🛎️「考えるドラばな」❷〜影切りばさみ
注)影切りバサミとは?
はさみ型の道具で、これを使用すると人間の影を切り取ることが出来る。切り取られた影は独りでに動き出し、30分間だけ本人の代わりに働いてくれるが、声を発することは出来ない。
ただし30分以上経過してしまうと、影が徐々に知恵をつけていき、言葉を話すようになる。そこから更に時間が経過すると影の姿が本人に近付いていき、本人に反抗するようになる。
それだけでなく本人の方が徐々に影へと変化していき、2時間経過すると影と本人が入れ替わってしまう。
〜インターネットより転載
さて、、、それでは、影と本人が入れ替わってしまったとすると、どうなるのか?そんなことを想像して書いてみました。創作です。
※※※※※※※※
俺は公園のベンチに座りタバコを吸っていた。
「遠き山に陽が落ちて」のメロディがどこからか聞こえてくる。それに合わせて、ブランコや、ジャングルジムや、滑り台で遊んでいた子供達が帰り支度を始める。
じゃあねー
さよならー
またあしたー
無邪気な子供たちの甲高い声が俺の胸を締め付ける。柔らかな夕陽が差す公園に俺はただひとり取り残された。
俺は30年前に人を殺した。当時俺はまだ小学生だった。しかしそのことを公にするわけにはいかなかった。いや、そのことを例えば両親に話したとして、信じてくれるわけもなかった。
無理もない。30年前、俺が殺したのは、他でもない、俺なのだ。
【影切りバサミ】
奴は得体の知れない大きなハサミで、俺を奴と切り離した。
ジョキジョキ
ジョキジョキ、、、
俺を切り離す影切りバサミの不吉な音は今でも記憶に鮮明に残っている。
俺を切り離した奴は、俺を馬車馬のようにこき使った。もともと奴は怠け者なのだ。
宿題、家の手伝いそして、学校にまで俺は行かされた。
俺が本来、奴がしなければならないことを黙々とこなしている横で、奴はお菓子を食べ漫画を読んでいた。
俺の奴に対する憎悪は日に日に増していった。自分の影をこき使うとは、人間の風上にも置けん。
そして俺は奴に復讐するため一瞬の隙をついて家を飛び出した。奴は必死の形相で追いかけてきた。そう、奴は知っていたのだ。【長期間影を切り離して置くと、影と本人が入れ替わってしまうということを】
奴は必死で俺を追いかけてきたが、俺の逃げるスピードに追いつくことはできなかった。そりゃそうさ。俺は影なんだからな。
俺は走りに走りに走り抜いた。
そして、小学校の裏山の森に忍び込んで姿を隠した。俺は影だ。腹も減らなきゃ喉も乾かない。
それから、二日たち三日たった。
四日目の朝、突如として空腹が俺を襲った。自分の肌を見ると、影の黒さは微塵もなくなり、完全に人間の肌の色に変わっていた。
ついに俺は奴の身体を乗っとったのだ。
俺は何事もなかったかのように家に帰って自分の部屋に戻った。可哀想に。俺の実体は、変わり果てた姿になって布団の上に寝そべっていた。
ザマアミロ。
俺は影に成り果てた俺の実体を丸め輪ゴムで止め、そのまま押し入れに突っ込んだ。
その日から今日まで、俺は人間の実体として生活していた。しかし、思ったより人間の生活は楽ではなかった。俺をこき使った奴への復讐だと思い奴から逃げ出したあの日のことを今では痛烈に後悔している。
実体は実体で、影は所詮、影だ。
影には影らしい生活というものがあるのだ。
そして、俺にはまた別の問題があった。
俺には影がないのだ。当たり前だ。
俺が影なのだから。影を永遠に失った実体。いや、逆だな。
【実体を永遠に失った影】
俺は実体を失った影なのだ。
しかし、問題なのはそこではない。
俺の姿は、30年前から何も変わっていない。小学生の姿形のままなのだ。先ほども、子供達の親らしい一団が、俺のことを怪訝そうな顔で眺めていった。
無理もない。小学生としか思えない男が、タバコを吸っているのだから。俺は毎晩のように魘される。俺には寿命というものがあるのかと。果たして、
【俺は死ぬことができるのか】と。
俺は今夜も試すのだろう。
もうボロボロになった俺の実体を押入れから取り出して、俺の足元に起き、俺の影としてくっつけてみることを。
(了)
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