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中国経済学史

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2019年10月の記事一覧

姓社姓資論争 中国経済用語

 株式会社制度を導入する際に中国で行われた論争。1990年代初頭。導入支持派は株式会社そして株券市場の姓は社会主義であって、資本主義ではないと論じた(以下は《中國的股份公司與股票市場:姓“社”不姓“資”》在郝繼倫著《中國股票市場發展分析》中國經濟出版社2000年, 9-10の翻訳)(写真は成城大学。左が8号館。右が5号館。)  中国社会主義制度のもとにある株式会社そして株式会社(股份公司)と互いに補完的制度として設立された株券(股票)市場の姓は、社会主義かあるいは資本主義か

分税制 中国経済用語

 中国の分税制(フェンシュイツー)改革(1994年)は、中央と地方の間で税を区分し、地方の収入源として大きかった付加価値税(増値税)を主として中央の収入とした。背景には地方政府による課税上の乱脈があったとされる。結果としてこの改革により課税権限の多くを中央に取られて、税収を抑えられた地方政府は、土地を徴用して民間に使用権を譲渡することを繰り返すこと(⇒徴用による住民との対立、しかしプラス面としては工場団地や都市の開発・再開発の促進)になったとされている。以下の引用は、中央と地

中国株式市場の真実 2007

 張志雄・高田勝己『中国株式市場の真実』2007年。本書は、非流通株の流通株化という股改(グーガイ 2005-06)と呼ばれる株式市場改革が行われた直後の2007年6月。ダイヤモンド社から発行された。著者は中国の証券専門紙の記者である張志雄と上海在住の長い高田勝己の二人。この本も時々読み返すのだが、いわゆる学術論文よりはよほど中国株式市場の真相に迫っているように思える。今回は1990年の市場のスタートから1999年5月、米軍機によるユーゴスラビアの中国大使館爆撃事件までを拾い

関志雄『中国を動かす経済学者たち』2007

 この本は東洋経済新報社の出版。正式のタイトルは『中国をうごかす経済学者たち 改革開放の水先案内人』である。これは私が、中国の経済学史の研究を始めるとき、先行研究として重視した本の一つだが、明らかに関心が違うのは、この本は改革開放(1970年代終わり)以降に議論を絞り込んでいる点だ。結果として、たとえば陳雲とか鄧子恢など、わたしなら論じる人はこの本に登場しない(写真は成城大学1号館中庭)。  私は改革開放の前からの流れを見ないと、中国の経済学史を見ることにならないと、考えてい

胡平 趙紫陽の社会主義初級段階論 2011

胡平《關於趙紫陽若干問題的解讀》在《趙紫陽的道路》晨鍾書局2011年pp.217-233  この胡平の一文は、あくまで参考として読み始めた。ここでは趙紫陽が1987年の十三大で提起した社会主義初級段階といういい方の巧妙さを論じた部分を訳出する。胡平(1947-)は1979年の民主の壁運動で名を成した人物。以下の文章もなかなか文章を書きなれた印象を受ける。 p.222 2.「社会主義初級段階」について  「社会主義初級段階」という言い方は、早くも思想解放運動時に議論(探