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コロナワクチンによる血栓性血小板減少症と播種性血管内凝固症候群: NEJMに掲載された論文から

これまではファイザー、モデルナなどのRNAコロナワクチンについてお話しする事が多かったのですが、今回はアストラゼネカなどのDNAワクチンについてお話ししようと思います。

アストラゼネカのDNAコロナワクチンはスパイクタンパクをコードするアデノウイルスベクターによるものです。2021年2月末頃からアストラゼネカのコロナワクチン接種後に血小板減少症を伴う異常血栓事象が報告されるようになりました。

ワクチン接種後の塞栓および血栓事象は「ワクチン誘発性免疫性血小板減少症 (VITT; Vaccine-induced Immune Thrombotic Thrombocytopenia) 」と呼ばれます。 アストラゼネカ (又はジョンソン・エンド・ジョンソン) のコロナワクチンを接種した人に観察される、まれな種類の血液凝固症候群です。VITTは「播種性血管内凝固症候群 (DIC; disseminated intravascular coagulation) 」を伴う事があります。

DICは、本来出血箇所のみで生じるべき血液凝固反応が全身の血管内で無秩序に起こる症候群です。凝固活性化により微小血栓が多発し、進行すると様々な臓器に障害をきたします。さらに、凝固因子や血小板が使い果たされるため出血症状がみられます。凝固活性化とともに線溶活性化 (血栓を溶かそうとする生体の反応) も起こります。治療が遅れれば最悪死に至ることもあります。感染症によって起こる敗血症はエンドトキシンやサイトカインの作用によって免疫系を暴走させ、DICを起こす事が知られています。また、コロナウイルス感染重症化によってもDICが起こる事があります。

Thrombotic Thrombocytopenia after ChAdOx1 nCov-19 Vaccination
Greinacher et al. (2021) NEJM
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33835769/
ChAdOx1 nCov-19ワクチン接種後の血栓性血小板減少症について

背景
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型 (SARS-CoV-2) のスパイク蛋白抗原をコードする組換えアデノウイルスベクター (ChAdOx1 nCov-19、アストラゼネカ) のワクチン接種後に、異常血栓事象および血小板減少症を発症した例が複数報告されている。この異常な血液凝固障害の病態についてより多くのデータが必要であった。

方法
ドイツおよびオーストリアにおいてChAdOx1 nCov-19ワクチン接種後に血栓症または血小板減少症を発症した患者11名の臨床的および検査的特徴を評価した。血小板第4因子 (PF4)-ヘパリン抗体の検出には標準的な酵素結合免疫吸着法を、血小板活性化抗体の検出には改良型 (PF4強調) 血小板活性化試験をさまざまな反応条件下で使用した。この検査にはワクチン関連血栓事象の調査のために血液サンプルが紹介された患者のサンプルが含まれており、28名がスクリーニングPF4-ヘパリン免疫測定法で陽性となった。

結果
11人の患者のうち9人は女性で、年齢の中央値は36歳 (22歳から49歳) であった。ワクチン接種後5日から16日目に1つ以上の血栓事象を呈したが、致命的な頭蓋内出血を呈した1名を除いてはワクチン接種後2日目以降も血栓事象は認められなかった。血栓症の内訳は、脳静脈血栓症9例、脾静脈血栓症3例、肺塞栓症3例、その他の血栓症4例で、うち6例は死亡した。播種性血管内凝固症候群は5例であった。発症前にヘパリンを投与された患者はいなかった。PF4-ヘパリンに対する抗体が陽性であった28名の患者全員は、ヘパリンとは無関係にPF4存在下で血小板活性化アッセイで陽性となった。血小板活性化は、高濃度のヘパリン、Fc受容体遮断モノクローナル抗体、免疫グロブリン (10 mg/mL) により抑制された。2名の患者においてPF4またはPF4-ヘパリンアフィニティー精製抗体を用いた追加試験により、PF4依存性の血小板活性化が確認された。

結論
ChAdOx1 nCov-19のワクチン接種により、PF4に対する血小板活性化抗体を介した免疫性血小板減少症がまれに発症し、臨床的には自己免疫性ヘパリン起因の血小板減少症に類似していることがある。

VITTの初発症例は49歳の医療従事者です。アストラゼネカコロナワクチンを接種後、5日目から、悪寒、発熱、吐き気、心窩部不快感を訴え、10日目に地元の病院に入院しました。血小板数は18000-37000/立方ミリメートルに低下 (基準値: 150000 - 350000) 。D-ダイマーは35-142 mg/リットルに上昇 (基準値: 0.5未満) 。門脈血栓症が脾静脈と上部腸間膜静脈に進行し、さらに副腎皮質下大動脈と両腸骨動脈に小さな血栓が確認されました。11日目に亡くなり、剖検で脳静脈血栓症が発見されました。

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2021年3月15日までに、臨床データが入手可能な追加10名の患者がアストラゼネカコロナワクチン接種後5~16日目から1つまたは複数の血栓性合併症を発症したことが判明しました。初回解析の11名全員に中等度から重度の血小板減少症と異常な血栓症、特に脳静脈血栓症や脾静脈血栓症が見られました (表2)。

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血栓症は脳静脈血栓症 (9例)、脾静脈血栓症 (3例)、肺塞栓症 (3例)、その他の血栓 (4例) で、10例中5例に複数の血栓症が発生しました。番号11の患者の脳出血は致命的なものでした。患者の年齢中央値は36歳 (範囲:22〜49)、11例中9例が女性です。すべての患者が血小板減少症を併発していました (9000〜107,000) (基準値: 150000 - 350000)。また、D-ダイマー値の大幅な上昇 (10.0 mg/L以上) (基準値:0.5未満) と国際標準化比率、部分トロンボプラスチン時間 (血液凝固能検査のひとつ)、フィブリノゲン値の一つ以上の異常から、5名の患者にDICの証拠が見つかりました。

D-ダイマーはフィブリンがプラスミンによって分解される際の生成物です。血液検査において血栓症の判定に用いられます。D-ダイマー値はDICを示す臨床検査時に用いられ、心房細動に伴う心房内血栓や大動脈解離、深部静脈血栓症の検査などでも有用とされています。

PF4依存性血小板活性化アッセイでわかったのは、上記の患者は血小板活性化を増強する自己抗体を持っていたという事です。PF4は「血小板第4因子」です。

アストラゼネカコロナワクチン接種後に発生する血小板減少症や異常部位での血栓性合併症という臨床像は、ヘパリン起因性血小板減少症 (HIT) に類似しています。ヘパリンは抗凝固薬の一つであり、血栓塞栓症や播種性血管内凝固症候群 (DIC) の治療、人工透析、体外循環での凝固防止などに使われます。HITは自己免疫疾患であり、PF4とヘパリンの多分子複合体を認識する自己抗体 (血小板活性化抗体)によって血栓の形成が促進されます。しかし、通常のヘパリン起因性血小板減少とは異なり、これらのワクチン接種患者は、ヘパリンを投与されていないのです。

筆者らはヘパリン起因性血小板減少症との混同を避けるため、この新しい病名をワクチン起因性免疫性血小板減少症 (VITT) と名付けることを提案しました。

HITの患者の血清中に存在する自己抗体は、PF4の特定の部位にヘパリンが結合した時点で表面に現れる、新しいエピトープを認識する抗体です。カナダMcMaster大学のAngela Huynh氏らは、VITT患者の血清を用いた実験を行い、VITT抗体のPF4に対する結合部位を同定しました。

Antibody epitopes in vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopaenia
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03744-4

わかったのはVITT抗体がPF4の類似部位に結合することでヘパリンの効果を模倣できるということです。これによりPF4四量体がクラスター化して免疫複合体を形成し、Fcγ受容体IIa依存性の血小板活性化が引き起こされ、血栓症の原因となる可能性があります。

要約すると、「ワクチン誘発性免疫性血小板減少症 (VITT) 」の作用機序はアストラゼネカのコロナワクチンとの交差反応により血小板に対する自己抗体ができ、自己免疫反応による血小板凝集が血栓の原因になる一方、血小板が使い果たされるために血小板減少が起きるということです。

VITTの原因は血小板に対する自己抗体による自己免疫疾患と考えられます。しかもヘパリン依存性のHITとは異なり、ヘパリン不要で血小板を活性化し血栓を作る、より悪性度の高い自己抗体と言えます。自己免疫病は発症までに時間がかかる場合も多いです。ワクチンによる副作用として血小板を認識する自己抗体が形成され、それがマイナーなメモリーB細胞となり、何かの抗原刺激が切っ掛けとなって拡大される可能性もあります。その抗原刺激はワクチン接種から時間が経過してからのコロナウイルス感染かもしれません。

VITTの患者では複数箇所の血栓が見られますが、その中にDICを伴う場合もあります。実際、NHEJの論文では11名のVITT患者のうち5名にDICが見られました。DICもアストラゼネカのDNAコロナワクチン接種の副反応として報告されていますが、コロナ感染重症化によっても起こります。この2つに共通する毒性はスパイクタンパクです。スパイクタンパクは血管毒性を持ち、血栓の原因となります。アストラゼネカのコロナワクチンは血栓を起こす懸念があるとされたため、ファイザーなどのコロナワクチンが主流になった経緯があります。しかし実際にはファイザーのコロナワクチンも血栓を起こします。RNAコロナワクチン接種を受けた人がDICを発症する事がありますが、そのほとんどがワクチンとの因果関係は不明と処理されています。

健康な若い人はそもそも滅多にコロナウイルス感染では重症化しません。ワクチン接種者はコロナウイルスに感染するとADEにより重症化する可能性があります。さらに、抗原原罪の作用機序によりコロナウイルス変異株に対しては新たな特異的な抗体を産生できず、これも重症化につながり得ます。もう一つ、自己抗体を生むメモリーB細胞の活性化により、自己免疫疾患の発症や暴走につながり、それも重症化の原因となり得ます。

ワクチン接種者がコロナウイルス感染で重症化しDICで亡くなった場合、コロナワクチン接種によるADEもしくは抗原原罪が重症化につながったか、あるいはコロナワクチン接種による自己免疫疾患が後にDICを発症させた可能性を考える必要があるでしょう。



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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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