なぜワクチンに使われる遺伝子の毒性を無くさなかったのか?
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なぜワクチンに使われる遺伝子の毒性を無くさなかったのか?

荒川央 (あらかわ ひろし)

ワクチンとは基本的に健康な人を対象とするものであり、「治療」のためではなく「予防」のために行うものですので、病気になってしまった人を対象とする治療薬とは要求される安全性のレベルがそもそも異なります。ワクチンの作製方法はいくつもありますが、基本的には毒性を無くす、あるいは極力0に近くする事が原則となります。

では毒性のあるタンパクを例えばワクチンなどとして使わなければならない場合があるとして、その毒性を無くすにはどうしたら良いか。ここでは分子遺伝学などの実験で時々使われるジフテリア毒素を見本に考えてみましょう。毒性の排除方法の参考例の一つとして考えてください。

ジフテリアはジフテリア菌によって起こる上気道の粘膜感染症です。腎臓、脳、眼の結膜、中耳などがおかされる事もあり、主に保菌者の咳などによって飛沫感染します。ジフテリアの毒性はジフテリア毒素によるものですが、興味深いのはジフテリア毒素の遺伝子はジフテリア菌がもともと持っていたものではなく、ジフテリア菌に感染するファージ (細菌に感染するウィルス)が保有するものです。ウィルス感染によりジフテリア菌は凶暴化したわけです。

ジフテリア毒素の毒性はタンパク質合成を阻害する事によるものです。ジフテリア毒素はタンパク質への翻訳に必須な伸長因子EF-2のADPリボシル化を触媒する事で、感染した細胞内での新しいタンパク質の合成を阻害します。ジフテリア毒素は非常に強力で、ヒトでの致死量は体重1 kgあたり約0.1 μgです。心臓と肝臓の壊死が感染者を死に至らしめます。そして、ジフテリア毒素は酵素であり、直接の機能はタンパクの修飾です。では猛毒のタンパクから毒性を排除するにはどうすれば良いのか?それは酵素活性を無くす事です。酵素活性を無くせば毒性も無くなります。

1971年、ハーバード大学のアルウィン・パッペンハイマーの研究室にいた内田剛は、ニトログアニジン (DNA変異源)を用いてジフテリア毒素の変異体を作成し、「CRM (Cross Reacting Materials、交差反応性材料)」と名付けました。そうしてできたCRM197はジフテリア毒素を遺伝的に無害化したものです。52位のグルタミン酸をグリシンに置換した1アミノ酸の変異により、本来の毒素のADPリボシルトランスフェラーゼ活性が失われています。

毒性が無くなっただけでなく、CRM197は有用な事も分かりました。ワクチンに用いる「台座」の素材として優れていたのです。免疫を刺激する作用が小さい抗原をCRM197に融合させると、有効なワクチンになるのです。その後、CRM197は多くの承認済みコンジュゲートワクチンのキャリアータンパク質として使用されるようになりました。他にも抗癌剤として使用する試みや、ドラッグデリバリー用の融合タンパク質としても評価されています。

CRM197ではグルタミン酸52 (タンパクの52番目のアミノ酸がグルタミン酸という事です) がグリシンに置換しています。これはあくまで1つの例であり、毒性を無くす変異はこれだけには限りません。ジフテリア毒素の酵素活性に必要なアミノ酸で知られているのは、他にもヒスチジン21、チロシン50、チロシン65、グルタミン酸148です。こういったアミノ酸を別のアミノ酸に置換する事で毒性を排除できるのです。

例えばジフテリア毒素では「たった1アミノ酸」を置き換えるだけで猛毒から毒性が無くなるという事です。それどころかCRM197の例では有用なタンパクに変わりました。このようにわずかなアミノ酸の置換だけでも活性が無くなる事は酵素などではよく知られていますし、こういった「触媒作用のない変異体 (catalytic dead mutant)」は細胞生物学や分子遺伝学の実験でもしばしば使われています。また、遺伝病は遺伝子の変化で起こる病気ですが、実際わずかなアミノ酸置換が原因で遺伝病になるケースもよくあるのです。酵素以外でも構造タンパクや細胞の受容体やリガンド、コロナウィルスのスパイクタンパクでも同様です。それぞれの機能に鍵を握る必須のアミノ酸があり、それを別のアミノ酸に置換する事で機能は壊れます。

コロナに話を戻します。コロナウィルス 、コロナワクチンに共通する毒性はスパイクタンパクによるものですが、その毒性にはいくつかの要因があります。細胞表面に突出したスパイクタンパクの棘も血栓の原因になります。フリン切断部位もスパイクタンパクの血流への循環や毒性に関与しているようです。プリオン様モチーフもプリオン病を引き起こす可能性が示唆されています。そして何よりも主な毒性は、ACE2に結合する事によって血管内皮細胞を含むACE2発現細胞を障害する事です。

スパイクタンパクのACE2結合部位に変異を入れるだけでも、血管内皮細胞障害に関した毒性を排除する事ができます。RBD (受容体結合ドメイン)だけをワクチンに使うか、NTD (N末端ドメイン)も加えるかといった問題ではありません。タンパク全体を使いながら不活性化型にする事は生物学の実験ではよく行われます。しかしながら、ただ変異を入れれば良いという問題でもありません。変異が予想しない結果につながる恐れもあるからです。例えば即効性の毒であるジフテリア毒素とは違い、コロナのスパイクタンパクの毒性は短期のものだけではなく中長期のものもあり多様です。ワクチンとしての機能、毒性の評価、ADEを起こすかどうか、等。やはり長い時間をかけて検証しないといけません。ワクチンが短期間で完成するとすれば、それは安全確認を怠った場合でしょう。

遺伝子ワクチンはもともと遺伝子操作で作られていますので、スパイクタンパク遺伝子を改変する事自体は簡単ですし、実際それが売りだったはずです。抗原として大事なのは「形」であり「機能」は必要ありません。そもそも抗体が認識するのはタンパクのほんの一部です。抗原の抗体結合部位は一般的にはアミノ酸5~8個くらいです。タンパク全体のうちの1アミノ酸や数アミノ酸を置換したところで、抗原性 (部分的な形)が大きく変わるわけではありません。抗原として働くべきワクチンに毒性は必要悪ですらないという事です。抗原性を残したまま毒性を排除する事はできますし、そうしなければいけませんでした。遺伝子上からどうやって毒性を除くか。それは外野が指摘するような事ではなく、ワクチン開発者自身の最も重要な仕事の一つでしょう。毒性が複雑すぎてどうしても毒性を全部、あるいは十分に取り除けないとしたらどうするべきなのでしょうか。それは「そのタンパクがワクチンに向いていないのでワクチンに採用してはいけない」というだけの事です。毒性のある遺伝子を毒性を意図的に無くさないまま使っているのだとすれば、私はそのデザインに何らかの悪意を疑います。

なぜ世界中の健康な人間に打たせる為に作ったワクチンの毒性を無くす努力をしなかったのか。そのデザインは偶然なのか、失敗なのか、無知なのか、故意なのか。やはり疑問が残ります。


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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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荒川央 (あらかわ ひろし)
1991年 京都大学理学部卒業 1996年 京都大学理学博士 (分子生物学、免疫学) バーゼル免疫学研究所 (バーゼル)、ハインリッヒ・ペッテ研究所 (ハンブルク)、ヘルムホルツ研究所 (ミュンヘン)、マックスプランク研究所 (ミュンヘン) を経て分子腫瘍学研究所 (ミラノ)所属