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中国経済学史

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2021年9月の記事一覧

周其仁 企業理論と中国改革 2017

 現代経済学のさまざまな枠組みのなかで、コースの企業理論が実は中国の経済改革と相性が良かった。周其仁のこの論文はその点をよく示している。現代経済学というと、数理的モデルを使うものを思い浮かべがちだが、コースの議論はそれらとは異なっていて、企業の本質を取引コストから明らかにしている。逆に言えば、市場とは何か、企業とは何か、そうした原理的な考察がコースの議論に含まれている。  市場取引には取引コストが存在している。ここでは取引コストを下げようと、企業は取引を内部化することがあると

劉国光「私の回顧と展望」『中国社会科学網』2017年4月12日

 以下の文章は《我的一些回顧與展望-訪著名經濟學者劉國光研究員》載《中國社會科學網》2017年4月12日(www.cssn.cn)の冒頭3分の1を訳出したものである。劉は1923年生まれ。西南連合大学経済系を1949年卒業。その後、清華の研究院に進んだとネット上の資料には出ている。しかし以下の本人の弁によれば大学卒業後、南京の中央研究院社会研究所にただちに入職したことになる。また同じくネット上ではソ連には1951-55年まで留学、副博士号を得たとある。 <中国社会科学法報(

李稻葵 中国と世界の新常態とは何か? 2015

李稻葵は清華大学「中国と世界経済研究センター」主任。なおこの論稿の書誌事項は以下の通りである。 李稻葵《什麽是中國與世界新常態》載《新常態下的變革與決策》中信出版社·2015年pp.15-19 p.15   中国と世界の新常態とは何か?  経済成長の緩慢化現象の背後の基本的内容は社会経済制度の転型である。そのうち先進国(発達国家)の新常態の基本特徴は社会経済体制の「左旋回(向左轉)」であり、中国やほかの新興国家のそれは「右旋回」である。  新常態はリーマン(本輪)金融危機

張維迎 中国経済の転型と企業家精神 2015

この論文も雑誌論文からの転載だと考えられるが、とりあえず論文が収載された図書の刊行年を発表年としておく。書誌事項は以下の通り、 張維迎《中國經濟轉型與企業家精神》載《新常態改變中國》中和出版社·2015年196-212 p.196     企業家が転型の核心である  いわゆる中国の経済転型とはどのような意味か?われわれはこの転型には二つの面が含まれることを知っている。  一つは計画経済から市場経済への転型である。1978年から始まり、現在に至るまでなお終わっていないし、い

厲以寧 財産権改革―これまでの成果 2013

厲以寧《中國經濟 雙重轉型之路》中國人民大學出版社·2013年から第一章產權界定的重要性 第一節 經濟非均衡和市場主題的確定 二,產權改革迄今取得的成績 pp.18-21を訳出する。 p.18  二、財産権改革が今まで得た成果  20世紀80年代以来、2012年まですでに30年以上が経った。この30年余りの間に、中国は財産権改革方面ですでに喜んでよい成果を上げた。この成果は大体五つの方面に分けることができる。  (一)国有企業の大部分は株式制企業に改変され、その一部は上場会

鄭永年 清廉な政府の建設 2012/2014

 ここで紹介するのは鄭永年(1962-)の以下の文章である。この人は華南理工大学榮譽教授、シンガポール国立大学東アジア研究所長。  鄭永年《建設清廉政府:如何有效反腐敗》載《關鍵時刻》東方出版社·2014年148-174(なお華南理工大学公共政策研究院《政策研究専題》2012年12月号からの転載である)。以下は要約である。  十八大で習近平により反腐敗が大きく掲げられた。この論文は、民主化の欠如(具体的には三権分立による権力の分散、法治により腐敗に法律的制裁があり、司法の独立

張五常 中国的経済制度 2009

    この本は英語のあと中国語がくる。それで中国語の部分から読むといろいろ疑問が残った。で英語で見ると、主張は明確で疑問も残らない。ということは英語版を最初から読んだ方が良かったかもしれない。内容は彼、張五常がどのように、中国の改革にかかわってきたかを語ったもの。ところどころ自慢話に見えるところもあるが、それだけ天才肌で自信、自負の高いひとなのだろう。  第一節で提起される問題は、腐敗、言論統制など、極めて多くの問題を抱えながらも中国が急速に発展したことは事実、それをいかに

吳敬璉 経済学者と中国改革 2004

 以下は吳敬璉《經濟學家,經濟學與中國改革》載《經濟研究》2004年第2期,8-16の前半3分の1を訳出したものである。吳敬璉(1930-)は高齢ながら、改革を進める立場で最近も発言する経済学者であるが、その評価を改革派とすべきか戸惑うところがある。たとえばだが、趙紫陽と李鵬との対立において、李鵬にすり寄ったとされる点。証券取引所について、これを賭博に例える議論をしたとされる点(株価をどう捉えるかの問題も確かにあるが、国営企業改革との関係、企業の資金調達との関係などの論点が落

林毅夫 胡書東 中国経済学百年回顧 2001

 この論文は手元にあって実際、日頃参照している論文なのだが、いろいろな問題を感じる論文でもある。まず書誌事項は以下の通り。 林毅夫 胡書東〈 中国経済学百年回顧〉《経済学》第1巻第1期2001年10月pp.3-18  この論文の最大の問題は中国経済学の百年を論じるとしながら、戦後の四十年についてはかなり粗略に語っていることだろう。  簡単に内容をみるとまず、アダム・スミスの『国富論』が1901年に嚴復により『原富』として出版されたことをもって、中国に現代経済学が伝入したのはこ

張卓元 中国改革の回顧と展望 1998

書誌事項は以下のとおり。張卓元<中国経済体制改革總體回顧與展望>載《經濟研究》1998年第3期15-22.この論文は1998年3月香港大学アジア研究センター主催開催の「中国経済改革:比較と展望」国際研究討論会に提出されたもの。経済改革の論点あるいは中心が価格改革から、企業改革とくに国有企業改革にシフトしていることを繰り返し述べている。残念なのは、その企業改革の中身がここでは十分には展開されていないことであるが、価格改革から企業改革への、経済改革の中身の転換を意識させる歴史的論

コルナイの市場社会主義批判 1997(吳敬璉2013)

 東欧の市場社会主義、そして中国における「改革開放」をコルナイはどう評価したか。吳敬璉は、1997年のコルナイの著書から、市場社会主義への批判を読み取り、それを記録している。吳敬璉  馬囯川《重啓改革議程》香港中和出版有限公司2013年·123-126 p.123     吳敬璉:私が見るところ、国際学術界で、ハンガリーの経済学者コルナイは「市場社会主義」に対し、最も全面的で深い(深刻)批評(評論)を行った。コルナイは p.124   経済学素養の高い、また人文に造詣の深い

コルナイモデル 1985年9月

  1985年9月2日から7日 世界銀行、中国社会科学院などが共催して、重慶から武漢まで巴山輪号という船に泊まり込んで揚子江を下りながら、中国内外の経済学者が中国の経済改革について語り合う大規模な会議が行われた。歴史上「巴山輪會議」といわれるもの。海外からはA.Cairncross, J.Tobin, W.Brus(Poland), J.Kornai(Hungary)など、中国からは、薛暮橋,馬洪,劉國光,張卓元,吳敬璉などが参加している。手元の張軍《“雙軌制”經濟學:中國的