肝炎は、肝臓に炎症が起こり発熱、黄疸、全身倦怠感などの症状を来たす疾患の総称です。コロナワクチン接種後の肝炎の症例を紹介します。ワクチン接種後に発症する自己免疫疾患の作用機序には複数あり、今回紹介するのはその1つのケースですが、コロナワクチン接種後に肝炎を発症したケースレポートがいくつか発表されています。
著者のTunらはモデルナワクチン初回接種後に肝炎を発症したケースを報告し、もはや偶然ではないと結論づけています。
肝炎の症例は、他に医学的問題のない健康な男性に発生しました。mRNAワクチンによる黄疸の発症は、異常にはやかったのです。
図は組織学的所見です。肝生検のH&E染色断面から急性肝炎がわかります。 (A) 肝実質細胞はロゼット状に配列し (矢印)、胆汁うっ滞が見られます。(B) BN (ブリッジングネクローシス) は隣接する門脈と中心静脈を橋渡しする肝壊死領域です。肝細胞の消失による肝壊死が見られます。一部の細胞死はアポトーシス (プログラム細胞死) によるものです (矢印)。
自己免疫性肝炎は、自己免疫疾患による肝臓の障害です。血清トランスアミナーゼ、アスパラギン酸アミノ基転移酵素 (ASTまたはGOT)、アラニンアミノ基転移酵素 (ALTまたはGPT) が高値を示す、IgG抗体が高値を示すなどで診断されます。自己免疫性肝炎によく見られる自己抗体は、抗核抗体、 抗平滑筋抗体、肝腎ミクロソーム抗体1型、 肝可溶性抗原抗体、肝サイトゾル抗体1型等です。
図Cはモデルナワクチン1、2回目投与後のビリルビンとALTの推移とプレドニゾロンに対する反応性です。ALTはアラニンアミノ基転移酵素であり、肝炎の指標です。ビリルビンは黄疸により黄色く変色を起こす原因となる物質です。
論文中ではワクチン接種がスパイクタンパクと交差反応する自己抗体による自己免疫疾患が肝炎を引き起こした可能性が指摘されています。この症例以外にも、SARS-2-COV mRNA ワクチンで免疫介在性肝炎が疑われた7例が報告されています (ファイザー社製3例、モデナ社製4例)。肝臓組織学で同様の所見が見られ、インターフェース肝炎、リンパ質浸潤、線維化のない急性肝炎でした。薬剤性肝障害にみられる好酸球が3例にありました。7例ともステロイドによく反応しました。3例では、抗二本鎖DNA抗体などの自己免疫性肝炎の併発を示唆する特徴が見られました。
本症例は、モデルナワクチンに起因する二次的な免疫介在性肝炎が確認されました。患者はワクチン初回接種後に黄疸を生じたものの一度軽快しました。しかし、ワクチンを再接種した事により急性重症肝炎を引き起こしたものと考えられます。
次の記事では別の作用機序によって発症したと考えられる肝炎をもう1つ紹介します。
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