荒川央 (あらかわ ひろし)
フーリン切断部位の謎: Frontiers in Virologyに掲載された論文から
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
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フーリン切断部位の謎: Frontiers in Virologyに掲載された論文から

荒川央 (あらかわ ひろし)

以前の記事内でも書きましたが、私がこれまで「コロナウイルス自体」についてあまり話してこなかった理由の1つは、このブログの本来の趣旨が「コロナワクチン」が危険な理由を伝える事だったからです。そして、このウイルスにまつわる事に不自然な点が多すぎるからなのです。しかしながら、この不自然さを置き去りにしたままコロナワクチンの是非について語る事はやはり難しく、今回はこの新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) の謎について、もう少し触れていこうと思います。

さて、コロナウイルスの大きな謎の1つに「フーリン切断部位」があります。フーリン切断部位は新型コロナウイルスの感染力に関わるのですが、これはSARS-CoVを含む近縁のコロナウイルスには本来見られないのです。では新型コロナウイルスが進化の過程でどうやってフーリン切断部位を獲得できたのか? この事はコロナ騒動の当初から一部の科学者の間では議論の的になっていました。

フーリン切断部位の配列が、モデルナ社が特許を取得した遺伝子上の配列と一致する事を報告する論文が先日、2022年2月に発表されました。この配列の特許が出願されたのは、コロナ騒動が始まる数年前の2016年です。そのため新型コロナウイルスが人工ウイルスではないかという議論が現在再燃しています。以下で詳しく説明していきます。

フーリンはプロテアーゼ (タンパク分解酵素) の1つです。フーリンはタンパク質を成熟型/活性型に切断する機能を持っており、ウイルス感染にも関わります。コロナウイルスのスパイクタンパクはエンベロープタンパクとも呼ばれ、エンベロープタンパクはウイルスが宿主細胞に吸着、侵入する際に働きます。様々なウイルス、例えば、HIV、インフルエンザ、デング熱、エボラやマールブルグウイルスなどのエンベロープタンパクは、フーリン (または類似したタンパク分解酵素) で切断されなければ、完全には機能しません。

新型コロナウイルスのスパイクタンパクはS1、S2の2つのサブユニットからできています。このうちS1はACE2受容体との結合を、S2は宿主細胞膜との融合を担っています。新型コロナウイルスは宿主細胞内でスパイクタンパクが合成された後、宿主細胞外へウイルスとして放出されるまでの間に、フーリン (または類似したタンパク分解酵素) により、S1/S2部位の開裂を受けると考えられています。スパイクタンパクが細胞内でS1とS2に切断された後も、S1とS2の会合は維持されます。

これに対してSARSやMERSなどの他のコロナウイルスでは、スパイクタンパクが次の宿主細胞のACE2受容体に結合したのち、ウイルス全体が宿主細胞内に取り込まれ、エンドソーム内に存在するプロテアーゼであるカテプシンLによって境界部位が開裂されるという手順を取ります。つまり新型コロナウイルスは、他のコロナウイルスにはないフーリン切断部位を持っているために感染のステップが簡略化されているわけです。フーリン切断部位は新型コロナウイルスのヒト細胞への感染力を高め、また、動物モデルではフーリン切断部位は症状の重症化に関わります。

MSH3 Homology and Potential Recombination Link to SARS-CoV-2 Furin Cleavage Site
Ambati et al. (2022) Frontiers in Virology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fviro.2022.834808/full
SARS-CoV-2のフーリン切断部位とMSH3の相同性および組換え可能性

SARS-CoV-2とコウモリRaTG13コロナウイルスとの間には多くの点突然変異の違いがあるが、12ヌクレオチドのフーリン切断部位 (FCS) のみが3ヌクレオチドを超えている。BLAST検索の結果、SARS-CoV-2ゲノムのフーリン切断部位を含む19ヌクレオチド部分は、ヒトmutSホモログ (MSH3) の逆相補体であるコドン最適化独自配列に100%相補的に一致することが判明した。SARS-CoV-2に存在する逆相補配列はランダムに発生する可能性があるが、他の可能性も考慮しなければならない。中間宿主での組換えは考えにくい説明である。SARS-CoV-2のような一本鎖RNAウイルスは、感染細胞内で負鎖RNAを鋳型としており、負鎖SARS-CoV-2 RNAとのコピー選択組み換えにより、FCSを含むMSH3負鎖がウイルスゲノムに組み込まれる可能性がある。いずれにせよ、MSH3 mRNAの逆相補体と100%一致するFCSを含む19塩基の長鎖RNA配列の存在は非常に珍しく、さらなる調査が必要である。

新型コロナウイルスの正式名称はSARS-CoV-2です。近縁のコロナウイルスとしてはSARS-CoV、RaTG13が知られています。SARS-CoVは2002年から2003年にかけて中国南部を中心に起きた重症急性呼吸器症候群 (SARS) の原因となったウイルスであり、RaTG13はSARS-CoV-2の起源の1つと考えられているコウモリのコロナウイルスです。SARS-CoV-2とSARS-CoVとのゲノム相同性は77.2%、RaTG13との相同性は96.2%です。

新型コロナウイルスの特徴の1つはS1/S2境界にフーリン切断部位を持つことです。SARS-CoV-2とRaTG13の間には多くの点突然変異の相違がありますが、3ヌクレオチド (nt) を超える挿入・非類似は1つだけです。12ヌクレオチドの挿入の場所はアミノ酸配列 PRRA (681-684) であり、ここにフーリン切断部位があります。フーリンは塩基性アミノ酸標的配列 (正しくはArg-X-(Arg/Lys)-Arg) のすぐ下流にあるタンパク質を切断します。フーリン切断部位は他のベータ系統のコロナウイルスには見られません。

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フーリン切断部位をコードする塩基配列の特徴は、CGGコドンが2つ連続していることです。このアルギニンコドンはコロナウイルスでは珍しく、CGGの同義コドン相対使用率はセンザンコウのCoVでは0、コウモリのCoVでは0.08、SARS-CoVでは0.19、MERS-CoVでは0.25、そしてSARS-CoV-2では0.299です。頻度の低いCGGコドンがフーリン切断部位で連続して出現している事も不自然です。

12ヌクレオチドの挿入をBLAST検索 (遺伝子配列の相同性検索) したところ、2016年2月4日に出願された米国特許番号9587003内の独自配列 (SEQ ID11652, nt 2751-2733) に対応する配列が見つかりました。正確には、この配列と相補する遺伝子配列と一致したという事です。SEQ ID11652を調べると、一致は12ヌクレオチド (CCTCGGCGGGCA) の挿入どころか、その周りも含めた19ヌクレオチドの配列 (CTCCTCGGCGGGCACGTAG) に及んでいることが明らかになりました。この19ヌクレオチドの配列はBLASTデータベースでは非常に稀な配列であり、同一の配列は、真核生物やSARS-CoV-2以外のウイルスゲノムでは見つかりませんでした。

この特許はモデルナ社のもので、「癌関連タンパク質およびペプチドを製造するための修飾されたポリヌクレオチド」についての特許です。

Modified polynucleotides for the production of oncology-related proteins and peptides
Patent US-9587003-B2
Assignee MODERNA THERAPEUTICS INC (US)、MODERNATX INC (US)
Dates Grant 2017/03/07
Dates Priority 2012/04/02
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/patent/US-9587003-B2

SEQ ID11652は特許に登録されている遺伝子配列の1つ (KH664781.1) で、アミノ酸配列はミスマッチDNA修復の遺伝子MSH3 (Mut S homolog 3) と同一です。これは人工遺伝子であり、ヒト用にコドンを最適化されたものだと考えられます。

著者らによる生物統計学的解析では、この配列が3万塩基のウイルスゲノムまたは特許に記載されている遺伝子ライブラリの中にランダムに存在する確率は0.00000000321%です。つまり、この配列が偶然に成立する確率は非常に低く、ほぼありえないと言ってもよいでしょう。

遺伝子の進化上では、新規の12ヌクレオチドの挿入は大きな変化です。遺伝暗号 (コドン) を翻訳するルールにより、RNAは3ヌクレオチドずつアミノ酸に翻訳されます。1ヌクレオチドや2ヌクレオチドの挿入が起こるとアミノ酸翻訳の読み枠がずれてしまうので、短い挿入が繰り返し蓄積されてきたとは考えにくい。では、新型コロナウイルスのスパイクタンパク遺伝子はどうやってフーリン切断部位を獲得したのか? ウイルスゲノムの進化には基本的に3つのパターンが考えられます。

1つ目はウイルスゲノム自身の変異です。複製の際のコピーミスのためにゲノムの配列は少しずつ変わっていきます。例外はありますが、一度に入る突然変異は1つずつです。配列の欠失や挿入が起こることもありますが、挿入のほとんどは近傍の配列の重複によるものです。

2つ目は鋳型乗り換えによるゲノム配列の混合。複製途中のDNAやRNAが鋳型から離れ、類似の別の鋳型に会合してゲノム複製を続行する事があります (鋳型乗り換え)。異なる2つの鋳型の間で乗り換えが起こると、由来の異なる配列の一部をウイルスゲノムの中に取り込む事になります。

3つ目は、複数の分節に分かれたゲノムを持つ類似ウイルスが同一細胞に感染した場合、ゲノムの組み合わせが変わる事があります。例えば、インフルエンザウイルスなどではゲノムが複数のRNA分子に分かれている (A型、B型のゲノムは8分節、C型のゲノムは7分節) ので、複数の近縁のインフルエンザウイルスが同一の細胞に感染した場合、ゲノムの組み合わせが変わった合いの子ウイルスが生まれる可能性があります。しかし、コロナウイルスのゲノムは一本のRNAなので、こうした事はコロナウイルスでは起こりません。

ここで重要なのはスパイクタンパクがウイルスの細胞への感染に必須である事です。もう1つ重要なのは、コロナウイルスはスパイクタンパク遺伝子を1つしか持たないという事です。

ヒトを含めた有性生殖を行う生物は父親由来と母親由来の染色体を持ち、それぞれの遺伝子を2つ持っています。ヒトの場合、例外は性染色体上の遺伝子です。遺伝子を2つ持っている場合、例えば父親由来か母親由来の遺伝子のどちらかが機能していれば問題ない事も多いのです。例えば、片方の遺伝子が機能を維持しているとしましょう。もう1つの遺伝子に変異が繰り返し起こり、長い時間の後に新しい機能を獲得するという可能性です。変異により機能を失い、進化の選択圧を失った時点で、壊れたままの偽遺伝子として変異が蓄積するのみになる場合が多いと考えられるのですが、その途中で遺伝子が新しい機能を獲得する事も理論上はあり得ます。

コロナウイルスのゲノムは1つのRNAのみであり、そこにはスパイクタンパク遺伝子は1つしかありません。バックアップがないわけです。変異を繰り返す途中でもスパイクタンパクの機能は維持されていないといけません。変異の途中で機能を失えば、細胞に感染する事が出来なくなるからです。これが意味する事は、12ヌクレオチドの挿入のために何度も失敗を重ねながら短い挿入の試行錯誤を繰り返す余裕は無いという事です。フーリン切断部位の獲得は、少しずつの変化の蓄積というよりは一気に起こったのではないでしょうか。そう考えると別の遺伝子から配列をコピーしたと考える方が自然です。ではその配列はどこに由来するのでしょうか。

SARS-CoV-2はコウモリ由来のコロナウイルスと考えられています。野生のコウモリが複数のコロナウイルスに感染した場合、コロナウイルスの間で鋳型乗り換えが起こると配列の一部を取り込む可能性はあります。ところが、コピーしようにも既知のウイルスにはコピー元が見つからないのです。

同一細胞への複数のウイルス感染は自然界でも起こりますが、実験室で再現する事もできます。細胞株に複数のコロナウイルスを感染させると、突然変異に加えて鋳型乗り換えによってコロナウイルスのゲノムは変化していきます。ヒト細胞への感染力によってスクリーニングすることにより、ヒトに感染可能な新型のコロナウイルスが誕生するかもしれません。これが「機能獲得実験 (Gain-of-Function (GoF) experiments)」と呼ばれる人工進化です。病原性を持つウイルスの機能獲得実験は倫理的に大きな問題がありますが、ウイルスの実験に適したバイオセーフティレベルの施設があれば技術的には可能です。

今回、SARS-CoV-2のフーリン切断部位に見られる配列が、モデルナ社の特許内のMSH3遺伝子に存在する事が確認されました。これ自体がヒト用にコドンを最適化した人工遺伝子ですので、この配列が起源であれば、野生のコウモリの体内で自然に鋳型乗り換えが起こったとは考えにくいのです。考えられるのは研究室の細胞株の中であり、機能獲得実験による人工進化の産物である可能性があります。あるいは偶然鋳型乗り換えが起こったと考える必要すら無いのかもしれません。実際、人工的な操作により遺伝子を加工する事は技術的には難しい事ではありません。また、デザインされた遺伝子を機能獲得実験と組み合わせて人工進化させる事も技術的には可能です。

フーリン切断部位は新型コロナウイルス進化の謎の1つであり、新型コロナウイルスが人工ウイルスではないかと疑われている理由の1つでもあります。同一配列が真核生物やウイルスゲノムには見当たらない一方で、コロナ騒動が始まる数年前にモデルナ社が取得した特許の遺伝子上に見つかったというのは興味深い事実です。


(*発音の表記について:以前の記事や書籍内ではFurinの日本語訳を「フリン」としていましたが、Wikipediaなどでは「フーリン」となっているため、この記事以降はフーリン表記で統一させていただきます。)




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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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荒川央 (あらかわ ひろし)
1991年 京都大学理学部卒業 1996年 京都大学理学博士 (分子生物学、免疫学) バーゼル免疫学研究所 (バーゼル)、ハインリッヒ・ペッテ研究所 (ハンブルク)、ヘルムホルツ研究所 (ミュンヘン)、マックスプランク研究所 (ミュンヘン) を経て分子腫瘍学研究所 (ミラノ)所属