ギュスターヴ・ル・ボン「群衆心理」 美徳

それゆえ、低級な本能にしばしば身を任せる群衆は、ときには、高尚な道徳行為の模範を示すこともある。無私無欲、諦め、架空のまたは現実的な理想への絶対的な献身などが、道徳上の美点であるならば、群衆は、最も聡明な哲人でもめったに到達できなかった程度に、これらの美徳を往々所有するものであるといえる。多分、群衆は、無意識にそれらの美徳を実践するのであろうが、それは問題ではない。もし群衆が、しばしば推理をし、直接の利益を打算するようであったならば、おそらく地球の表面上に、どんな文明も発達しなかったろうし、従って、人類は、歴史というものを持たないことであろう。


ギュスターヴ・ル・ボン 「群衆心理」

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