コロナワクチン接種後の皮膚血管炎について: Lancet Rheumatologyに掲載された論文から
コロナワクチンは様々な作用機序で血管を傷害します。スパイクタンパクが直接血管内皮を傷付けて血栓の原因となる事もあれば、スパイクタンパクが自己抗体の産生を誘発し、自己免疫疾患として血管を傷害する事もあります。アストラゼネカDNAワクチン接種後に、血小板に対する自己抗体を生じ、「ワクチン誘発性免疫性血小板減少症 (VITT: Vaccine-induced Immune Thrombotic Thrombocytopenia) 」に繋がった例を以前紹介しました。VITTは「播種性血管内凝固症候群 (DIC: disseminated intravascular coagulation) 」を伴う事があります。
これとは別の作用機序により、コロナワクチンの副反応による免疫系の暴走が血管の炎症を起こし、発疹などの皮膚症状に繋がるケースも報告されています。
皮膚血管炎は皮膚の血管に炎症が起こる疾患群です。そうした皮膚の血管には毛細血管、静脈、細動脈、リンパ管などが含まれます。皮膚血管炎は、過敏性血管炎、皮膚白血球破砕性血管炎とも呼ばれます。特徴は紫斑であり、周囲の皮膚から盛り上がっているように感じられる赤紫色に変色した斑点です。通常、治療により病変は数週間から数ヵ月で消失し、周囲の皮膚より色の濃い平坦な斑点が残ります。あるいは血管炎が結合組織病などの慢性疾患と関連し、持続性または再発性である場合もあります。
皮膚血管炎について、もう一つアストラゼネカDNAワクチン接種後の症例を紹介します。
Cutaneous vasculitis following COVID-19 vaccination
Cavalli et al. The Lancet Rheumatology (2021)
https://www.thelancet.com/journals/lanrhe/article/PIIS2665-9913(21)00309-X/fulltext
COVID-19ワクチン接種後の皮膚血管炎について
SARS-CoV-2に対するワクチンは、COVID-19の大流行を食い止めるための極めて重要かつ効果的な対策である。SARS-CoV-2のスパイクタンパクをコードしたメッセンジャーRNAベースのワクチン2種 (BNT162b2、ファイザー・バイオンテック、mRNA-1273、モデルナ) とスパイクタンパク質をコード化したアデノウイルスベクターのワクチン2種 (ChAdOx1 nCoV-19、AstraZeneca、Ad.26. COV2.S ヤンセン) が欧州医薬品庁で承認されている。2021年9月23日現在、イタリアでは8300万回以上のワクチン接種が行われ、接種者の約5分の1はChAdOx1 nCoV-19ワクチンを接種している。ここでは、ChAdOx1 nCoV-19の接種直後に、それまで健康だった人に発症した皮膚血管炎3症例を報告する。
患者1は57歳の男性で、高血圧の既往があるが、本人や家族に自己免疫の既往はない。初回のワクチン接種から14日後に紫斑病が発症し、最初は下肢に、急速に腹部、胴体、頭部に広がった (図) 。1 mg/kgのプレドニゾンの投与を受け、3週間かけて皮膚病変は徐々に消失した。患者2は58歳の男性で、これまでの病歴も自己免疫の既往はなく、異常はなかった。2回目のワクチン接種後7日目に紫斑病が発症し、下肢から腹部、体幹に広がった。0~5mg/kg のプレドニゾンを投与したが臨床的効果はなく、その後 1 mg/kg のプレドニゾンを投与し、10日間で皮膚病変が徐々に消失した。患者3は53歳の女性で、基礎疾患や自己免疫の既往はない。初回投与から6日後に紫斑病が発症し、下肢と上肢に影響を及ぼした。1 mg/kgのプレドニゾンで治療したところ、2週間で皮膚病変が徐々に消失した。
ワクチン接種後の血管炎発症が偶然であった可能性も否定できないが、これら3人の患者には顕著な類似点があり、病因の因果関係が主張される。具体的には、血管炎は自己免疫の個人や家族の病歴を持たない健康な人に発症し、臨床症状は類似しており、内臓病変を伴わない広範囲の皮膚血管炎が特徴的であった事、ワクチン接種と臨床症状の発現には時間的な関連があり、他の同時発症の誘因はなかった事である。すべての患者がワクチン接種前にSARS-CoV-2感染の血清学的検査を受け、陰性であった事から、一次感染の既往はなかった。したがって、血管炎はワクチンの成分に対する個人の不適応な免疫反応が引き金になった可能性がある。
ChAdOx1 nCoV-19ワクチンには、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードするアデノウイルスベクター、安定化剤、免疫アジュバントが含まれている。特に非特異的アジュバント効果により、ウイルスのスパイクタンパクに発現するペプチドと宿主内皮細胞の間で分子模倣が起こる可能性がある。COVID-19の接種時に血管炎が発症するのは、内皮の直接損傷が原因であり、ChAdOx1 nCoV-19の接種後に凝固障害が発症するのは、血小板第4因子 (PF4) に対する血小板活性化抗体が原因である。したがって、ワクチンの接種による適応外の免疫活性化が内皮層や凝固カスケードに影響を与え、素因者における血管炎を誘発すると推察された。
SARS-CoV-2感染では、過剰または異常な宿主免疫反応により、世界中で400万人以上の死者が出ている。
炎症促進刺激は、不適応な免疫反応の発現に対する個人の素因を露出させる可能性があるため、何百万人もの人々の免疫介在性有害事象がまばらに発生する事は避けられない。
皮膚血管炎の原因は免疫系の暴走であり、感染症や自己免疫疾患によっても引き起こされます。同様の事がコロナワクチン接種後にも起こるという事です。コロナワクチン接種後の皮膚血管炎の原因としては、非特異的アジュバント効果による炎症反応、スパイクタンパクによる血管内皮の損傷、血小板などに対する自己抗体など、様々な原因が考えられます。
影響を受ける皮膚の小血管は、表皮の細動脈、毛細血管および静脈です。一般に、免疫複合体が血管壁に沈着し、補体系の活性化をもたらし、C3aおよびC5aの補体系から生成されるタンパク質は、好中球を血管に引き寄せます。補体系により活性化された好中球は血管組織に損傷を与える酵素を含む形成前の物質を放出します。好中球が血管を取り囲み、血管壁内にその破片が見られ、フィブリノイド壊死の原因となります。この組織学的所見は、「白血球破砕性血管炎」と呼ばれています。
感染症に対する防衛システムが免疫系であり、また、感染症以外にも免疫系は様々な病気と関連します。免疫系は癌の抑制にも働きますし、免疫系の制御の異常により自己を攻撃する病気もあります (自己免疫疾患)。人間の病気の半分以上は免疫系と何らかの関係があるのではないでしょうか。
臓器移植の際に適合するHLA (MHC) の型の人を見つけるのが難しいのは、MHCの多様性の大きさのためです。MHCはT細胞に抗原を提示する働きを持つ、代表的な免疫系の分子です。このように個人差が大きいのも免疫系の特徴です。同じ処置をしても一人一人で免疫系の対処は異なるというのもよくある事です。
獲得免疫の主役のB細胞、T細胞は体内に百万種類以上存在し、細胞ごとに異なる抗体やT細胞受容体を持っています。細胞ごとに異なる特徴を持つB細胞、T細胞が異なった病気の対処に当たっており、それが免疫系の繊細さでもあります。免疫系を自由に制御できれば、感染症や癌、自己免疫疾患などの病気の根本治療にも活用できるでしょう。言い換えれば、免疫系を制御する事は非常に難しく、免疫系を自由にコントロールする事は免疫学者の夢でもあるのです。そして、コロナワクチンは免疫系に強く干渉するものであり、ワクチンの副作用で一度破綻した免疫系を制御する事は簡単ではないでしょう。
*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
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