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冬の色のダンス #シロクマ文芸部

「冬の色が出ていない。やり直し」

とある高校のダンス部の練習場。
コーチの男性にダメ出しされて、女子部員は納得のいかない様子だったが、渋々といった感じでもう一度踊った。
どことなく哀愁が漂っていた。

「うーん、冬と言うよりは秋だな」

コーチが苦い顔で言う。

「コーチ!私、分かりません!冬の色も、冬の色を出さなきゃいけない理由も」

女子部員は今にも泣きそうだった。
コーチは一瞬困ったような顔をしたが、すぐに毅然とした態度に戻って言った。

「由香里。前回の大会で二位に終わった時、監督に言われたことを忘れたのか。『次の大会は冬の色で勝負しろ、そうすれば勝てる』と」

「……覚えてます。覚えてますけど、冬の色ってどうすれば出せるのか、見当がつかないんです!自分なりの色を出そうと踊ってみたけど、秋の色って言われるし。秋の色じゃ駄目なんですか?」

「勝つためには、冬の色を出す必要があるんだよ。正直、俺にも冬の色を出せば勝てる理由はわからん。だが、実績のある監督が言うことだ。信じるしかない」

女子部員はしばらく黙って考えていたが、やがて少し意地の悪い顔をして言った。

「コーチは出せるんですか?冬の色」

「……出そうと思えば出せる」

「じゃあ見本、見せてくださいよ」

「俺の冬の色を見て、何になると言うんだ!」

「ヒントが欲しいんです!お願いします」

「……仕方ない。よく見てろ」

コーチは情熱的なダンスを披露した。滲み出るストイックさに冬を感じないこともなかった。
コーチのダンスが終わると女子部員は言った。

「コーチ、少しだけ冬を感じましたけど、ほとんど夏でしたよ」

「私のことはいい!お前なりの冬の色を出せるようになれ!」

「無理です!もうヤダー」

ついに女子部員は泣き出してしまった。
コーチは女子部員が泣き止むのを待って言った。

「由香里。監督に真意を聞こう」

コーチは監督に電話をかけた。
事情を話すと、監督はここに来てくれるという。

「コーチ、ありがとうございます」

「いや、私も監督の考えをちゃんと理解しておきたいからな」

やがて監督を乗せたタクシーが到着した。
これまで多くの有名ダンサーを育ててきた監督ももう若くない。厳しい指導で知られていたが、最近はニコニコしているばかりで、指導はコーチに一任していた。

「由香里ちゃん、大丈夫か?何か困っておるのかな?」

「監督!私、冬の色がどうしても出せないんです!」

「冬の色を出す?はて、どういうことかな?」

コーチが口を挟んで言った。

「横から失礼します。前回の大会の時に監督からいただいたお言葉です。『次は冬の色で勝負しろ』と」

「あー、あれか。あれはな、衣装の話じゃ。由香里ちゃんが冬の色の衣装を着て踊れば絵になるからの。優勝間違いなしじゃ。ホッホッホ」

翌朝、地方紙に小さな記事が載った。

ダンスの有名監督が怪我。
指導していた高校のコーチと生徒にモップで殴られる。

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#冬の色
#短編小説

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