【ショートショート】犬型ロボット2080 #シロクマ文芸部
愛は犬型ロボット2080にも搭載されなかった。
犬型ロボットは、毎年バージョンアップを重ねて犬としての機能はほぼ完璧に実装されているが、愛だけはいまだ実装されていない。
2080年の日本では、犬を飼うのは一部の富裕層だけだった。犬型ロボットの流通により犬の価格が高騰してしまったのだ。犬型ロボットを購入して人生のパートナーとすることが当たり前になっていた。
いま初老の男性が犬型ロボット専門店で犬型ロボット2080を買うか悩んでいる。男性は勇気を出して店員に話しかけた。
「コレっていくらするんです?」
「ピンキリですけど、5万くらいから買えますね」
「本物よりずいぶん安いんですね」
「量産型のロボットですからね。部品もずいぶん安くなりましたし」
「犬のロボットを飼うってどうなんですかね?」
「お客様は初めてなのですね。まあ可愛げみたいなものは本物にはかなわないのでしょうが、だんだん可愛く見えてくるみたいですよ。今じゃ本物飼うよりロボット飼う人の方が多いですからね」
「そうですか。あなたは飼っているのですか?」
「私は飼ってませんが、ひとり暮らしの父が飼ってますよ。かわいくて仕方ないみたいですね。たまに私が実家に顔を出しても犬型ロボットを撫でるばかりで、あまり私の相手をしてくれません」
「ふうん。安いし、飼ってみようかな」
「ありがとうございます」
翌日、男性の元に犬型ロボット2080が届いた。
説明書は紙一枚だけで、こう書いてあった。
「コウイチロウ。お前の名前は、コウイチロウだぞ」
犬型ロボット2080はワンッと鳴いて、コウイチロウになった。それから男性とコウイチロウの生活が始まった。
何をするにも一緒。
唯一、男性が仕事で出かける時だけ、コウイチロウは家でお留守番だったが、男性が家を出る時、コウイチロウはなんとも寂しそうにワンワンと吠えた。男性が帰ってくると尻尾をブンブン振って喜んだ。
時が経ち、男性の寿命が尽きようとしていた。
「ごめんな、幸一郎。お父さん、あの時、お前を助けてあげられなくて、一緒にいてあげられなくて、ごめんな……コウイチロウ、いつも一緒にいてくれてありがとう。お前と一緒に暮らせて幸せだった。本当にありがとう」
男性が息を引き取ると、コウイチロウはクゥーンと泣いて機能停止した。
これは犬型ロボット2080の仕様ではなかった。他にも同様の事例が多数報告されて、優秀な技術者達が調査しているが、機能停止の原因は分かっていない。
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※シロクマ文芸部に参加しています
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