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VC Finance/ダウンラウンドは希釈化防止条項が発動…ではない?

VCファイナンスのダウンラウンド。希釈化防止条項によって既存投資家が保護される・・・が教科書的回答。でも現実はそうはならない?という実務目線での話を書きました。

ダウンラウンドって何?

VCファイナンスでのダウンラウンドとは、ざっくりいうと「新しいラウンドでの一株あたりの価額が前のラウンドの時よりも低額で優先株式を発行する場面」です。

ダウンランドの例
  シリーズA:一株$2で優先株発行
  シリーズB:一株&1で優先株発行

ダウンラウンドは、上記例でいえばシリーズB発行の場面です。これが起きると、上記例のシリーズAの一株あたりの価値が減少します。

VCファイナンスは、スタートアップが右肩上がりで成長することが前提の投資です。なので、ダウンラウンドが起きると、何らかの要因で会社が上手くいっていないということになり、様々な問題が生じます。

理論上は、希釈化防止条項が発動する

ダウンラウンドの場合、一株あたりの価値が減少する優先株式について、定款で定められた希釈化防止条項が発動します。
希釈化防止条項は、ダウンラウンド発生の場合に、既存投資家の一株あたりの価値の減少を防ぐ仕組みです。
希釈化防止条項が発動すると、ダウンラウンドの影響を受ける既存投資家の持株数が自動的に増加し、希釈化が防止または軽減されます。
(具体的にはどういう条項?という点は、多数の優れたWeb解説記事がありますので、そちらをご参考ください。例えばこちらの喜多野弁護士の記事はおすすめです:https://business.bengo4.com/practices/935


でも実際は、希釈化防止条項は発動しない?

もっとも、実務上は、既存投資家は「希釈化防止条項があるからダウンラウンドも安心♪」なんて普通はなりません

その理由は、今回のラウンドで新規投資家が投資条件として求めてくるPay-to-play

これは、新規投資家がダウンラウンドで投資をする前提として新たに(※1)求める、「前のラウンドの既存投資家は今回のラウンドでも投資せよ。さもなければ既存投資家は優先株主としての(全部または一部)権利を放棄せよ。」という条項です。

(※1:シリーズAなどの当初から規定されることもありますが、稀です。)

ダウンラウンドは会社の今後の継続成長に疑義がある状態であり、また市況も悪化していることが多く、新規投資家を集めるのは容易ではありません。
こうした会社の危機的な場面でも投資をしてくれる新規投資家は、投資交渉上非常に優位な立場にあります。
その結果、新規投資家は「〇〇という条件を飲まないなら私は出資しないよ(=そうすると貴社は潰れるかもよ?それでいいの?)」などと、様々な厳しい条件を提示してきます。

Pay-to-playはその一つです。

典型的には、今回のラウンドで出資しない既存投資家の優先株式について、

「Strongman Pay-to-play」
  普通株式への強制転換
「Shadow preferred Pay-to-play」
  希釈化防止条項(と優先分配請求権)が無い優先株式への強制転換

のいずれかが新規投資家から求められます。

その場合、新規出資しなかった既存投資家は、希釈化防止条項等による保護を受けられなくなります。


新規投資家はなぜ既存投資家のPay-to-playを求める?

情報の非対称性

既存投資家と新規投資家には大きな情報の非対称性があります。
既存投資家はすでに会社の内実を派遣取締役やオブザーバーを通じて知り尽くしています。そんな中、既存投資家が新規ラウンドで「私は投資したくありません」というのはつまり、会社に何か新規投資家が知らない更なるネガティブな問題が潜んでいるからでは?と疑わしい。なので、新規投資家は「既存投資家も投資しないなら、それは私が知らない不利益が会社にあるサインかもしれない・・・なら、その不利益リスク分、新規投資家の私が有利になるように取り扱ってくれ!」と、Pay-to-playを求めるのです。

既存投資家の「本気度」を見る

新規投資家は、既存投資家がダウンラウンドのような会社の苦境でも会社を継続支援していく心構えがあるのかに重大な関心があります。そのため「ダウンラウンドである今回のラウンドでも資金拠出して、会社に対するコミットを強めてください。」という趣旨でも、Pay-to-Playが求められます。


既存投資家はどうすればよい?

拒否権条項(Protective Provision)の行使

「新規のラウンドによる資金調達は既存投資家の過半数などの承認がなければ実行されない」との拒否権条項があるのが一般です。
また、特定のシリーズの投資家が不利益を受ける場合は、当該シリーズの投資家の過半数などの承認も別途必要になるというアレンジもよく見られます。

でもそれは交渉力学上難しいかも

そのため、既存投資家としては、これらの拒否権条項を行使して、そもそも新規投資家による今回のラウンドでの出資を認めないという対抗手段があります。
とはいえ、ダウンラウンドが生ずるような事態では、新規の資金調達が奏功しない限り会社が立ちいかなくなる(すなわち、既存投資家の株式も無価値になりうる)ことが多いので、交渉力学上、既存投資家は不利な地位にいます。ですので、実際上は拒否権条項を行使して新規ラウンドを拒むのは容易ではない場合が多いと思います。

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