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RNAワクチンに混入したDNA検出の追試法 (1): 微量DNA精製法について

引き続きコロナワクチンへのDNA混入疑惑についての記事になります。


こちらはKevin McKernan博士本人のブログです。


内容的にはどうしても難しくなってしまうのですが、あえてこれから何回かに分け、DNA混入疑惑の背景となる専門知識について順を追って解説を行っていこうと思います。今後、McKernan博士の研究の追試をする方のためにも重要な情報になるかと考えます。

さて、「追試」とは、発表された研究等に基づいてその実験や分析を第三者が行い、真偽を確認する作業の事です。その際には元となった研究の方法、結果、結論を理解する必要があります。 そして追試をするためには、元の実験に厳格に従うアプローチが必須となります。つまり、実験手法を変えて行ったものは追試とは呼べないのです。RNAコロナワクチンへのDNAの混入はMcKernan博士の重要な発見です。では、追試するためにはどのような点に気を付けなければいけないでしょうか。

DNAを「定量化」するためには、まず試料からDNAを検出及び測定可能な状態にしなければいけませんが、その際には留意すべき事がいくつかあります。精製の過程でDNAが流出してしまえば、混入量を過小評価する事になってしまいます。そして、測定法を阻害するような物質が残れば、その残留物質がDNA混入量を過小評価する原因になります。そのために、まずはワクチン中の脂質ナノ粒子 (LNP) を溶解するか、可能であれば除去する事が必要です。また「比較対照」を置く場合は、測定すべき検体と同一、もしくは同様の条件に設定しなければいけません。例えば定量PCRで比較対照の方が一方的に増幅しやすい場合、やはり混入DNA量を過小評価してしまう事になるのです。

「エタノール沈殿」は分子生物学では核酸を精製する基本操作としては一般的な手法です。他の細胞物質を含む試料からDNAを精製するためによく用いられます。この方法は、塩を加えるとDNAがエタノールに溶けなくなる事を利用して、遠心分離によってDNAを沈殿させ、溶液中に残った他の汚染物質を溶液ごと取り除くというものです。しかし試料中のDNA量が非常に少ない場合、この方法ではDNAは効率良く沈殿しません。DNAが残った溶液中に紛れ込んだり、洗浄工程で汚染物質と一緒に取り除かれてしまったりするのです。多量のDNAを扱う際には0.1%のDNAをロスしたとしても許容され得るかもしれませんが、少量のDNAをエタノール沈殿させると精製の過程で99.9%以上のDNAをロスしてしまう場合もあります。

分子生物学ではエタノール沈殿は初歩的とも言える技術ですが、微量のDNAを精製する目的には向いておらず、ましてや定量化には不適切です。そして、コロナワクチンに混入したDNAを定量化する場合には、LNPを含めたPCR阻害物を除去するなどの工夫が必要になります。


以下、McKernan博士のDNAサンプル調整法の詳細について解説していきます。

DNAのロスを防ぐための手法の1つは「あえて精製しない」というものです。

ディープシークエンシングの技術の応用では1細胞のトランスクリプトーム (mRNA全体) の解析も可能です。また全ゲノム増幅法によって1細胞のゲノムを増幅し、網羅的塩基配列を解析する事も可能です。こうした手法ではDNAやRNAを精製せず、溶解した細胞を直接酵素反応溶液に浸して反応を開始します。

博士は手法の一つとして、LNPを溶解させるために自社 (Medicinal Genomics) のリーフ溶解バッファーを使用しています。

ワクチンqPCRを評価するためのシンプルな煮沸調整

この煮沸調製の手法では、ワクチンを1~10 µl採取し、PCR対応のリーフ溶解バッファー (Medicinal Genomics品番420208) に希釈して加熱する。
- 65℃、6分間
- 95℃、2分間

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リーフ溶解バッファーには、カオトロピック剤 (チオシアン酸グアニジンなど)、界面活性剤 (SDSやCTABなど)、還元剤 (DTTなど) が含まれています。これらの成分が細胞壁や膜を破壊し、細胞成分を可溶化し、DNAまたはRNAを溶液中に放出するために働きます。

この方法では溶液を取り除くステップが無いため、DNAのロスを防ぐ事ができます。しかし、言い換えると内容物を除くステップが無いために、PCRを阻害するものが含まれていた場合、PCRの効率が落ちる事になります。

もう1つの手法はビーズによる精製です。これは磁気ビーズなどの固体支持体にDNAを結合させ、汚染物質を洗い流す手法であり、高品質のDNAを回収する事ができます。McKernan博士はこうした手法を採用して混入DNAを解析しました。

LNPからのmRNAの精製

LiDs/SPRI精製
各バイアルから100 μlをサンプリング (1/3~1/5量) した。
- 100 µlのワクチンに5 µlの2%LiDsを加え、LNPsを溶解させた。
- 100%イソプロパノール100 µl
- 233 μlのAmpure (ベックマンゲノミクス社製)
- 25 mM MgCl2 (New England Biolabs) 25 μlを入れる。

サンプルを10倍にチップミキシングし、磁気ビーズ結合のために5分間インキュベートした。磁気ビーズを96ウェルマグネットプレート上で10分間分離し、200 µlの80% EtOHで2回洗浄した。ビーズを3分間風乾させ、100 µlのddH20で溶出した。溶出したサンプル2 µlをAgilent Tape Station™で実行した。

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AMPure試薬は磁性ビーズを用いた精製システムで、PCR精製やその他の酵素反応の精製に使用されます。AMPureシステムの利点の一つは、その高い効率と再現性です。

この精製法の原理は、高濃度の塩の存在下でDNA断片に選択的に結合する常磁性ビーズを使用する事です。精製プロセスでは、PCR産物やその他の酵素反応をAMPureビーズを含む混合物に加え、DNA断片を捕捉するために磁石に引き寄せます。そして、残った汚染物質を洗い流した後、DNA断片は低塩バッファーでビーズから溶出され、下流のアプリケーションに適した高純度のDNAが得られます。

LiDS (Lithium dodecyl sulfate) は、AMPureベースの精製を含むDNA精製プロトコルで一般的に使用される界面活性剤です。LiDSの役割は、細胞膜を破壊してDNAを溶液中に放出し、AMPureビーズとの結合に利用できるようにする事です。LiDSはまた、ビーズへの不要な不純物の結合を低減し、DNA生成物の純度と収量を向上させるのに役立ちます。

しかし、LiDs/SPRIを用いたワクチンの精製方法を用いてもqPCRの性能に若干のばらつきが認められたため、精製中にLNPが残留している可能性が考えられました。この問題に対処し、qPCRとAgilent 電気泳動に応用するため、CTAB/クロロホルム/SPRIによる分離が最適化されました。

ワクチンのCTAB/クロロホルム/SPRI精製

CTAB/クロロホルム/SPRIによる分離が最適化され、さらなるqPCRとAgilent電気泳動に使用された。簡単に説明すると、300 μlのワクチンを500 μlのCTAB (SenSATIVAx MIP精製キットのMGC溶液A、#420004) に加えた。その後、サンプルをボルテックスで攪拌し、37℃で5分間加熱した。800 µlのクロロホルムを加え、ボルテックスで攪拌し、19,000rpmで3分間回転させた。上部の250 µlの水相を集め、250 µlの溶液Bと1 mlの磁気結合バッファーに加えた。サンプルをボルテックスで攪拌し、5分間インキュベートし、磁気的に分離した。上清を除去し、ビーズを70%エタノールで2回洗浄した。サンプルは最後に300 μlのMGC溶出バッファーで溶出した。

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CTAB (セチルトリメチルアンモニウムブロマイド) は、分子生物学や生化学の分野で生体試料などからの核酸の分離、精製に使用される陽イオン界面活性剤です。 CTABは、細胞膜を破壊し、汚染物質の存在下で核酸を可溶化する能力があり、複雑な生物学的試料、特に植物組織から核酸を分離、精製するために重要な試薬となっています。博士の実験ではLNPを除去するために使われています。CTAB抽出法は、クロロホルム抽出や固相可逆固定化 (SPRI) 精製などの他の精製工程と組み合わせて、汚染物質をさらに除去し、PCR、配列決定、クローニングなどのさまざまな分子生物学用途で使用する高品質の核酸を得る事ができます。

繰り返しになりますが、微量のDNAを解析するためには精製の際のロスを防ぐ工夫が必要です。さらにPCR増幅を効率的に行うためには、増幅を阻害する素材を除去する事が必要です。

フェノール抽出、エタノール沈殿は一般的な分子生物学の手法ではありますが、こうした手法によってDNAを抽出すると、その際にほとんどのDNAが失われる事もあれば、PCR反応を阻害する汚染物質を残す可能性もあります。

一般論として、誰かの研究結果を「追試」する場合には、その実験は「同一の手法」で行わなければなりません。異なる手法で異なる結果を得たとしても、それは元の研究を再現した事にはならないのです。ましてや基本的な注意事項を守らずに精製したDNAをqPCR (定量PCR) に用いた場合、それはもはや「定量的」とは呼べません。むしろ混入DNA量を大幅に過小評価した可能性が出てきます。言い換えると、それが無知によるもので無いのであれば、混入DNA量を過小評価するために意図的にそうした実験系を組んだとすら疑われかねないという事です。




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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。





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