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スパイクタンパクは血流を循環するか

スパイクタンパクは血管を障害し、血栓の原因ともなります。では、スパイクタンパクはコロナワクチンを接種された筋肉部位だけに留まっているのでしょうか。血漿中のスパイクタンパクを調べた研究を紹介します。

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS- CoV-2)ワクチンを接種した患者の血漿中に検出された循環抗原について
Circulating Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS- CoV-2) Vaccine Antigen Detected in the Plasma of mRNA-1273 Vaccine Recipients
Alana F. Ogata et al. Clinical Infectious Diseases 2021
https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciab465/6279075
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のタンパク質を,mRNA-1273ワクチンを2回接種した13名の参加者から採取した経時的な血漿サンプルで測定した。参加者13名のうち11名は,初回ワクチン接種後1日目にして,検出可能なレベルのSARS-CoV-2タンパク質を示した。検出可能なSARS-CoV-2タンパク質のクリアランスは、免疫グロブリンG(IgG)および免疫グロブリンA(IgA)の産生と相関していた。

オガタらはRNAコロナワクチンを接種後の被験者の血漿中にスパイクタンパクが存在する事を報告しています。血漿は遠心分離によって血液から血球を除いた液体成分です。コロナワクチン接種者の血漿中からスパイクタンパクが検出されました。

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図1. mRNA-1273ワクチン接種後のSARS-CoV-2抗原および抗体レベルのタイムコース。

S1抗原は接種後1日目という早い時期に検出され,1回目の注射から平均5日後にピークレベルが検出された(図1A)。S1の平均ピーク値は68 pg/mL ± 21 pg/mLであった。すべての被験者のS1は減少し、14日目には検出されなくなった。予想通り、13人中12人の参加者は0日目に抗原が検出されなかった。しかし,1名は0日目にS1が検出されたが,これは他のヒトコロナウイルスとの交差反応によるものか,ワクチン接種時に無症状で感染していたためと考えられる。最初の注射から平均15日後に、13人中3人でスパイクタンパクが検出された。スパイクのピークレベルの平均は 62 pg/mL ± 13 pg/mL であった.2回目のワクチン接種後、S1およびスパイクは検出されず、両抗原は56日目まで検出されなかった。1名(参加者8)については、2回目の接種から1日後の29日目にスパイクが検出され、2日後には検出されなくなった。

今回の研究対象となったのはBrigham and Women's Hospitalに勤務する医療従事者13名です。抗原及び抗体は、高感度なSimoa (single-molecule array、単一分子アレイ) アッセイを用いて測定しています。AEB (average enzymes per bead、ビーズ当たりの平均酵素) はこの測定法での検出の単位です。

コロナウイルスに感染した場合はスパイクタンパク以外の抗原も検出されるはずです。ここではヌクレオカプシドが検出されずにスパイクタンパクが検出されているので、スパイクタンパクはワクチン由来と確認できます。ワクチン接種後すぐにmRNAの翻訳が開始されたと考えられ、S1は1~5日の間に増加しています。

S1とS2はスパイクタンパクのサブユニット (タンパクの一部で、機能、構造的な単位) です。 S1はACE-2との結合に、S2は膜の融合に必要です。 S1とS2の間にフリン切断部位があります。

Simoaアッセイのスパイクタンパクの検出にはS1とS2の両方のサブユニットが必要なので、S1のみとスパイクタンパク (S1+S2) を区別できるようになっています。血中を循環するS1はフリン切断部位で切断されたものかもしれません。スパイクタンパクは、S1が生成されてから平均8日後に、13人の被験者のうち3人に現れました。

つまり、スパイクタンパクはワクチンを接種された筋肉細胞に留まるとは限らず血流中を循環するという報告です。スパイクタンパクはコロナウイルスと類似の毒性を持ち、血管を障害します。血管は脳、心臓を含め、全身を走っています。

ではここで循環しているスパイクタンパクは何でしょうか。

可能性1) S1などのスパイクタンパクの一部
可能性2) スパイクタンパクの膜貫通ドメインを失ったもの (S1+S2)
可能性3) エクソソームの形態 (完全長スパイクタンパク) 

細胞膜は細胞の内外を隔てる膜です。細胞膜の構成成分は脂ですが、もう少し正確に言うと脂質二重層です。タンパクの膜貫通ドメインは疎水性 (水に溶けにくい) アミノ酸でできており、膜タンパクは細胞膜を貫通する形で細胞上に「生えて」います。スパイクタンパクもそういったタンパクの1つです。

S1だけでなくほぼ全長のスパイクタンパクも循環しているようです。スパイクタンパクが血流を循環すると言う事は、膜に生えた状態か、膜貫通ドメインを失って膜から切り離された状態のどちらかであろうと考えられます。ウイルスや細胞上のスパイクタンパクは膜に生えた状態ですが、細胞の膜の一部が切り離された小胞 (エクソソーム) になってもやはり膜に生えた状態と言えます。

ワクチン副反応の血栓症の原因を作っているのは血流中のスパイクタンパクの可能性が高いでしょう。それぞれの形態の毒性の違いは不明です。また、個人差があるという事は、スパイクタンパクが更に長期間にわたって血流を循環する可能性もあるという事です。

この研究では血漿中のスパイクタンパクを観察しているので、血球成分は除かれています。またSimoaアッセイで検出されないものは対象外です。この研究で検出している血流中のスパイクタンパクは全体像のほんの一部分かもしれません。



下はフリン切断部位の機能についての論文から抜粋した新型コロナウイルスタンパクの模式図です。この論文もまた機会を見て紹介しようと思います。

The role of furin cleavage site in SARS-CoV-2 spike protein-mediated membrane fusion in the presence or absence of trypsin
Xia et al. Signal Transduction and Targeted Therapy 2020
https://www.nature.com/articles/s41392-020-0184-0

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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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