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奇妙なオミクロンはどこから来たのか?: Scienceに掲載された記事より

前回に続き、オミクロンについて話していきたいと思います。SARSコロナウイルス2-オミクロン株の最初の症例は、2021年11月24日に南アフリカから世界保健機関 (WHO) に初めて報告されました。オミクロン変異株は多数の変異を持ち、しかもオミクロンの変異は武漢型をベースとした現行のコロナワクチンによる免疫を回避する可能性があるものです。少なくとも1年以上もの間発見されずにオミクロンがどうやって多くの変異を獲得して進化してきたのか? 科学者の間では議論の的になっています。Science誌に掲載された記事を紹介します。

Where did ‘weird’ Omicron come from?
Kupferschmidt Science 2021
https://www.science.org/content/article/where-did-weird-omicron-come
奇妙なオミクロンはどこから来たのか?

突然変異は慢性的な感染者、見落とされた人間集団、または動物宿主に蓄積された可能性がある。
先週、南アフリカの科学者がSARS-CoV-2の不穏な新型を特定したと発表して以来、世界はこの新型がパンデミックの軌道をどう変えるのか、その手がかりを待ち焦がれている。しかし、緊急性は低いものの、オミクロンがどこでどのように進化したのか、そしてその出現が将来の危険な亜種を回避するためにどのような教訓をもたらすのかは、同じくらい大きな謎である。
オミクロンは明らかに、アルファやデルタのような懸念される初期の亜種から発展したものではない。むしろ並行して、しかも暗中模索しながら進化してきたように見える。

エマ・ホドクロフト (ウイルス学者、ベルン大学)
オミクロンはこれまで公開されてきた数百万のSARS-CoV-2のゲノムとは大きく異なる。他の株から分岐したのは2020年の中頃ではないか。

ref. 2416 図

図はコロナウイルス変異株の進化系統樹です。それぞれの点はウイルスの塩基配列です。点と点との距離は進化上の距離、つまりお互いの塩基配列の相同性 (類似度) を表します。縦軸は突然変異の数、横軸は時期です。この図から分かるのは、オミクロンは他の変異株よりも突出して変異が多い事、進化上の距離がかけ離れている事、2021年10月に突然現れて塩基配列上も時間的にも進化上の中間体が見つからない事です。

これを見ると、オミクロンの前身が1年以上もどこに潜んでいたのか? という疑問が湧いてきます。Science誌の記事内で科学者達はいくつかの可能性について述べています。1) COVID-19に慢性的に感染している免疫不全症の患者の中で発生した可能性、2) ウイルス監視や配列決定がほとんど行われていない集団の中で循環し進化した可能性、3) 人間以外の生物種で進化し、それが最近になって再び人間に流入した可能性、です。4) アフリカのワクチン接種率が低いためとする考え方もあります。また、同記事内ではそれぞれの仮説に対する批判についても触れています。

仮説1) 免疫不全のコロナウイルス慢性感染者に由来。

アンドリュー・ランボー (エジンバラ大学)
オミクロンはCOVID-19に慢性的に感染している免疫不全の患者由来ではないか。2020年末にアルファが初めて発見された時、この変異型も一度に多数の変異を獲得したように見えた。

リチャード・レッセルズ (感染症研究者、クワズール・ナタール大学)
南アフリカでHIV感染がコントロールされていない若い女性が6ヶ月以上SARS-CoV-2を保持していた。このウイルスは、懸念される変異型に見られるような多くの変化を蓄積しており、このパターンは、SARS-Cov-2感染がさらに長く続いた別の患者にも見られたものである。

仮説に対する反論:免疫不全患者で発生する変異型は人から人への感染力を弱めるような他の多くの変化を伴う。これらのウイルスは、現実の世界では非常に低い適合度しかない。ある個体で長期間に渡ってウイルスが生き残るための突然変異と、ある人から次の人へ最もよく広がるために必要な突然変異とが、非常に異なっている可能性がある (クリスチャン・ドロステン)。

仮説2) 隔離された集団の中で進化した。

クリスチャン・ドロステン (ウイルス学者、ベルリンのシャリテ大学病院)
このウイルスが進化したのは、多くのシークエンスが行われている南アフリカではなく、冬の波が押し寄せたアフリカ南部のどこかではないか。この種のウイルスが進化するためには、大きな進化圧力が必要。

ジェシカ・メトカーフ (進化生物学者、ベルリンの高等研究所)
ドロステン氏の意見に同意。このウイルスがこれほどうまくいった理由の一つは、ACE2 (ヒト細胞上の受容体) との結合が上手くいって、宿主内拡散と宿主間拡散の両方に役立つからである。つまり、人間に対する感染力の選択圧を受けているはずである。

仮説に対する反論:この種の伝染するウイルスが、様々な場所に出現する事なくこれほど長い間隔離された場所は実際にはこの世界にはない (アンドリュー・ランボー)。

仮説3) 動物の体内で進化した。

クリスチャン・アンダーセン (感染症研究者、スクリプス研究所)
このゲノムは実に奇妙だ。このウイルスは人間ではなく、ネズミや他の動物の中に潜んでいたため、新規の突然変異を選択するような異なった進化的圧力を受けたのではないか。

マイク・ウォロビー (進化生物学者、アリゾナ大学ツーソン校)
2020年11月下旬から2021年1月上旬にかけてアイオワ州で採取されたオジロジカの80%がSARS-CoV-2を保有していた。他の種が慢性的に感染できるかどうか、潜在的に選択的圧力を提供できるかどうか次第でもある。

仮説に対する反論:もしウイルスの抑制に成功しているならば、ウイルスはどこかに隠れる必要があるので、動物の宿主をより心配するようになるだろうが、実際にはウイルスは蔓延しており、動物に回避する必要が無い (アリス・カツオウラキス)。

仮説4) アフリカのワクチン接種率が低いため。

リチャード・ハチェット (Coalition for Epidemic Preparedness Innovationsの代表)
南アフリカとボツワナの低いワクチン接種率がこの亜種の進化に「肥沃な環境を提供した」。世界的な対応の特徴である世界的な不公平が、今ねぐらに帰ってきた。

仮説に対する反論:この発言を裏付ける証拠はほとんどない。「アフリカでもっとワクチンを打っていれば、こんな事にはならなかった」という考え方があるが、文字通り知るすべがない (カツオウラキス)。


今の所、オミクロンの起源と同様にオミクロンの進化の過程は未知のままです。オミクロンは他のコロナ変異株と比べて極端に変異が多いのですが、さらに不思議なのは、その進化の途中の中間の変異株が見つからない事です。また、オミクロンの高い感染性を考えると人間への感染力という選択圧を受けて進化したはずです。そして、アフリカで最初に見つかったという事です。

それぞれの主張に対する反論ももっともです。隔離した場所で人間を宿主として進化したのならば、その地域で様々な中間体が見つかってもおかしくありません。動物を宿主として進化した場合、あるいは免疫不全の患者の体内で進化した場合には、ヒトへの高い感染力に対する選択圧を説明できません。

Science誌の記事の議論で欠けている疑問点もいくつかあります。アフリカのワクチン接種率の低さは事実ですが、むしろアフリカ大陸ではコロナウイルス感染が大きな問題にはなっていません。さらに、オミクロンは短期間で欧米やアジアに感染を拡大したにも関わらず、アフリカ大陸で広がっていません。武漢型コロナウイルスをベースとして開発されたコロナワクチンはそれを回避する変異株の進化を促すと考えられますが、オミクロンはまさにコロナワクチン回避に適応した変異を獲得しています。そして、現在多くのワクチン接種者が実際にオミクロンに感染しています。動物体内で進化したのであればコロナワクチン耐性を獲得する必要はありません。免疫不全者はコロナワクチンに対する抗体を持たないでしょうから、免疫不全者の体内で進化したとしてもコロナワクチン耐性という選択圧は受けないでしょう。またワクチン接種率の低いアフリカで、ワクチン接種者が多く住む隔離された場所は一体どれくらいあるのでしょうか。

アミノ酸置換に影響しないS変異は基本的には選択圧に中立な変異です。S変異は分子進化の速度の指標となる分子時計としても用いられます。中立変異に対してアミノ酸を置換させる変異が圧倒的に多いという事は、ワクチンを回避するためのアミノ酸置換が短期間に一気に入ったという事になります。


常々思うのですが、研究者というのは意外にもいわゆる「常識人」が圧倒的多数派です。そして基本的に「科学者は意図的な捏造などしない」「悪意を持った研究などしない」という性善説に基づいた認識を強く持っています。そのため、その認識を超える事柄に対しては非常に脆弱です。「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションである (アルベルト・アインシュタイン)。」私はオミクロンの起源は、性善説に基づく科学や医学の既存の常識を超えているものと考えます。コロナ騒動を考える上では、常識とは従うものではなく疑うべきものだと考えた方が良いのかもしれません。




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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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