本は変わらず、生活方式は変わらず、香港の自由港としての地位

鄧小平 企業改革と金融改革 1986/12/19

這是鄧小平同志聽取幾位中央負責同志匯報當前經濟情況和明年改革設想是的談話要點。《鄧小平文選 第三卷》人民出版社1993年,pp.192-193(写真は播磨坂にて) 我々の改革は一体何歩歩かねばならないのか。どれだけの時間で完成するのか。皆さんには研究してほしい。  長期的に見て糧食問題はとても重要で、改革により農業発展が遅い問題(農業發展後勁問題)を解決する必要がある。企業改革は主としては国営大中型企業活性化(搞活)問題の解決である。  さまざまな形式を用いて所有権と

鄧小平 十三大に向けて 1987/08/29

這是鄧小平同志會見意大利共產儻領導人約帶和贊蓋裏時談話的一部分。1987年8月29日。《鄧小平文選第三卷》人民出版社1993,pp.251-252  わが国の経済発展を三歩の歩みに例えると、本世紀は二歩歩み、衣食が足りた中等生活(溫飽和小康)に至り、次の世紀の三十年を用いて(併せて)50年間でもう一歩歩むことで、中等発達国家の水準に達する。これは我々の戦略目標であり、遠大な理想(雄心壯志)である。我々の遠大な理想を実現するには、改革しないのは駄目だ。開放しないのも駄目だ。我

鄧小平 物価改革の実施 1988/05/19

 這是鄧小平同志會見由朝鮮人民武裝力量部部長吳振宇率領的朝鮮政府軍事代表團時談話的一部分。1988年5月19日。《鄧小平文選第三卷》人民出版社1993,pp.262-263 我々の党の十三回大会と全国人大七届一次会議は、いずれもその精神は今一歩思想を解放し、今一歩生産力を解放するというものである。  物価が正される(理順物價)ことで、改革は足並みを早めることができる。物価問題は歴史の経緯がもたらしたものだ(歷史遺留下來的)。過去、物価はみな国家が決めていた。例えば食糧(