コロナワクチンから予測される自己免疫疾患
引き続きマサチューセッツ工科大学 (MIT) の総説論文も引用しつつ、コロナワクチンと自己免疫疾患の関連についてお話していきます。
Worse Than the Disease? Reviewing Some Possible Unintended Consequences of the mRNA Vaccines Against COVID-19
Stephanie Seneff, Greg Nigh
International Journal of Vaccine Theory, Practice, and Research 2021
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23
病原性プライミング、多臓器不全炎症性疾患、自己免疫疾患
病原性プライミングは、結果としてはADEと似ているが、根本的なメカニズムが異なる概念である。ここではmRNAワクチンが関連する病態を引き起こす可能性のあるユニークなメカニズムとして取り上げる。
2020年4月に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質やその他の抗原性エピトープへの曝露後に自己反応性抗体が生成される可能性に関する重要な論文が発表された。Lyons-Weiler (2020) は、一般的に使われている「免疫強化」という言葉では、この症状の深刻さとその結果を捉える事ができないと考え、「病原体の呼び水」という言葉を作った。Lyons-Weilerは、イン・シリコ (in silico) 解析において、SVMTriPデータベース (http://sysbio.unl.edu/SVMTriP/) に登録されているSARS-CoV-2タンパク質の抗原性エピトープをすべて比較し、p-BLASTデータベース (https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi) で、これらのエピトープとヒトの内因性タンパク質との相同性を検索した。分析した37個のSARS-CoV-2タンパク質のうち、29個に抗原領域があった。この29個のうち1個を除いたすべてのタンパク質が、ヒトのタンパク質 (自己抗原と思われるもの) と相同性を持ち、自己反応性を持つと予測された。最も相同性が高かったのはスパイク(S) タンパク質とNS3タンパク質で、いずれも6個のヒトタンパク質と相同性があった。
ウイルスタンパク質と相同性のあるヒト内在性タンパク質の機能解析を行ったところ、1/3以上のタンパク質が適応免疫系に関連している事が分かった。著者は、特に高齢者の重症化には過去のウイルス曝露やワクチン接種によってこれらの内因性タンパク質を標的とした抗体産生が開始されている可能性があると推測している。この場合、既存の抗体が適応免疫系を抑制するように作用し、より重篤な疾患を引き起こす事になる。
また、別のグループ (Ehrenfeldら、2020年) は、SARS-CoV-2の先行感染に関連して発見された幅広い自己免疫疾患についての論文で、スパイクタンパク質がどのようにしてこのような幅広い疾患を引き起こすのかを調査した。彼らは、SARS-CoV-2によって生成されたスパイクタンパク質とオーバーラップするヒトのプロテオーム内のヘプタペプチドの文字列を同文献の表1に報告している。その結果ヒトとスパイクタンパク質に含まれる26個のヘプタペプチドが確認された。興味深い事に26個のオーバーラップするヘプタペプチドのうち2個は連続している事が判明し、ヒトの内在性タンパク質とスパイクタンパク質の間に共通して同一のペプチドが存在する事が明らかになったのである。彼らが発見したオーバーラップするペプチドと、これが多くの種類の自己免疫を同時に引き起こす可能性について、彼らは「現れた臨床的シナリオは動揺させるものだ」とコメントした。確かにその通りである。
コロナウイルス感染やコロナワクチン接種は自己免疫疾患のトリガーとなり得ます。ここでは「病原体の呼び水」と呼ばれています。抗体が認識するのはタンパクのほんの一部で、抗原の抗体結合部位は一般的にはアミノ酸5~8個程度です。ワクチンに使われるタンパクの全体が自己抗原と似ていなくても、ごく一部分が似ているだけで自己抗原に対する抗体が作られる事があるのです。
Lyons-Weilerは、イン・シリコ (in silico) 解析によって新型コロナウイルスの抗原性エピトープ (抗原決定基、抗体結合部位) をヒトのタンパクと比較しました。その結果37個のコロナウイルスタンパクのうち、29個に抗原領域が見つかりました。「イン・シリコ解析」とは、実験によるものではなくコンピュータ解析によるシミュレーションです。このLyons-Weilerの解析で最も相同性が高かったのはスパイク(S) タンパクとNS3タンパクでした。さらにコロナウイルスタンパクと相同性のあるヒトタンパクの1/3以上が、適応免疫系に関連している物でした。
「適応免疫系」とは獲得免疫系の別の呼び方であり、抗体やT細胞による抗原特異的な免疫系の事です。つまりコロナウイルス感染やコロナワクチン接種によって、獲得免疫系を構成する分子を攻撃する抗体が作られる事があるという事です。免疫系自体を攻撃する自己抗体は、免疫系を抑制、あるいは破壊し得るでしょう。免疫を強化するためにワクチンを接種したのに結果的に免疫不全を起こすのであれば、それはもはや本末転倒です。免疫不全状態ではコロナウイルスを含めウイルスや細菌の感染症に対して脆弱になり、また癌の発生や悪性化にも繋がります。
2020年5月にVojdaniとKharrazianによって、この点に関する別の重要な論文が発表された。著者らは2003年のSARSスパイクタンパク質に対するマウスとウサギのモノクローナル抗体を用いて、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質だけでなく、いくつかの内因性ヒトタンパク質に対する反応性を調べた。その結果SARS-CoV-2のスパイクタンパク質だけでなく、さまざまな内因性タンパク質に対しても高い結合性がある事が分かった。「最も強い反応を示したのは、トランスグルタミナーゼ3 (tTG3)、トランスグルタミナーゼ2 (tTG2)、ENA、ミエリン塩基性タンパク質 (MBP)、ミトコンドリア、核抗原 (NA)、α-ミオシン、甲状腺ペルオキシダーゼ (TPO)、コラーゲン、クラウディン5+6、S100Bであった (Vojdani and Kharrazian, 2020)。」
論文中にある「モノクローナル抗体」について少し説明します。モノクローナル抗体は生物学で汎用されるツールであり、最近では医薬品として応用される事も増えてきました。
B細胞やT細胞が他の種類の細胞と異なる点は、細胞分化の際に遺伝子再編成を受ける事です。このため1つ1つのB細胞は違った抗体遺伝子を持っており、お互いに異なっています。タンパクの抗原決定基はタンパク全体からすると小さいもので、1つのタンパクに結合できる抗体も多岐に渡ります。あるタンパクに結合する抗体Aと抗体Bは同じ物とは限らないわけです。1つのB細胞が産生する抗体は一種類だけですので、異なる抗体を産生するのは別々のB細胞です。あるタンパクで免疫し、それに対する抗体をまとめて抽出したものを「ポリクローナル抗体」と呼びます。ポリクローナル抗体は複数のB細胞によって産生された「いろいろな抗体の混合物」であり、厳密には抗原特異性が互いに異なる抗体分子が含まれています。
これに対して「モノクローナル抗体」は、単一の抗体産生細胞をクローニングして作られた抗体です。B細胞は長期間培養する事が難しいのですが、骨髄腫細胞とを細胞融合させる事で不死化融合細胞 (ハイブリドーマ) を作成する事が可能になります。ハイブリドーマは一種類の抗体を産生する培養可能な細胞株です。目的の抗原特異性をもつハイブリドーマを培養し、分泌物を精製する事で特定の抗原決定基を認識する一種類の抗体、モノクローナル抗体を作製できます。
これらの重要な知見は強調しておく必要がある。SARS- CoV-2スパイクなどに高い結合親和性を持つ抗体は、tTG (セリアック病に関連)、TPO (橋本甲状腺炎)、ミエリン塩基性タンパク質 (多発性硬化症)、およびいくつかの内因性タンパク質にも高い結合親和性を持つ。病原体のプライミングに伴う自己免疫プロセスとは異なり、これらの自己免疫疾患は通常、症状が現れるまでに数年を要する。
ここに挙げられたセリアック病、橋本甲状腺炎、多発性硬化症はコロナワクチン接種から予測される自己免疫疾患です。自己免疫疾患は多様であり、これらは例に過ぎません。
少し前からグルテンフリーが話題になる事があるように、人によってはパンやパスタなどのグルテンを含む食べ物を取ると体調を崩す事があります。この理由の1つがセリアック病です。小腸内の上皮細胞には絨毛・微絨毛と呼ばれる小突起が存在して栄養の吸収を行なっていますが、ここに消化酵素では分解できないグルテンが取り込まれます。セリアック病の患者がグルテンを摂取すると、グルテンに対する免疫反応がきっかけとなって自己の免疫系が小腸の上皮組織を攻撃して炎症を起こす事で絨毛などを損傷し、また上皮細胞そのものの破壊にまで至ってしまいます。つまり、セリアック病はグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる特殊な自己免疫疾患です。こうした病因を持っていない限り、グルテンは誰にでも有害なわけではありません。
多発性硬化症は、中枢性脱髄疾患の一つで、神経のミエリン鞘が破壊され脳、脊髄、視神経などに病変が起こり、多様な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患です。ミエリン鞘が破壊されて生じる硬化が多数の領域で発生する事から「多発性硬化症」と呼ばれます。日本では特定疾患に認定されている指定難病です。
橋本病は慢性甲状腺炎であり、甲状腺における自己免疫疾患です。日本の橋本策が1912年に発見しました。これは自己免疫疾患によく見られる事なのですが、橋本病も女性に多く、女性の患者は男性の10倍から20倍に及びます。甲状腺は体の恒常性を維持するための甲状腺ホルモンを作る器官で、甲状腺機能が低下すると体温低下、免疫力低下、慢性疲労、精神不安といった様々な症状が出ます。
Lyons-Weiler (2020)が予測し、上述したスパイクタンパク質によって生成された自己抗体は、さらに最近発表されたin vitro研究で確認された。Vojdaniら (2021年) は、マウスやウサギのmAbではなく、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対するヒトのモノクローナル抗体 (mAb) を使用して、抗体の交差反応性の問題を再度検討した。今回は、マウスやウサギのmAbではなく、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対するヒトのモノクローナル抗体を使用した。「0.32OD (光学密度)のカットオフ値で、SARS-CoV-2膜タンパク質抗体は、テストした55の抗原のうち18の抗原と反応した。」この18種類の内因性抗原は、肝臓、ミトコンドリア、神経系、消化器系、膵臓などの組織との反応を網羅している。
モノクローナル抗体は基本的に1つのタンパクの1つの抗原決定基を認識するものです。しかしながら、抗体と抗原の結合は1か0かではありません。強く結合するもの、弱く結合するもの様々です。実際に研究ではスパイクタンパクに対する一種類の抗体だけでも18種類の抗原を認識しました。
抗体の抗原認識は質の問題でもあり量の問題でもあります。抗原との結合力が弱くても抗体の量が多ければ十分に結合して問題を生じます。スパイクタンパクに対する抗体は時間とともに減少しますが、それはスパイクタンパク自体が減少するからでしょう (ただしスパイクタンパクの発現が収まらなければその限りではありません)。自己抗原は基本的に体内に存在し続けます。ワクチンによって作られた抗体が自己抗原に反応する場合は、その抗体の生産は簡単に収まりません。そうした抗体は結合力が弱かったとしても、大量生産された場合には自己抗体は自己免疫疾患を起こすには十分なリスク要因となります。
このようにコロナワクチンが誘導する抗体はスパイクタンパクだけを標的とするとは限りません。スパイクタンパクと類似のアミノ酸配列を持つヒトのタンパクは多数ありますので、それぞれのタンパクに対する抗体も誘導される可能性があります。こうした自己抗体は自己免疫疾患の原因となりますが、引き起こされる病態としては例えば、後天性免疫不全、セリアック病、甲状腺炎、神経損傷など多様なものが考えられます。基本的に自己免疫疾患は非常に厄介な疾患で、現時点ではほとんどの自己免疫疾患には根治療法はありません。治療は病気の進行を抑えたり、炎症を抑えたりする対症療法が主になります。
自己抗体の潜在的標的はヒトの遺伝子の数と同じです。自己免疫病として診断される病気には自己抗原が特定されているものも多いですが、それ以外の自己抗原に対する抗体も自己免疫疾患を引き起こします。原因不明の病気や臓器、神経系の損傷には自己抗体が理由となっている隠れ自己免疫病が多いのではないかと私は考えています。
引き続き次の記事で自己免疫病とコロナワクチンについて説明していきます。
*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。