第3回: CMMIの定義する組織成熟度のご紹介
前回のブログでCMMI®には5段階の成熟度レベルが定義されていると述べました。
そこで今回は、それぞれの成熟度の組織がどのような特徴を持つのかをご説明いたします。
1.CMMIの成熟度の評価方法
CMMIの成熟度の正式な評価は「ベンチマークアプレイザル」と呼ばれる方法に基づき行われます。ベンチマークアプレイザルでは、成熟度の評価対象組織として、会社全体、事業部単位、部単位、プロジェクトなどが該当し、ISACAが認定したCMMIリードアプレイザーの有資格者がリーダーとなってアプレイザルチームを組んで分析し、メンバー全員のコンセンサスを得ながら評価します。なお、アプレイザルチームメンバーになるために必要な資格は、3日間のトレーニングを受講し、試験に受かることで取得できます。
成熟度の評価結果は、ISACAのWebサイトに3年間掲載されます。
2.CMMIの各成熟度の特徴とは?
次に、CMMIの定義する成熟度について、はじめにISACAによる正式な定義を述べた上で、それに対して私自身の言葉で補足説明いたします。
(1)成熟度レベル1
(ISACAの定義)
初期の予測不能で受け身の反応型である。
・作業は完了するが、しばしば遅延と予算超過が発生する。
■補足説明
レベル1の組織では、多くのプロジェクトで仕事は場当たり的で、やり方が定義されておらず、成功するかどうかは人に大きく依存しています。とてもリスクが高い状態と言えます。
(2)成熟度レベル2
(ISACAの定義)
管理されたプロジェクトレベルで管理されている。
・プロジェクトは、計画され、実施され、測定され、そして制御されている。
■補足説明
レベル2の組織では、全てのプロジェクトで基本的な管理ができています。各プロジェクトで仕事のやり方(プロセス)を定義し、計画を立て、計画通りに進んでいるか監視し、計画との乖離は課題として管理し解決します。レベル1と比較すると、プロジェクトが成功する可能性が大きく向上します。
しかしレベル2の組織では、各プロジェクトが独自の方法で仕事を進めているので、プロジェクトへの新規参加者は、新しい方法や言葉を覚えるのに時間がかかるかもしれません。またQCD(品質・コスト・納期)の状況が測定され報告されますが、その内容は各プロジェクトで異なるため、上位管理層がプロジェクトを跨って比較管理することが困難な場合があります。
(3)成熟度レベル3
(ISACAの定義)
定義された受け身の反応ではなくて、先を見越した対応。
・組織全体の標準が、プロジェクト、プログラム、およびポートフォリオにわたって手引きを提供する。
■補足説明
レベル3以上の組織では、組織(会社や部門)が組織標準プロセスを提供します。また組織標準プロセスを元に、個別の部署やプロジェクトに合ったプロセスをどのようにして作成するべきかを説明するテーラリング指針を提供します。テーラリング指針には、例えば標準プロセスに定義されるタスクの実施や成果物の作成に関して、どれが必須、どれがオプション、どんな場合は省いて良いかなどを定義します。
レベル3の組織のプロジェクトは、テーラリング指針に従って、プロジェクトの特性に合わせて組織標準プロセスをテーラリングして活動を遂行します。どのプロジェクトも同じ言葉の定義のもと、仕事の方法が統一されるので、組織内で他のプロジェクトから移動してきた新規参加者はスムーズにキャッチアップできます。またQCDに関する測定項目や報告内容の標準化が進むので、上位管理層がプロジェクトを跨って比較しながら管理することが容易になります。
レベル3になると、各プロジェクトで得られた経験や教訓は組織へフィードバックされ、改善された組織標準プロセス、組織標準資産(ガイドやテンプレート等)、組織提供トレーニング等を通じて、組織内部に展開されます。言い換えると、レベル2の組織では各プロジェクトに埋もれていた良い方法や苦い失敗経験が、レベル3の組織では特定され横展開されるようになります。つまりレベル3の組織では、組織全体での改善ループが回っています。
CMMIを活用している組織の多くは成熟度レベル3を改善のターゲットにしています。
(4)成熟度レベル4とレベル5(高成熟度)
(ISACAの定義)
【レベル4】定量的に管理された・測定され制御されている。
・企業組織は、定量的な実質の改善目標(予測可能)と共にデータで運営され、内外の利害関係者のニーズを満たすように調整する。
【レベル5】最適化している・安定しており柔軟である。
・企業組織は、継続的な改善に焦点を合わせ、機会と変化に対して方向転換や対応ができるように構築される。組織の安定性が、プラットフォームに機敏性と革新をもたらす。
■補足説明
レベル4とレベル5はまとめて高成熟度(High Maturity)と呼ばれます。高成熟度のレベルの評価では、通常のCMMIリードアプレイザーの資格に加えて、高成熟度リードアプレイザーの資格を持つ人がリードする必要があります。(ちなみに私は高成熟度の資格も持っていますが、この資格を取るのはなかなか大変でした。)
CMMIにおける“定量的”の意味は、単に“数値を使って”という意味を超えて、“統計的手法を用いて”という意味を含みます。
レベル4の組織では、組織の事業目標達成やプロジェクト目標達成のために重要なプロセスに関して、管理図等の統計的手法を用いてプロセスの能力や安定性を評価したり、回帰分析やシミュレーション等を用いた予測モデルを使用したりしながら、各プロジェクトが目標達成へ向けてコントロールします。また改善策の有効性を仮説検定等の統計的手法を用いて評価します。
最高位のレベル5になると、組織の事業目標と改善活動との繋がりについても統計的手法を使用してより深く理解しているので、各改善活動が事業目標達成に貢献する可能性が更に高まります。
数値による定量的管理はレベル2や3の組織でも実施していますが、レベル4と5の高成熟度の組織では統計的手法を用いた定量的管理を実施しています。高成熟度のキーワードは“統計的手法”です。
今回は、CMMI各成熟度レベルの組織の特徴についてご紹介いたしました。ぜひ皆様からのご意見や感想を頂けると嬉しいです。
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