見出し画像

【ショートショート】君とただ歩きたかった #シロクマ文芸部

ただ歩く。
私に許されている行動はそれだけだ。

私を作った博士はもういない。
昔は博士の孫のタダシ君の相手をさせられた。
私は歩くことしかできなかったが、タダシ君はキャッキャッと喜んでいた。
私は頑丈に作られているので、タダシ君が多少無茶をしてもなんともなかった。

何があっても指示された場所まで歩いてたどり着く。
それが私の能力。

その能力に我が国の軍が目をつけた。
私に爆弾を搭載し、敵国に向かって歩くように指示をした。

それで私は今、歩いている。
何の感情もない。
ただ歩く。

爆弾を運んでいるようには見えないだろう。
二足歩行のロボットが歩いてるだけだから。

国境の手前で聞き覚えのある声がした。

「マーズ、歩くのをやめて!」

タダシ君の声に似ている。

「あなたの命令を聞くことはできない」

「おじいちゃんとマーズを人殺しにしたくないんだよ!」

「私はただ歩いているだけだ」

「うん、僕は君が大好きだった。歩いている君が。でも、今は歩いて欲しくない。足を止めて欲しい」

「足を止めたら歩けない。ただの爆弾になってしまう」

「いいんだ。一緒に火星に行こう」

タダシ君と声が似ている人物が、私のどこかにある、私も知らないボタンを押した。

私は上を向き、ロケットのように急上昇した。
タダシ君と思われる人物はどこかに行ってしまった。
一緒に行こうと言ったのに。

私は大気圏を超えて火星まで飛び続けるのかと思っていたが、大きな爆発音が聞こえ……。

(595文字)


※シロクマ文芸部に参加しています。
 ほのぼのとした話を書こうとしていたのですが、こんな話になってしまいました。

#シロクマ文芸部
#ショートショート
#ただ歩く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?