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雨に唄えば  1952MGM

いつごろ見たんだろう。70年代の終わりかな? それでも公開されてから20年以上経過していました。もうその時には名作と呼ばれ、ミュージカルの面白さを伝えてくれていたけれど、少し忘れられていたような気がする。

主役のジーン・ケリーさんの「巴里のアメリカ人」1951は、アカデミー賞の作品賞を取っています。その勢いで作られたこの作品は、素敵なメロドラマだったし、歌と踊りは素晴らしかったのに、当時は評価されなかったでしょうか。それなりに評価されてたのかなあ。でも、ミュージカル映画は作られなくなっていました。仕掛け人がいなくなってたんでしよう。

けれども、もうクセになる味があったのです。私がテレビで、たぶん、フジ系列のゴールデン映画劇場で見せてもらった時、「何て、軽やかで、映画を作る人たちの生き生きとした感性があるのか」と感心したものでした。たぶん、感動して泣けたかもしれない。なんてシンプルで最後の逆転劇もうれしかったりしたはずです。

映画を初めて見てから40年以上経過しましたけど、今も、私の心の中に生きている映画なのです。こんなにいつまでも、どこででも映画世界が広がっていく作品って、そんなにないような気がします。そして、たぶん、ずっとこれは私が保持していく世界なのだと思われます。もう何十年も私の財産として心の中にしまってある映画です。

ジーン・ケリーさんとの出会いの場面で登場するデビー・レイノルズさんです!

映画の大スターのジンー・ケリーさん(映画の中ではドン・ロックウッド)は、みんなからチヤホヤされていますが、何となく映画のお仕事にウンザリしていたところでした。なにしろ、映画はサイレントの時代で、どんなに現場で演技をしたとしても、ちっとも自分らしさが出せていないし、虚像そのものだったのです。

もっと本当の演技がしたいと思いつつ、いつも通りのワンパターンで映画を撮っていた。ある夜、関係者のパーティーに出かける時、たまたま乗り合わせたクルマがあって、そのクルマの運転をしていたデビー・レイノルズさん(彼女はキャシー・セルドンという役柄です)に出会います。でも、彼女は「映画なんて、まるで動く紙芝居だし、その表情もつまらない」なんて言ってしまうのです。彼女は、ドンさんを乗せてるなんて思ってなかった。

プライドを傷つけられたジーン・ケリーさんは、君は何なんだい? と質問するのですが、彼女はしがないダンサーで、パーティーに呼ばれて「All I Do is Dream of you」なんて歌っていたのです。なかなかキュートな一場面なのですけど。

さあ、こうしてたまたま皮肉な出会いがあったけれど、時にトーキー映画というものが現われ、どこの会社もトーキーを作ることになった。1928年あたりなのか、だいたいそんなころです。

ジーン・ケリーさんたちは、騎士道映画を撮ってはいたけれど、いつものサイレントだったし、ヒロイン役のリナさん(ジーン・ヘイゲンという女優さんです)は恐ろしく悪声で(わざと甲高くしていたのかなあ?)、とてもヒロインとして似つかわしくない。それで、レイノルズさんが声だけ吹替をすることになり、見事に映画は、会社初のトーキー映画として作り替えられ、試写会となるのです。

そこで、試写会の観客たちは、リナさんにライブで歌って見せてとカーテンコールをして、みんなの前でレイノルズさんがすべて歌っていたのがわかってしまい、とうとう二人は、堂々と映画の中で演技することができるようになるという、うまくハッピーエンドになる作品です。


有名なテーマソングと土砂降りの中を踊りまくるシーン

この有名なシーンは、みんなで徹夜してどんなにして映画を作るか、いかにしてアフレコをやるのかという、みんなで語り合い、二人の互いの感情を確かめあえて、彼女を家まで送った後のしあわせな場面でした。

こんな雨だって降れ! ボクはしあわせだ、なんていう気分、なかなか味わえないけど、私にだってあったような気がしますよ。そんな場面でした。

サントラも持っています。DVDも持っています。でも、なかなか聞くことはありません。とはいうものの、簡単に脳内再生はできるし、ずっと幸せな感じに包まれちゃいますよ。

ドンとキャシーの恋愛が軸ではありますが、一緒に映画を作る仲間のドナルド・オコナーさんも軽妙な味だし、ダンスシーンで突然出て来るシド・シャリースさんも怪しい魅力だし、いろんな要素の詰まった映画なんです。今もサントラ聞いてたりするけど(W・アレンさんの三枚組の中に入ってます)、こういう古典を広めなきゃいけないと思うなあ。